参院選における「3対14」について考える
B 3対14というのは、7月20日投票の参院選でのれいわ3と参政党14の獲得議席数ですが、この差は現代の政治状況の何を示しているのか、ということを考えてみたいと思います。
左の表は党派別獲得議席数ですが(東京新聞7.22日付)、参政党は1から14へと、14倍増です。選挙がはじまったころの神谷宗幣代表の予想は6議席程度だったのに、それを大幅に上回りました。
この「あっと驚く」躍進ぶりは、昨年11月の兵庫県出直し知事選を思い出させますね。議会から不信任決議をされた斎藤元彦知事が再び立候補し、選挙前の予想を覆して再選されました。最初はほとんどの人が彼が再選されるとは思ってもいなかったわけですが、街頭演説に集まる兵庫県民の姿がしだいに増え、わずか17日の選挙期間中に「あっと驚く」逆転をしました。
これについては「なぜ兵庫県民は斎藤知事を再選したのか」(『山本太郎が日本を救う④れいわ躍進 膨らむ期待』所収、アマゾンで販売中)で詳しくふれています。彼を再選させた理由として「マスメディアが言うこととは違い斎藤知事は悪くない」という情報がSNSで広まったこと、N党(NHKから国民を守る党)の立花孝志氏が「当選をめざさない立候補」で斎藤知事を応援、触媒役を果たしたことを上げています。我々としては、「わずか2週間余の選挙期間中に世論の流れが急転回した」ことに驚くと同時に、その素地を生んだスマートフォンを通したSNS情報の威力に危惧を感じたわけです。
今回、参政党に票を投じた人はどういう人たちなのか。これはいずれ詳しい分析が行われるでしょうが、とりあえず①30代や40代も含めた若者層の票が多い、②自公、立憲民主、さらには共産党まで、既存政党の票が参政党や国民民主党に流れた、③投票率が58.51%と前回の52.05%を6ポイント以上も上回ったのは、若者層の政治参加を促した結果だと思われるが、その多くが参政党や国民民主に流れた、ということが言えると思います。
A 日ごろスマートフォン上のSNSに親しみ、新聞やテレビをほとんど見ない人が、参政党に投票したんじゃないですか。そういう意味では既存政党の衰退やマスメディアにおけるジャーナリズムの衰退と根っこは同じ気がしますね。
B 兵庫知事選ではマスメディアの情報が不十分だったために、人びとはSNSに真相を求めた面があったと思うが、今回は様相がだいぶ違いました。選挙の争点が参政党の「日本ファースト」にあおられた形で外国人問題にそらされ、しかもマスコミがそれに乗っかかって、その種の報道ばかりしたのが、参政党に大きな追い風になったのだと思います。山本太郎が「マスコミの争点そらし」を強く批判していたのは、そのことです。
日本経済がここ30年以上疲弊して、国民の生活水準は押しなべて低下しています。そこへ、円安を利用して海外から多くの観光客が訪れ、そのためにホテル代が高騰するなど国民生活に影響を与えているし、外国人が引き起こすトラブルも報道されています。そういう漠然とした国民の不安が参政党の「日本ファースト」に引きつけられ、一気に排外主義的というか、保守的モードに流れた。兵庫県知事選で立花孝志氏が果たした触媒役を、きちんとした選挙報道を怠り、参政党の実態についても十分な報道をしなかったマスメディアが果たしたと言えなくもないですね(意図しているかどうはともかく)。
A 一時、日の出の勢いだった維新には陰りが見えています。だから参政党もそのうち退潮に向かうだろうと楽観する意見もありますが、そのときは、また別の政党が出てくる可能性を否定できない。都知事選における石丸(伸二)ブーム、兵庫県知事選のどんでん返し、今回の参院選における参政党躍進――、同じ流れに乗った一連の動きのように思えます。
・空洞に落ち込んだ日本の民主主義
B 前回、参政党の憲法構想案のアナクロニズムについてふれましたが、こういう政党が国会で15議席も得て、法案提出の権限を獲得しました。ヒトラーのナチス台頭を持ち出すまでもなく、日本の民主主義はいま大きな空洞に落ち込んでいるように思いますね。
A 友人がこんなことを言っていました。
参政党の正体や憲法草案や言動なんか関係ないんですよ。ワンイシューが気に入ったら盲目的に「推し」てしまう。私の周辺でも参政党に入れ込んだ人びとは、「子ども1人に付き毎月10万円支給してくれるなんてスゴイ!」、「最近、外人が増えてイヤだ、参政党に追い返してほしい!」など、そんなワンイシュー亡者なんです。
参政党躍進を後押ししたのは財務省だという人もいます。参政党がこれからの政局で消費税ゼロあるいは減税を主張するとは思えないですね。前川喜平さんが投票日のⅩ(旧ツイッター)に「神谷宗幣(同党代表)は日本の恥だ。(自民党の)西田昌司(氏)も杉田水脈(氏)も日本の恥だ。それが分からない有権者も日本の恥だ」と書いたら、数百万の反応があったらしい。ついでに言えば杉田水脈氏は落選しました。参院議長をつとめた山東昭子氏も。彼女は現在83歳ですよ。立候補するのがおかしい。
B 前川ツイートは新聞などでも取り上げられましたが、これを報じたヤフーニュースに対する前川批判のコメントがまたすごい。「自らの意向に沿った選挙結果にならなかったからといって、 民主主義の根底である民意を無視し、 有権者を愚弄すべきではないのではないのでしょうか」というのもあったけれど、「民主主義の根底である民意を無視した」などと居丈高に大義名分を掲げる人が最近増えているのは大いに気になりますね。
A 前回、れいわにしようか、参政党にしようかと迷っている人のことにふれたけれど、開票結果を報ずる東京新聞にも、悩んだ末に比例は「参政党」にした人を紹介していました。れいわと参政党の区別ができないということが不思議なんだけれど、そこには世論調査ばかりやって、何の主張もしない、あるいは参政党の危険な体質にふれないマスメディアの報道の仕方も大きく影響していると思いますね。
B れいわは前回より1議席多い3議席を獲得しましたが、予想に比べると、たしかに期待外れでした。大きく括ったリベラル勢力という側面で考えると、野党第一党である立憲民主党は横ばい、共産党は議席減です。それから見ると、れいわはわずか1議席増ではあるが、比例特定枠の伊勢崎賢治氏の当選など、それなりの実績を獲得したとも言えますね。社会民主から立候補したラサール石井氏や、みらいの党のIT技術者、安野貴博氏の当選も明るい側面です。N党、再生の道は当選者なし、保守党からは北村晴男、百田尚樹の2人が当選しました。
れいわが比例区で獲得した票を過去と比べてみると、2022年参院選は231万9156票、今回は387万9914票で、れいわ支持者は着実に増えています。全体に占める得票率でみると、4.4%、6.6%となります。ただし前回(2024年)衆院選の比例得票数380万5060票からすると、あまり増えていません。これに比べ参政党の得票は742万5053票で、れいわの2倍近い。今回は投票率が高かったことをあわせて考えると、若者票がかなりれいわから参政党に流れたと考えた方がいいですね。れいわが掘り起こしてきた政治的無関心層、若者層が、あるときは石丸候補に、あるときは参政党に流れているわけです。
A 社会全体の保守への回帰は否定しようがないですね。保守的思考自体は必ずしも悪いとは思わないが、似非保守が跋扈しているというか‣‣‣。立憲も自民と同じく高齢者に支えられているわけで、若者層全体で見ると、総保守化の傾向が見られます。その中でれいわが1議席増だったことは、よくやったと言えなくもない。
もう1つ、参政党の当選者14人のうち7人、国民民主17人中5人が女性です。既存政党との対比で言うと、女性の比率が高い。今回の参院選では女性が42人当選し、過去最高だと言われています。女性議員が増えることは歓迎ではあるが、参政党当選者の半分が女性というのはどう考えるべきでしょうね。
B れいわとしてはあまり焦らず、我が道を着実に歩んで行くのがいいと思いますが、参政党は法案提出の権利も獲得しました。さっそくスパイ防止法案を提出するとか言っていますが、この参政党に自公、維新、国民民主、さらには保守党も合流すると、世の中、一気にきな臭くなりますね。
今回の参院選ではスマホやSNSがいよいよ現実の政治に大きな影響を与えていること、そういう状況下でマスメディアはいよいよその力というか見識を失っていること、そのため日本の民主主義は大きな岐路に立っていることを浮き彫りにしたのではないでしょうか。