新サイバー閑話(127)<折々メール閑話>68

フジテレビの恐れ入った体質と日本の現状

B タレント中居正広氏のフジテレビ女性アナウンサーに対する性加害を調査していた第三者委員会(竹内朗委員長)は、3月31日、報告書を発表しました。その骨子は、①女性アナウンサーは「中居氏によって性暴力 による重大な人権侵害被害を受けた」、②事件はフジテレビの「業務の延長線」上で起きたことが明らかである、③事件後、フジテレビは被害女性より中居氏を守り、彼を番組に起用し続けたが、これは女性に対する「二次加害」である、とフジテレビの「人権無視」の体質を明確に示し、それを強く批判するものでした。
 同報告書は、「港社長ら3名(編集部注:港浩一社長、多田亮専務、編成制作局長)は、性暴力への理解を欠き、被害者救済の視点が乏しかった。 本事案の対応方針について意思決定する経営トップ、役員、幹部は、事実確認、リスク の検討、性暴力被害者支援と人権尊重責任の視点でのケアと救済を行うなどの適正な経営判断を行うための知識、意識、能力が不足していた」、「女性Aに寄り添わず、漫然と中居氏の出演を継続させることによって女性Aの 戻りたい職場を奪い、中居氏の利益のためとみられる行動をとったことは、二次加害行為 にあたる」などと断じています。
 またフジテレビの「一部には、社員・アナウンサーらが、取引先との会合において、性別・年齢・容姿などに着目され、取引先との良好な関係を築くために利用されていた実態はあった」として、女子アナなどを本来の業務より顧客、あるいはタレントなどの接待要員として使っていた同テレビの常識外れの体質についても言及しています。

A 昨年暮れ以来の『週刊文春』の報道は大筋で正しかったですね。社員が外部の人間から危害を加えられれば、身内のために外部と対決するのが普通なのに、これがまったく逆だった。社長、専務、編成制作局長というラインで話は進んだようだけれど、その意を呈して動いた人は多かったでしょうねえ。そういう意味では会社ぐるみの犯罪です。
 同テレビが先に行った記者会見では、事件当日は中居氏が単独で女性に連絡していた一点だけを誇張し、「フジテレビはこの件に関知していない」と強弁していたわけですから、もうクソ喰らえという感じです。日枝氏の独裁君臨を許してきたことが問題の核心だと思います。組織というのは厄介なものですね、誰もが我が身かわいさで、反旗をひるがえすこともなく、大勢順応してしまう。

B フジテレビは前日の27日、日枝久取締役相談役および16人の取締役の退任を発表しています(表は日刊スポーツから)。あわせてフジの取締役数を10人に半減、1月に就任したフジの清水寛治社長が続投し、フジHD(ホールディングス、親会社である持株会社)の社長も兼任、フジHDの金光修社長は代表権のない会長につきました。
 さらに系列局の関西テレビ社長に転じていた元専務、多田亮氏も4日に辞任しました。これで従来の経営陣はほとんど退任、新たに女性取締役を増やしたり、若返りを図ったりしています。石原正人常務や反町理取締役は、第三者委員会報告で過去のセクハラ事案が改めて認定され、この種の問題を抱えていても出世していくフジの体質を証明することになりました。

A これは刷新人事と言えるのですかね。斎藤、金光両氏は日枝氏に重用された人だけに古いしがらみを断ち切るのは難しいのでは。

B 第三者委員会報告は結語で「これからの企業経営は、ライツホルダーの人権尊重と人的資本が一つの基軸になると思われる。社員が人権侵害を受けても、声を上げることができる、救いを求めることができる職場、みんなが前を向いていきいきと能力を発揮できる働きやすい職場でなければ、その会社に未来はないだろう」と述べているけれど、清水社長、金光会長とも日枝体制を支えた人材であり、過去のしがらみを断ち切ろうとしても、なかなか難しいでしょうね。
 今回のフジの人権無視体質は聞きしに勝るものだった。ちょっと古い話になるけれど、かのフランス革命で王が断頭台に送られたとき、「罪失くして王たりえない」と言った人がいます。王であることそのことが罪の証なのだというラディカルな主張だけれど、フジテレビではまさに「まともな人権意識をもっては役員たり得ない」ということだったように思えますね。
 反町、石原という報道出身の人間が日枝体制に迎合し、ジャーナリストを名乗りつつおよそジャーナリストらしからぬ役割を演じたことはまことに遺憾ですね。反町氏は担当していたBSフジの「プライムニュース」への出演を見合わせると発表されました。バラエティ主導の局内で報道は片隅に追いやられているように外部からは見えたけれど、そういうテレビ局をむしろ下支えしていたのが報道人だったということになるわけですね。多田氏も報道の出身です。

A 6月の株主総会で退任予定とされている吉田真貴子(山田真貴子)氏は総務省からの天下りで話題になった人です。総務省は3日、フジテレビとフジHDに対し、放送法を踏まえた厳重注意の行政指導を行ったと報じられましたが、吉田真貴子氏はフジ取締役としてこの間、何をしていたのか。まあ、何もしてなかったのだろうけれど、こういう天下りの実態こそ改めるべきですね。

B 貴兄が好む「男一匹、体を張って生きていく」のとはまるで違う「男の世界」が蔓延していたわけですね。まさに「組織の悪」だと言えるけれど、この体質は、何もフジテレビやエンターテインメント業界だけの話でもない。弱者は切り捨てられ、人権が平然と無視されているのが現代日本の現状です。
 たとえば最近、各地で繰り広げられた「財務省解体デモ」、農家が怒りの声を上げて都内にトラクターを持ち込んだ「令和の百姓一揆」など、切羽詰まって立ち上がった人びとが抗議の声を上げていますが、大手メディアではほとんど報じられていません。女性アナウンサーの声を無視してタレントを守ろうとした体質と、貧苦に悩む国民の声を無視する政治とは重なりますね。
 フジテレビ問題も既存メディアは率先して報道してこなかった。ジャニーズ問題、松本人志問題、いずれも性加害に関わるもので、報道しにくい面がないわけではないが、そこに重要な問題が内在していたわけで、これを暴くのはもっぱら週刊誌だというのは、ジャーナリズムのあり方として大いに考えさせられます。フジテレビが組織として抱える問題は、この国の問題であり、もっと言えば、我々自身の問題なのだと、今回の報告書を見て、大いに忸怩たるものを感じました。

A 令和の百姓一揆にはれいわ新選組の国会議員がたくさん参加していました。れいわの弱者に「寄り添う」姿勢がよく表れています。週刊誌の『サンデー毎日』が2週続き(3月23日、30日号)でれいわ特集をしていました。山本太郎インタビューも含めた大々的なもので、次期参院選での躍進がいよいよ現実味を帯びてきたようです。

 

 例によっての㏚です。
 本<折々メール閑話>を定期的にまとめている『山本太郎が日本を救う』シリーズの第4集、『れいわ躍進 膨らむ希望』が発売になりました。収録した<折々メール閑話>は2024年6月25日から2025年2月14日まで。紙の本、電子本ともアマゾンで発売中です。従来と同じく、紙は1300円、電子本は600円(+税)です。次期参院選でのれいわ躍進が大いに期待されている折でもあり、改めてご一読いただけるとありがたいです。既刊の1~3巻も発売中です。

 目次は以下の通りです。

PARTⅠ <折々メール閑話>
「終わりの始まり」の予感、あるいは期待 54
「集団的自衛権の行使容認」から10年 55
小池3選と健闘した石丸候補の危うさ 56
「激変」が可視化しさせた「明るい闇」  57
地に落ちて破綻したリテラシーの復権 58
日本の現状をよく考えて行動する秋! 60
自公過半数割れ、れいわは9議席獲得 61
なぜ兵庫県民は斎藤知事を再選したのか 62
山本太郎、「れいわにかけた」思いを語る 63
SNSが社会を、政治を動かし始めた 64
Online塾<ジャーナリズムを探して> 65
「公共放送」から逸脱したフジTVの悲惨 66
強者と弱者の亀裂は日米とも変わらない 67
PARTⅡ 補遺
<1> <ジャーナリズムを探して>趣意書
<2>唐澤豊さんをしのぶ Online塾DOORSから
第48回(2022.10.12)メタバース
第54回(2023.2.13)ChatGPT
第56回(2023.3.22)情報通信講釈師登場
第75回(2024.6.14)IT最前線
第79回(2024.9.30)レプリコン・ワクチン