新サイバー閑話(49)<折々メール閑話>②

山本太郎は男でござる

B は~い、こんばんは、またお会いしましたね。

  今日は映画ではなく、ほんとの話です。れいわ新選組の山本太郎代表がつい半年ほど前に獲得した衆院議員を、なんと辞職しました。どうしてそんなもったいないことをするんでしょうねえ。ちょっと驚きましたねえ。

 実は、太郎さんは6月の参院選が日本の将来を占う重要な一戦になると考えているんですね。どういうことでしょうか。記者会見でこんなことを言っています。

今度の参院選のあと3年間は、衆議院が解散されない限り国政選挙はなく、この参院選でいまの勢力分布が変わらないと、与党自民党にとっては消費税増税、改憲、防衛費増額、福祉切り下げ、何でもできることになる。だからいまこそ野党勢力を伸ばさないといけないのだが、野党陣営にそういう緊張感がない。だから自分は衆院議員の議席を捨てて参院選に打って出る、そのことで野党の沈滞ムードを打破したい。

 そういうわけで、いかにもいかにも、立派な決意ですねえ。

A 迫力満点、男ならしびれます。男の中の男ですね。正に捨身。無私無欲。あるのはこの国を変えたい一念のみ。こんな政治家が他にいるか! ええぞ、健さん。

B やはり映画の話になりましたねえ。高倉健もいいけれど、西部劇『真昼の決闘』の孤独な保安官、ゲーリー・クーパーもいいですねえ。美しい妻と結婚式をあげ、新婚旅行に出かけるときになって、かつて自分がつかまえた3人のならず者が街に戻ってくることになりました。タイミング悪いですねえ、あと一瞬知らせが遅ければ、何も知らずに新婚旅行を楽しめたのに、結婚式を終えて馬車に乗ろうとしたときに電報が届きます。

 ちょっと、写真見せてください。  

 奥さん役のグレイス・ケリーがきれいですねえ。この方は後にモナコ王妃になりました。クーパーも渋いですねえ。なんとなんと、彼は新婚旅行をやめて3人に対決する決意をしました。
 そのとき街の人はどうしましたか。クーパーがともに戦ってくれると思っていた人びとが次々に下りてしまいます。友人の一人で、ジョン・フォードの名作『駅馬車』で酔いどれ医者を演じたトーマス・ミッチェルがいい味を出していました。この人はフランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生』でも、物忘れの激しい主人公の叔父役を好演しました。

 ハイ、カメラさん、ありがとうございました。

 その友人がこう言いますねえ。「お前は新婚旅行に行けばいいんだよ。なんでとどまるんだ」。お前が戻ってくるから話が面倒になる、後のことはみんなで適当にやるから、と。

 このあたり、山本太郎の状況とだぶりますねえ。

 多くの人がこう言いましたよ。「衆議院で山本太郎に投票した人の気持ちを考えたことがあるのか」、「議員としての責任回避ではないのか」。

 太郎さんは言ってます。

衆院選で私は比例区で当選しました。比例区は山本太郎ではなく、れいわで投票してもらったから、私が衆院議員を辞めても、次点だった櫛渕万里さんが繰り上げ当選するので、れいわの議席が減るわけではありません。
だれも好き好んでせっかくもらった議員バッチなんかはずしませんよ。いまは大事な時期だから、私はもう一度、れいわの先頭に立って旋風を起こし、少しでもれいわの票を獲得、沈滞ムードの政局に風穴をあけたいんですよ。

 たしかに捨身ですねえ。空気を読みませんねえ。しかし西部の街の人びと同様、世間の風は冷たい。なんで新婚旅行に行かないんだ、いや、なぜ衆院議員をやめるんだなどと言ってますねえ。太郎さんの熱意に共感するような記事は新聞に出ず、テレビのドキュメンタリーで取り上げられることもないですねえ。これが映画なら、多くの人が拍手を送るところですねえ。

 クーパーは悪漢3人にたった1人で立ち向かい、見事にやっつけました。最初は夫の無謀な戦いに愛想をつかして汽車で去ろうとしていたグレイス・ケリーも車内でピストルの音を聞いた途端、無我夢中で汽車を降りて夫の戦いの場に戻り、夫の窮地を救いました。

 戦いが終わった後で街の人が集まってきますが、クーパーは保安官のバッジを捨て、拳銃も捨てて、少年が用意してくれた馬車に乗って街を去っていきます。敢然と闘う保安官を好演したクーパーはアカデミー主演男優賞をもらいました。

A 山本太郎は、役者として何不自由なく暮らせる生活をさらりと捨て、3年前にたった1人でれいわ新撰組を立ち上げました。何のため? この国を救うため。経済的にも衰退し、今や正義も無くなり、党利党略、利私欲のみの政治屋から日本を取り戻すためですね。

 だから今回の参院選は正念場です。知り合いの女性に山本太郎の記者会見の動画を送ったら「山本太郎は何でここまで頑張るのか。もうそんなに頑張らんでもいいよ〜って言いたくなる。バカな国民と政治家のために」という返信が来ました。

 しかし山本太郎も孤独ではない。『昭和残侠伝』シリーズの一つで、池部良が健さんに言います。「ご一緒、願います」。 こんなツイートもありました。「れいわ新選組山本太郎の衆院辞職には驚いたが、最も驚いたのは、参院選の比例区ではなく、負ければ終わりの『選挙区』から立候補することだ。背水の陣を敷くことで、今の自公維政権との対決姿勢を国民に分かりやすく示している。他の野党に今決定的に足りないのはこの政治的情熱ではないか」。

 若者がつくったらしい「れいわ応援ソング」もあります。

B ちょっと話が急転しますが、ダンテが『神曲』で描いた地獄は、すり鉢状をしていて、罪を犯した人びとの魂は、下に行くほど過酷な責め苦にあいますが、入り口の地獄の門付近に、地獄に堕ちるほど悪いことをしたわけでもなく、かと言って善行もしなかった「怠惰」な人びと、日本ならさしずめ沈香もたかず屁もひらずというような人びとが置かれている場所があります。そして地獄の門には「われを入るものは一切の希望を捨てよ」と書いてあるんですねえ。

 日本の将来に希望があるのかないのか。そう考えると、今日の話は、ほんとうは怖いコワい話でしたねえ。 

 もう時間来ました(^o^)。これは2022年5月の現実です。

 それでは、またお会いしましょう。さよなら、さよなら。

 写真は上から『真昼の決闘』のポスターから、グレイス・ケリー、
『昭和残侠伝』のポスターから、ボッティチェリが描いたダンテ『神曲』の地獄
(いずれもウィキペディアなどのウェブから借用。お礼申し上げます)

新サイバー閑話(48)<折々メール閑話>①

古典落語でござる

A 冒頭から嘆き節になりますが、日本人の劣化はここまで来たかと脱力しました。自民党議員が「ウクライナが日本に感謝していないのはけしからん」とツイッターした話です。みっともないの一言。これに対して、落語の「文七元結」を聞け!というきわめてもっともなツィートがあったのは救いでした。

 実はもう一つ、日本人の劣化を象徴する記事を先日の新聞で見つけました。どこかの地方自治体の担当者が困窮家庭向け支援金10万円、総額四千数百万をあやまってある個人の口座に振り込んでしまったのですが、その人はなんと変換を拒否していると。そもそも自治体職員の怠慢というか、無神経さに呆れるしかないのですが、この人にも志ん朝の「文七元結」を聞け!と言いたい。

 日本人は古典落語を聞かなくなってから、間違いなく馬鹿になりましたね。先程、改めて聞きましたが、ここにこそ、原日本人がいると思いました。

B この誤振込事件を聞いたとき思い出したのは、銀座で1億円だかの入った紙袋を拾って警察に届け、持ち主が半年たっても現れずに、そっくりもらえることになったタクシー運転手の話です。

 持ち主が現れた場合でも、慣行(どういう根拠かわからないけれど)によりその1割、1000万円はもらえるわけで、大金ではそうはいかないかもしれないが、とにかく、これは届けるに越したことはないわけですね。

 自分の通帳にたまたま1億円があやまって振り込まれたらどうするか、これを正直に申告した場合、送信した人は1割をくれるかどうか、ここは微妙ですね。そんなもの返すのが当たり前だと、左官の長兵衛さんなら言うだろうけれど、いまの役所の人が正直者の長兵衛さんにいたく感動して、「少ないですが、1割の謝礼を受け取ってください」、「べらぼうめ、国の大事なおかねじゃねえか、こちとら江戸っ子だい、そんなものを受け取ったら、近所の連中になんて言われるかわかっちゃもんじゃない」、「そう遠慮されても困ります。もともと私のお金でもないんで」、「じゃあ、家族会議をして‣‣‣、受け取ってもだれにも言わないでくださいよ。あっしが国のお金をくすねたなんて言われると、こまるんでねえ」‣‣‣、四千数百万円なら1割で四百数十万円だが、それを払うと役所が言えるようにも思えないし、まず何よりも、そういう素朴な道徳を失わせてしまう社会状況というのがあるのも確かですねえ。

 以前、白井聡が何かの本で「いまの若者は寅さんがおもしろいということがわからなくなっている」と書いているのを2人で話題にしたことがあったけれど、江戸っ子の啖呵の世界が懐かしいですね。ちなみに僕も「文七元結」は志ん朝ものを聞いているけれど、何度聞いても面白い。これを歌舞伎にした舞台を見たことがあるけれど、案外つまらないのでびっくりしたことがありました。

 おあとがよろしいようで。

新サイバー閑話(47)<令和と「新選組」>⑦

新庄剛志と山本太郎

 プロ野球日本ハムの新監督に新庄剛志が就任することになった。元阪神や日本ハム、米大リーグで活躍した個性豊かなこの人が「監督」になったのは大方の意表をつく出来事だと思うが、「正直、自分が一番びっくりしている。僕でいいのかなという思いの半面、僕しかいないなって。日本ハムも変えていくし、プロ野球も変えていくという気持ちで帰ってきた」という就任の弁はさわやかである。「これからは顔を変えずにチームを変えていきたい」とも言ったらしい。

 数年のブランクを経て国会に戻ってきた山本太郎には将来の総理をめざしてほしいが、新庄の語り口をまねれば、「ぼくでいいのかなという思いの半面、僕しかいないなって。国会も変えていくし、日本も変えていくと」という気構えで。

 前回、山本太郎およびれいわ新選組に対するメディアの取り上げ方がずいぶん控えめだったことにふれたけれど、11月6日の東京新聞におもしろい記事が出ていた。

 選挙期間中、ツイッターで各党首の投稿がどれだけリツイート(転載)されたかを調べた調査によると、れいわの山本太郎が18万7000回で圧倒的に多く、ついで共産党志位和夫委員長4万1000回、自民党岸田文雄首相3万6000回、国民民主党玉木雄一郎代表3万5000回などとなっている。立憲民主党の枝野幸男代表は1万8000回と少なかった。

 ツイッターに投稿した回数自体が、山本太郎167回、志位和夫120回、岸田文雄77回などと山本太郎が圧倒的だった面もあるし、転載は支持者間だけに止まっている傾向も強く、これらの数字が主張が広がったという意味での「拡散力」を示しているとは必ずしも言えないけれど、ネット空間におけるある程度の人気のバロメーターにはなっているだろう。

 新庄の去就に多くのメディアが集まったように、多くのメディアの目が今後は山本太郎およびれいわ新選組の行動に注がれてほしいとふと思ったのである(敬称略)。

新サイバー閑話(46)<令和と「新選組」>⑥

れいわの時代が始まる!

 今回の総選挙で、山本太郎をはじめとして、れいわ新選組の3人が議席を得たことは大いなる朗報だった。

 選挙結果全体をみれば、56%に満たない低い投票率はともかく、その中での自民党の安定多数確保、立憲民主党の大幅議席減、日本維新の会の議席3倍増と、野党共闘がさっぱり振るわず、むしろその票が維新に流れた構図で、維新を自民党の補完勢力と見れば、むしろ現政権の基盤は強まったとさえ言えるだろう。

 コロナ対策の不手際、相変わらずの金権体質、不誠実な政治姿勢などから、久しぶりに政権交代も話題になった選挙前の空気からすると、意外なほどの尻すぼみである。野党共闘不振の原因が野党第一党たる立憲民主党の枝野幸男代表にあるのは間違いないだろう。得難いチャンスを逸したわけだが、選挙直前にれいわの山本代表がいったん東京8区から立候補すると宣言しながら直後に取り消し、比例に回った経緯の中にも、枝野代表に野党共闘をまとめる度量も見識(ビジョン)もなかったことは明らかなように思われる(共産党との共闘が間違いだったわけではもちろんないが……)。

「枝野は野党のアンシャンレジーム(旧体制)」と言った友人もいた。いま野党(左派)に要請される資格として「想像力」と「創造力」をあげた文化人類学者がいるそうだが、これからの時代を見据えた想像力(イマジネーション)と創造力(クリエイティビティ)を兼ね備えたリーダーは、山本太郎以外にはいないように思われる。だからこそ、山本代表とれいわ新選組の活躍に期待したいが、それ以上に自民党に対抗する野党全体の戦線を組みなおすことが急務だろう。

 それにしても選挙前、選挙中を含めて、マスメディアの報道はれいわ新選組にずいぶん冷たかったように思われる。街頭活動の動画を見ていると、聴衆の山本太郎に対する熱い連帯が伝わってきたし、SNSではいろんなジャンルの識者、タレントがれいわへの応援メッセージを送っていたけれど、そして全体として(選挙区と比例あわせて)れいわは255万余票を獲得しているわけでもあるが、メディアでの露出はあまりにも少なかった。と言うより、れいわが担おうとしている政治活動に関する想像力自体が欠けているように思われた。

 私が駆け出し記者のころ、研修を受けた横浜支局の支局長から「ニュースとは時代の波がしらがはねたものである」と聞かされ、現役時代を通してそれを信条としてきたけれど、この波がしらがはねるのを目撃しながら、それを面白がる野次馬精神がまったく感じられなかったし、ましてや「波がしらをはねようとする」迫力はまるでなかったようである。

 立憲民主党の枝野代表は11月2日の党執行委員会で、敗北した責任をとり辞任する意向を表明、同党は執行部を刷新することになった(3日追記)。

新サイバー閑話(45)

新サイバー閑話再開

 お久しぶり。新サイバー閑話1年余ぶりの再開です。

 もっともここ1年は<Zoomサロン>でOnlineシニア塾活動の報告を行ってきたので、<サイバー燈台>の活動は続けてきました。それはともかく、この激動する社会のただ中で、本流の<新サイバー閑話>のコラムも再開しようと思います。

 とりあえず2つの報告から。

<1> 東山明『健康を守り 老化を遅らせ 若返る』の出版

 インプレスのネクパブ・オーサーズプレスを利用して東山明『健康を守り 老化を遅らせ 若返る』(サイバーリテラシー研究所)を出版しました。

 これはプロジェクト・コーナーの東山明「禅密気功な日々」を再編集して書籍化したものですが、やはりオンラインと書籍との違いもまた明瞭なようです。このシステムを利用すると、やや割高になりますが、自分でWordだけで編集して、それが本になりアマゾンから出版されるというのは、やはりありがたいです。

 私は2009年に『総メディア社会とジャーナリズム』(知泉書館、大川出版賞受賞)を出し、「総メディア社会におけるジャーナリズム」のあり方を考察したことがありますが、当サイバー燈台の情報発信とともに、今回のように、そこにある原稿の書籍化もまたその実践だと考えています。

 ご興味のある方は、ぜひアマゾンでご購入ください。都内神田の三省堂書店などでも販売されます。
健康を守り 老化を遅らせ 若返る | 東山明 |本 | 通販 | Amazon

 なお本書は<サイバー燈台叢書>第1号です。「サイバーリテラシー研究所」を出版元に、これから同種の書物発行を続けたいと思っています。とりあえず私が雑誌『広報』で連載してきたコラムのバックナンバーや、Onlineシニア塾の記録などを再編集することを考えています。

<2>Onlineシニア塾の発足と拡大

 本ウエブ「Zoomサロン」をご覧いただければ一目瞭然ですが、昨年5月からOnlineシニア塾を開設しています。

 講座<若者に学ぶグローバル人生>、<気になることを聞く>、<とっておきの話>の3本柱でこれまでに約25回の授業を開きました。<若者に学ぶグローバル人生>では中国、ベトナム、ミャンマー、ネパール、タイなどのアジア諸国やナイジェリア、シェラレオネ、セネガルなどアフリカ諸国の若者などの話を聞き、ほかにミャンマー支援をめぐる討議、アメリカ最新授業報告などの授業も行っています。

 メンバーはメディア関係者、日本語教育指導者、IT起業家、IT専門家、教育関係者、学生など30人近くになります。10月には東京新聞神奈川版で紹介もされています。

 シニアばかりでなく若者のメンバーも増えつつあります。ウエブ上の「Onlineシニア塾への招待」の趣旨に賛同してくださる方は、簡単なプロフィルを送っていただくだけで無料で参加できます。ご興味のある方はinfo@cyber-literact,comまで。

東山「禅密気功な日々」(24)

辛いほど頑張る必要はない

 人体の筋肉を大きさ順に並べると、だいたい以下のようになる。説によって、一部順位の入れ替わりがあるようだが、だいたいこんなところだと考えていい。

大腿四頭筋 
大臀筋
三角筋
ハムストリングス
大胸筋
上腕三頭筋
腓腹筋
広背筋
僧帽筋
上腕二頭筋

 上位に大腿四頭筋とハムストリングス(ももの前後)および大殿筋(尻)が並んでいるように、下半身に全身の7割の筋肉がある。上半身で大きいのは左右の肩にある三角筋、ついで大胸筋である。背中の広背筋と首筋にあたる僧帽筋は意外に小さい。上腕の三頭筋(陽面)と二頭筋(陰面)もトップ10に入っている。

 鍛えやすく、また大きくなりやすいのは大胸筋、三角筋、上腕二頭筋、大腿四頭筋、大殿筋と言われるが、高齢トレーニングでは筋肉の増強自体を目指す必要はあまりない(二次的にはともかく)。老化は足からとも言われるが、高齢者にとっては、下半身を鍛えることがとくに大事である。気功でも下半身に気血をめぐらせることはできるが、自分の体重を負荷とするウオーキングは格好の運動である。私は毎朝、蠕動のあとステイショナリーバイクに乗っている。

 一方で日常作業を円滑に行うために鍛えておかないと具合が悪い筋肉がある。手首と足首はその筆頭である。ちょっと重いもの、ポットなどを持った拍子に手首をひねったり、くじいたりする。また石に躓いたわけでも、段差のある場所でもないのに、足首を捻挫することがある。健康寿命を維持するための手首、足首の筋トレはけっこう大事である。

・トレーニングの敵は風邪とけが

 高齢トレーニングは持続することが命である。翌日体の節々が痛くなるまでやるのは、その日は充実感を得られるかもしれないが、痛みが長引いて長続きしない結果にもなる。

 持続を妨げるのは風邪とけがである。風邪は寝込むというほどでなくても、あらゆる事柄への意欲をそぐのがいけない。せっかくトレーニングを始めたのに風邪をきっかけでやめてしまう例はよくある。

 寒い時は厚着し、外出を控えるなどして予防する。やっかいなのは夏の列車、オフィス、レストランなどの冷房である。日本の冷房は効きすぎていると思うが、あるいは若者向け仕様のためかもしれない。いくら屋外が暑くても、室内用の上着を忘れないようにする。

 過度に負荷をかけたり、不自然に体を動かしたりすると、すぐけがをする。インストラクターの知人がこんなことを言っていた。「傷をつけることで筋肉は大きくなるが、キズとケガは違う。ケガをしない心がけが大事である」。高齢者にとってけがはまさに大敵である。いったんけがをすると、治るのに時間がかかるから、これも、それっきりトレーニングをやめることになりがちである。運動前後のストレッチは不可欠である。

 軽い負荷で丁寧に、鍛えたい筋肉を動かしていれば、しだいに力がついてくる。そうすると、最初のころの辛さが楽しみに変わる。菩提寺でもらった小冊子の表紙に「苦しみがなくなるのではない。苦しみでなくなるのだよ」と書いてあったが、これは高齢トレーニングにも応用できる。

 映画女優のオードリー・ヘップバーンは「人には誰にも愛する力がある。しかし筋肉と同じように、使わないと衰える」と言ったらしい。愛は高齢者にとっても魅力的だが、ここは愛よりも筋肉を鍛えることを優先しないといけない。

Onlineシニア塾報告②<2021.5~2022.4>

 Onlineシニア塾は開講してちょうど1年の節目にあたる2021年5月、特別講座「ミャンマー問題を考える」で21回を迎えました。これを機に、以後の授業はページをあらため、この「Onlineシニア塾報告②<2021.5~>」に掲載します。これまでの講座<若者に学ぶグローバル人生>第19回までと、<気になることを聞く>の第4回まで、さらに特別講座<もっとZoom、初めてのSlack>は、「Onlineシニア塾報告①<2020.5~2021.4>」をご覧ください。なお、今回からは新しい授業が上に来るように、ウエブの通常編集通りに掲載します。

講座<気になることを聞く>

第37 回(2022.4.25)
 玉腰兼人さん アフガニスタン脱出作戦ドキュメントとウクライナ取材

 玉腰兼人さんは<若者に学ぶグローバル人生>にも登場していただいたドイツ在住の映像作家だが、アフガン戦争末期にドイツに協力したアフガニスタン人を避難(脱出)させるために奮闘したドイツ人女性ジャーナリストのドキュメントをこのほど制作、NHKでも放映された(映像記録「 アフガン脱出」)。番組パンフには「タリバンの政権掌握以来、混乱が続くアフガン。国外脱出する人々が続出する中、前代未聞の救出作戦に挑んだ市民たちの命懸けの闘いに迫る勇気と感動の物語」とある。ドイツ人ジャーナリスト、テレサさん(写真)のその後の活動も含めて興味深い話を聞いた。
 また最近はウクライナ問題でもポーランド国境でウクライナから脱出してくる難民や彼らを助けるために世界各地から駆けつけたのボランティアの活動などを取材、これも近くNHKで放映される予定だという。

ウクライナ・ポーランド国境にて 2022年3月後半、ウクライナ・ポーランド国境にあるMedyka(メディカ)を取材した。そこでは、ウクライナ人難民が国境を徒歩で越えポーランドへ入ってきている。乾燥したその地域は日差しも強く、朝はマイナス1度、日中は15度ほどまで上昇する寒暖の差が非常に大きい時期で、そのため体力が奪われるのも早い。
 そんな環境の中、ウクライナ難民は、昼夜問わずこの国境を渡ってくる。20分間に500人以上が国境を越えてくる夜もあった。成人男性は兵役義務があるため国内に残り、基本は女性、子供である。彼らは、ウクライナ側の国境検問所で4、5時間並び、それを通過するとようやくポーランド側のメディカへ到着する。皆、本当に疲れ切った表情をしていた。足が腫れ上がり、履いてきた靴に足が入らなくなっていた女性、小さい子供を5人、6人と大勢連れて行動する大家族。車椅子の祖母を連れて、ドンバス地方からやってきた家族。そんな家族の到着を今か今かと国境で待つ引き裂かれた家族や友人たち。戦争の過酷さを目の当たりにした。
 そんなウクライナ難民を無我夢中で助けたいと集まった善良な市民にも出会った。食べ物の炊き出し、衣服の提供、携帯や子供たちへのおもちゃの支給など、ありとあらゆるボランティア団体が世界中から集い、難民をサポートしていた。何も知らずに立ち寄った人は、きっとここは野外フェスティバルだと勘違いするだろう。
 ドイツやオーストリから自身の大型車で国境まで来て、自国で待つ家族や友人の元へと運ぶ人々、難民の疲れ切った心を癒すため、毎日決まった時間に野外でピアノを演奏するイタリア人ピアニスト、子供たちに無垢の笑いを提供するドクターピエロと呼ばれるイスラエル人グループ。また、毎日押し寄せる難民たちを肌で感じ、そこからインスピレーションを得てゲルニカに似た平和を願う絵を描き続けるメキシコ人画家(現在はキエフへと渡り、現地で3作目を描いており、描き終わり次第、ゼレンスキー大統領に寄付するとのこと)。
 ロベルトさんが「どんな状況にあろうと、人は最後、決して一人ではない」と涙ながらに語っていたのが印象的だった。戦争の悲惨さと同様に、人のために行動する「市民の無償の愛」、その強さを感じた取材だった(写真はロベルトさんの絵の前のロベルトさんと私。(玉腰兼人)

講座<若者に学ぶグローバル人生>

第36回(2022/3/22)
タイのタブチムトン・プレアウさん。バンコクの南にあるペッチャブリー県で生まれ、現在、マヒドン大学の教養学部4年生。英語専攻、副専攻が日本語。父親がタイの国技でもある格闘技、ムエタイの指導者で、幼いころからムエタイを学び、海外に行った経験もあるという。
 2019年、福岡女子大学に1年間留学、今年4月から半年、長崎大学の日本語・日本文化プログラム(JLCP)の交換留学生として再来日することになっている。日本のポップ音楽やカラオケが大好きで、「日本に来たらおもいっきりカラオケをしたい」と、屈託のない明るい笑顔で話してくれた。卒業した後は日本の大学院でさらに学びたいという。
 日本アニメの「ワンピース」がきっかけで日本語に興味をもったというが、ごく普通の若者がテレビで放映されたアニメで日本語に興味をもち、それを学び、奨学金を利用して留学、これからも日本で学びたいというのは、日本人としては嬉しいことだが、同時にそういうグローバルな時代になったんだとの感慨もひとしおだった。

講座<とっておきの話>

第35回(2022.1.14)
 松田重昭さん レオナルド・ダ・ヴィンチ 手稿に見る天才の証明②

 第2回はレオナルド・ダ・ヴィンチと日本を結ぶ不思議な糸について話があった。  
 二重らせんと言うと、いまでは遺伝子DNAの構造として知られているが、ダ・ヴィンチの手稿に建築としての「二重らせん」構想があることは前回にも紹介された。二重らせん階段だと、上る人と下る人が対面しなくてもすむ。ヨーロッパ中世の城にも二重らせん階段が使われているが、日本の江戸時代、会津藩に「さざえ堂」という二重らせん構造の寺が立てられていた。
 この二重らせんはダ・ヴィンチと関係あるのかどうか。松田さんによると、出羽国久保田藩(現・秋田市)8代藩主で秋田蘭画の担い手でもあった佐竹曙山の写生帖にある二重らせん階段図→17世紀オランダ彫刻家の「遠近法教程」にある図→16世紀のイタリア建築家の「実用透視図法」にある図、などをたどっていくと、ダ・ヴィンチに結びつくのではないかという。故小林文次日本大学教授(建築史)の研究資料をもとに新説も交えた興味深い「謎解き」だった(写真は、左からダ・ヴィンチ手稿、遠近法教程の図、フランス・シャンボール城のらせん階段、会津のさざえ堂)。 ダ・ヴィンチは都市国家が林立、抗争していた時代にあってパトロン向けの戦車、兵器などの開発も構想しているが、基本的には水車、自動推進のこぎり機、自動回転焼肉機、湿度計など人間の暮らしに役立つ平和的な技術、仕組みに関心をもつ平和主義者の面が強かったという。
 ダ・ヴィンチをめぐる研究会は世界中に広がり、それらをつなぐ「ユニバーサル・レオナルド」というサイトもある。松田さんは日本におけるダ・ヴィンチ研究家でもある斎藤泰弘・京都大学名誉教授(イタリア文学)とともに、ダ・ビンチの平和主義的生き方を世界に広める運動を「ユニバーサル・レオナルド」に働きかける準備をしている。このようなグローバルで壮大な運動にOnlineシニア塾も協力できればたいへんすばらしく、この点については、事態の進展にあわせて、斎藤先生にも参加していただき、再度の授業を行うことになった。

講座<気になることを聞く>

第34 回(2022.2.12)
 烏里烏沙さん 中国の少数民族―その生活と自然、文化

 烏里烏沙(ウリウサ)さんは山岳写真家。中国の少数民族の1つ、彝(イ)族出身で、1996 年に来日、和光大学で学び、現在はヒマラヤ山脈および中国西部の山岳自然、少数民族、風土をテーマに多角的な視点でとらえた調査活動を続けている。この日はご本人が撮ったもの以外も含め、多彩な写真を見せていただきながら、中国の少数民族の生活、文化などについて聞いた。
 中国の人口の9割を漢民族が占めるが、漢民族が住んでいる地域は国土の東南部3分の1程度、他の3分の2に中国政府に認定されただけでも約55の少数民族が住んでおり、なお未認定の少数民族が60以上に及ぶ。
 2010年の国勢調査で見ると、漢族が12億人と圧倒的だが、そのほかはチワン族1690万、回族1060万、満族1039万、ウイグル族1007万、イ族871万、チベット族628万、蒙古族600万人など。今でも日常的に民族衣装を着る機会も多く、それぞれの言語を中心に生活しているという。
 ウイグル、チベットなどは自治区もあり、日本人にもおなじみだが、広大な国土に住む少数民族の実態をつぶさに知るいい機会になった。中国全体の人口が増えていることもあり、少数民族の数も増えている。進学などで少数民族を優遇する政策や、少数民族同士の婚姻などの相互交流も行われているとか。各民族の衣装、住居、祭りなどの行事、食事風景などの写真はたいへん興味深かった(写真上はキルギス族、下はトン族)。 
 なお今回は、メンバーの森治郎さんが主宰する<探見』の会>との共催で行われた。以後もテーマによっては共催を続けたいと考えている。

中国少数民族文化教育基金会 烏里さんは、特定非営利活動法人「中国少数民族文化教育基金会」理事長や一般社団法人 日本中国友好写真家協会の会長もつとめている。日本写真家協会のウエブには、写真を通して日中文化交流に尽くす烏里さんが紹介され、そこにもいくつかの写真が掲載されている。少数民族の子どもたちのための小学校の建設事業も進めているとか(Ý)。  
 3月18日から24日まで富士写真フイルムフォトサロンで個展開催予定。4月以降、大阪、名古屋、札幌でも開催される。詳しくは以下を参照。https://fujifilmsquare.jp/exhibition/22031

講座<若者に学ぶグローバル人生>

第33回(2022/2/4)
中国出身の常静(チャンジン)さん。東北師範大学でソフトウエア・プログラムの勉強をし、大学卒業後、日本IT企業の就職試験を受け合格して来日。会社の同僚の紹介で日本人と結婚し、大森静となる。福岡県在住、4歳の娘さんと3人暮らし。いまは九州大学大学院システム情報科学研究院で情報知能工学研究の手伝いをしている。
 1人の中国人女性が日本に定住することになった経緯を中心に話を聞いた。3人兄弟。好きな言葉は「朝は希望とともに起き、昼は努力して生き、夜は感謝とともに眠る」。「人に悪いことをされたら、泣いてもいいと思って、人と真心で付き合うことを大事にしている」とかで、中国もつい最近まではずいぶん穏やかな人間関係があったのだと、ちょっと懐かしく、また不思議な気もした。

講座<とっておきの話>

第32回(2022.1.14)
 松田重昭さん レオナルド・ダ・ヴィンチ 手稿に見る天才の証明

 2022年の年頭を飾るにふさわしい授業になった。松田さんはイデア教育文化研究所代表(学芸員)で、大学卒業後、百貨店の宣伝企画部に勤務、美術展示の担当になったのを機にさまざまな美術展を開催、その後フリーになってからもイタリア、フランス、ドイツ、スペイン、イギリス、ルーマニア、アメリカなどの各美術館を訪問、交渉のうえ多くの企画展を実施してきた。その中で松田さん(下の写真右上)がほれ込んだのがレオナルド・ダ・ヴィンチだったという。

  ダ・ヴィンチと言えば、モナ・リザ、あるいは最後の晩餐といった名画が思い浮かぶが、松田さんによると、ダ・ヴィンチの作品だと確定できるものは20点に満たないらしい。それらの絵を見ながら、名画にまつわるエピソードなども聞いたが、ダ・ヴィンチの「天才」を証明するのは、ノートなどに残された手稿(4700ページに及ぶ)だという。
 人体解剖図、上写真にも表示されているウィトルウィウス的人体図、車の模型、永久運動機関モデル、フィボナッチ数列や黄金比、天体観測、建築設計、さらにはロボット模型などなど、発想はあらゆる分野に及び、しかもそれがすべて先駆的である。ダ・ヴィンチは「すべてを自然から学んだ」というが、絢爛たる発想の集積である手稿は、まさに天才の証明にふさわしい。参加者は興奮がちに話を聞いた。
 ダ・ヴィンチの業績や日本との関係など、2月下旬以降に第2回を開催してもらうことになった。
 松田さんは1月28日から3回にわけて以下のオンライン講演を行う。NHK文化センター名古屋教室:『モナ・リザ』に会うまで~天才レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯~ | 好奇心の、その先へ NHKカルチャー (nhk-cul.co.jp)

講座<若者に学ぶグローバル人生>

第31回(2021/12/18)
 インドネシアのレイニ・ドウィ・アングライニ(Reyni Dwi Anggraini)さん。ジャカルタ出身。パジャジャラン大学日本語学科卒。国費留学生として名古屋大学短期留学プログラム修業。日本語能力試験1級取得。2017年よりフリーランス翻訳者・DTPデザイナーとして活躍。卒業後日本企業に1年勤務。その後、好きな日本語に磨きをかけるため(?)、別の日本企業に内定したが、コロナ禍のため訪日が延期され現在、待機中。言語学習と日本の社会問題に関心があるという。好きな言葉は”Believe you can and you’re halfway there”(Theodore Roosevelt)とか。

  好きというだけあって、すばらしい日本語で生い立ちや日本語に興味をもった経緯、今後の抱負などについて話してくれた。パジャジャラン大学日本語科のサムスル先生もインドネシアから参加してくださり、今年最後のOnlineシニア塾はなごやかで楽しく、すばらしい会になった。サムスル先生の話だと、日本語学科には1年100人の学生がいるという。
 最後に形ばかりの忘年会も行い、新年に向けての抱負などを語り合った。Onlineシニア塾は本年中に20回の授業を行ったが、忙しい中をご登壇いただいたスピーカーの皆さんや討論に参加してくれたメンバー諸兄にお礼申し上げます。またレイニさんを含め何人かの留学生をご紹介いただき、授業にも多数で参加いただいたアジアの風のみなさんのご協力にあらためて感謝申し上げます(<おもいっきりZoomサロン>に「アジアの新しい風」の活動報告>)。 

講座<とっておきの話>

第30回(2021.12.4)
 高橋慈子さん/星野真波さん 新しい学びの場を使った実践活動②

「新しい学びのカタチ」第2弾は、Udemyの教材『説明、連絡、相談文の書き方』を使って、相手に伝わる自己紹介文の書き方の演習などが行われた。最初に日本で働く外国人の方が書いた文章を、日本語講師の星野さんが添削して解説、次に、外国人にもきちんと伝わるプレインジャパニーズのポイントを高橋さんが解説した。そのあと参加者が即席で書いた自己紹介文をチャット機能を使って共有し、以前onlinesシニア塾に登場してくれたベトナムのチャンさんからも「わかりやすい日本語」の観点からコメントをもらった。
 日本企業にも外国人従業員が増えつつある時代を受けて、外国人、日本人とも、わかりやすい日本語で話す訓練をする必要があるというのが教材作成の動機といい、参加者が即席で書いた自己紹介文は、2人の講師や外国のゲスト参加者などから、企業内の話題に偏らない、趣味などは具体的に書いた方が対話のきっかけになる、なるべく難しい表現は使わない、四字熟語はわからない、などという厳しいチェックを受けた。
 文字通りの双方向コミュニケーションが繰り広げられる楽しい講義で、各自の体験や異なる意見などが語られ、参加者同士の親睦にも大いに役立った。今後のOnlineシニア塾のあり方に「一石を投じた」(あえて使用(^o^))と言えよう。冒頭写真は「プレイン・ジャパニーズ10原則」で、「能動態を使う」、「否定や二重否定を使わない」などが上げられている。

講座<気になることを聞く>

・第29 回(2021.11.23)
 シンシア・サヤス(Cynthia N. Zayas) 日本の50年間の思い出

 国立フィリピン大学国際研究センターの元教授兼所長で、フェリス女子大学の交換教授として横浜に滞在中のシンシア・サヤス先生に、日本とフィリピンを往復して感じた50年の思い出を聞いた。彼女はフィリピン大学で学士号(人類学)と修士号(アジア研究)、筑波大学で修士号(文化人類学)と博士号(文化人類学)を取得、「鼻で食べることと目で食べること」、「黒潮ルートのイモ栽培文化」、「海女」など、日本に関する興味深い研究も発表している(今回の担当はフィリピン在住で先生と交流の深い鮎澤優さん)。
 日本に初めて来たのは1970年代、16歳のときで、自然とともに暮らす日本人に感心した。研究テーマとして漁業関係を選び、伊勢志摩で海女、仙台で津波被害を調査するほか、長崎、淡路島、直島など全国各地を訪問、その多くを民家に泊まりながら庶民生活を観察してきたという。
 そういう経験のなかで感じるのは、日本人の食生活の変化、たとえばスパイシーあるいは「濃厚」な味が好まれるようになった、スーパーなどでは魚より肉が目立つようになり、かつて大衆魚だったサンマはいまは高級魚になった、旬のものはレストランを別に一般のスーパーなどでは見えなくなった、などを強く感じたという。一方で、真子さんが家族と別れの挨拶をするとき、妹の佳子さんと抱擁している写真に驚いたらしい(たしかに)。今度のコロナ禍は日本人の生き方を変える(元に戻す)チャンスだと強く感じているようでもあった。その後は多岐にわたる質疑応答で盛り上がった。

講座<とっておきの話>

第28回(2021.11.13)
 高橋慈子さん/星野真波さん 新しい学びの場を使った実践活動

 Udemy(ユーデミィ)を使った教材制作の実践活動について、高橋慈子さんと星野真波さんに話していただいた(2人はOnlineシニア塾が縁で知り合った。写真右、上から4番目が高橋さん、3番目が星野さん)。

 UdemyはE-Learning用のサイトで、だれもが教材を出品、それをだれもが購読できる「教育のマーケティングプレイス」だという。すでに18万3000以上の教材が提供されており、4000万人以上の人が学んでいる。マーケットプレイスだから、自分の教材をいくらで提供するかは製作者の自由。2000円くらいから数万円と値決めはさまざまだが、動画コンテンツの質に関してはUdemy側のかなり厳しい審査がある。
 高橋さんは星野さんの協力も得て、すでに「伝え方と書き方 仕事の基礎力講座―就活に、転職に、日々の仕事に役立つ!」など4つの教材を提供、すでに200人に購読されている。高橋さんによると、「ビジネス的にはいまは初期投資の段階だが、紙の教材づくりよりは手ごたえがある」とのこと。
 なおこの授業は12月4日(土)に第2回があり、演習の実演もしていただく予定。

  今後は教材開発のお手伝いも「eラーニング」と呼ばれるITを活用した学びの方法は、従来から存在していますが、Udemy が新しい点は、動画を使った教材を制作すれば誰もが講師として有料でリリースできることです。アクセス数に応じた広告収入がバックされるYouTube との違いは、受講料が収入となることです。ちなみにYouTube ではまず注目してもらうことが重要で、継続した収入を得ることは有名人でも難しくなっています。
 教材を制作するにあたって工夫したのは、ボリュームを多くしないで、学びたいときに1テーマでサクッと学べるように完結させたこと。また、説明に変化を付けるために、最近の2 つのコンテンツでは、ゲスト講師からの説明パートを加えています。
『説明、連絡、相談文の書き方』では、日本語講師の星野真波さんが、受講生からよく受ける質問に対する回答をわかりやすく伝えてくれました。『伝え方と書き方 仕事の基礎力講座』(写真)では、フリーアナウンサーの中村麻里子さんに登場いただきました。プロの話し方はさすがですね。 
 収録はオフィスの一角で行っています。コロナ持続化給付金を使い、オンライン研修や動画収録ができるようにリノベーションしました。IT関連の書籍で共著が多いテクニカルライターの八木重和さんが収録と動画編集を担当してくださっています。私はシナリオや教材作成と解説担当です。
 それぞれの得意な点を持ち寄って、スピーディーに質のよいコンテンツをリーズナブルに制作して提供していくことを目指しています。これまでのように書籍を出版社から出してもらうといった受け身の姿勢から、主体的にコンテンツ制作に踏み出せたことが新たなチャレンジです。
 今後は、教える知識とスキルを持っていても、動画収録や編集の技術がない方の教材開発のお手伝いもしていきたいと考えています。
 まずは、Udemy の学びはどのようなものか、以下のリンクから是非、体験してみてください(T)。
『説明、連絡、相談文の書き方』https://www.udemy.com/course/bzwriting/?referralCode=4F5AE3BD8BFD4661D9BB
『伝え方と書き方 仕事の基礎力講座』https://www.udemy.com/course/comucationbasic/?referralCode=C93910A83C0F7A307B78

講座<若者に学ぶグローバル人生>

第27回(2021/10/12)
 ケオケンチャン・トンカンさん。テレビのアナウンサーになるのが夢で大学ではラオス語を専攻したが、アニメ映画「もののけ姫」を見て日本語に興味を持って勉強を始めた。卒業後、一時は日本企業に就職したが、もっと日本語を勉強したいとラオス国立大学内の日本語センターに勤務。現在は明海大学大学院博士後期課程応用言語学研究科に在籍、日本滞在は6年になり来春、帰国の予定。いま日本文化をどん欲に吸収しつつある。ラオス人留学生協会長。
 9人兄弟の7番目。弟も日本の大学医学部に在籍していたが、つい最近帰国した。陽気で社交的、和服を着たり、カラオケに興じたり、日本の生活を楽しんでいるようだ。日本に来て驚いたのは、バスに乗るのにみんなが整然と長い列を作っていること、財布を忘れても戻ってきたこと。「こんなことはラオスではないですよ」。
 日本語はいまはずいぶん達者だが、学ぶ際の困難はラオス語、日本語の対訳辞書がないことだったといい、タイ語を介しながら勉強したらしい。帰国したら、まず「辞書作りに取り組みたい」と熱い抱負を語ってくれた。「いまは語学学習にITも活用できるから、帰国したら辞書作成の大プロジェクトを起こしてください」とのエールも。

新講座<とっておきの話>

第26回(2021.9.17)
西岡恭史さん・ハッピーエンディングプランナー

 新講座<とっておきの話>はOnlineシニア塾のIT顧問でもある西岡恭史さんが取り組んでいる地域における高齢者向けのデジタル終活指南の現状、苦労話を聞いた(写真右最下段が西岡さん)。

 西岡さんは日本大学生産工学部を卒業してIT企業に就職したが、デジタル技術、とくにインターネットの激しい技術革新を前に再勉強しようとサイバー大学IT総合学部に入学、卒業後さらにSBI大学院大学も修了するという〝勉強大好き〟な人である。
 2008年の母親の死に際して、葬儀の段取り、お墓の購入、役所や保険会社の手続きなどで苦労した経験をもとに、デジタルを終活に生かす仕組みを作れば便利ではないかと、会社をやめてお年寄り向けのサービス、「ハッピーエンディングプランナー」としての活動を始めた。
 自宅がある練馬区の区関連施設や団地集会所などでいろんな相談や指導に応じている。身近に相談できる子や孫がいないお年寄りにとって、たいへんありがたい支援活動で、テレビ朝日の「東京サイト」などでも活動が紹介されているが、多忙とは裏腹に、ボランティア的な支援に終わりがちで、起業したとはいうもののビジネス的にはなかなか大変なようだった。西岡さんの連絡先などは以下の通り。 

新設デジタル庁に期待 たとえば、突然交通事故で死ぬ羽目になった場合、自分の身元を証明できるようなカードを身に着けているか、死後の連絡先などをパソコンやスマホに入れておいても、家人にパスワードがわかるようにしておかないと結局は見られない、「デジタル遺産」ともいうべきウエブ上の自分の書き込みは死後、どういうふうに処理するのが適当なのか――、西岡さんの話を聞いていると、私たちはずいぶん迂闊に生活しているのに気づかされる。
 アップルが「デジタル遺産プログラム」を始めるなど、IT企業もこれらの取り組みを始めているが、これは本来、自治体や政府が率先して行うべきことで、西岡さんなどの先駆者にはそれなりの補助などもあってしかるべきだという気がする。新しくデジタル庁が発足したことでもあり、こういうボランティア的な事業に手厚い保護がを与えられるような政治が求められるのではないだろうか(Y)。

 新講座<とっておきの話>はOnlineシニア塾に参加しているメンバーが自分がやってきたこと、その間に経験した興味深い話、今取り組んでいることなどをお互いに報告しあい、コミュニケーションの輪をより広げようという授業です。

講座<若者に学ぶグローバル人生>

第25回(2021/8/29)
 中国のジャンミャオさん(Jiang Miao)。清華大学卒。2015年に清華大学-東京工業大学合同プログラムで初来日。2017年に清華大学「材料科学と工学」と東工大「電子物理専攻」から修士ダブル学位を取得して卒業。東京大学で博士後期課程に入って研究を続ける。研究内容は半導体に関する新型メモリ技術。2020年に東大「電気系工学」から博士学位を取得して、日本学術振興会特任研究員として東大で働いている。
 一時は半導体部門で元気だった日本もいまは停滞気味、世界のシェアは圧倒的に台湾に握られているのだとか。ジャンさんはその最先端で研究を続けており、その現状を丁寧にやさしく説明してくれた。参加者からは「超優秀大学・精華大学から日本の大学への留学で、指導教授も良く、研究設備も良い環境で充実した研究を続けておられ嬉しいです!どうか日本の研究仲間と親しくなって国を超えて世界に貢献できる研究を展開してください。世界平和に貢献できる成果を期待しています!」との感想も寄せられた。

講座<気になることを聞く>

・第24回(2021.6.13)トランプ大統領によってあぶりだされたアメリカ社会の亀裂③

 バイデン大統領誕生からすでに半年近くたつが、トランプ前大統領の共和党内の人気はいぜん衰えていない。反トランプの急先鋒だった共和党議員団のナンバー3だったリズ・チェイニー議員は更迭され、共和党は前大統領との関係を今後も維持する構えである。トランプ氏は3月の全米規模の保守系イベントの集会であいさつ、次期大統領選への出馬もほのめかしている
 ここに一つのデータがある。5月下旬の段階で、共和党員に「議会占拠の責任はだれにあるか」と聞いたら、「トランプ」や「共和党」よりも、「民主党」と答えた人が一番多かった(The Economist)。「トランプ大統領によってあぶりだされたアメリカ社会の亀裂」は、いよいよ混迷の度を加えているようにも見える。そういう状況を受け、本授業も4年後を視野に入れつつ、少し長期的に話していただくよう宮前さんにお願いしている。

講座<若者に学ぶグローバル人生>

第23回(2021.5.29)
タイのドゥアンケーオ・スットプラータナー(Sutpratana Duangkaew )、通称リボンさん。タイ北部のチェンマイ出身。2007年に1年間琉球大学に短期留学し、2013年~2016年、文部科学省の奨励金を受けて琉球大学大学院(博士後期課程)を卒業。その後、タイのスズキモータースで通訳、東京の日本企業の海外部正社員として勤務。タイと日本を架け橋する活動として、2011年からのタマサート大学大学院時代にアジアの新しい風(Iメイト)に参加し、現在もOBとして活動を続けている。現職はタイ・マヒドン大学で日本語・日本学の講師。
 日本の留学先が沖縄で、日本人以上に沖縄通になり、空手など沖縄の文化に親しむなど、多彩な活動に取り組んできた。明るく真摯な人柄で、始終笑顔を絶やさず、日本とタイの風俗の違い、生き方の違いなどについて話してくれた。最後に「いろいろ不満があっても、文句を言うことはやめて、コツコツと自分の得意分野を生かしながらタイの発達に尽くしたい」と決意を話してくれ、多くのメンバーの共感を呼んだ。

第22回(2021.5.9)
中国のジーイーさん。北京大学を卒業後に来日して東京大学修士課程を修了、2年前から日本の求職検索サイトでシステムエンジニアとして働いている。2020年からは東大社会人博士コースでIT関係を学んでおり、その課題は「顔画像の対抗学習サンプルの検知と復元」とか。
 語学が趣味で早くから英語のほかに日本語を学習、多文化を経験したい、空気がきれいで安心できる場所、母国からあまり遠くない国といった周到な〝検索〟の結果、日本が選ばれたようだが、すっかり日本が気に入ってくれた様子だった。細かい検索システムについての「講義」もあり、我が聴講生たちも技術的質問を繰り出し、充実した授業となった。

アジアの新しい風 ジーイーさんは「アジアの新しい風」の上高子さんに紹介していただいた。通称「アジ風」はアジアの日本語学習者への支援や文化交流などを行い、相互理解を深めながら、アジアの平和、ひいては世界の平和に貢献することを目指しているNPO法人である。もう十数年の歴史があり、アジ風のお世話になった留学生も多い。いまは中国(清華大学)、タイ(タマサート大学)、ベトナム(貿易大学)、インドネシア(パジャジャラン大学)と交流している。
 趣旨に賛同してくれた会員の日本人が「Iメイト(愛メイト)」になって、留学生と一対一の関係をきずきながら支援の輪を広げており、逆に世話になった学生たちが今度はアジ風の運営にも協力するという、まことにすばらしい民間外交が繰り広げられている。奨学金支給や交流大学への日本語教師派遣なども行っているという。Onlineシニア塾で登壇していただいたベトナムのチャントゥチャンさんやジーイーさんは、そのサポーターでもある。
 本授業の前日にやはりZoomを使って行われた「春のIメイト交流会」は100名を超える盛況だった。Onlineシニア塾当日には、上さん、奥山寿子さんなど5人のアジ風関係者が参加してくださった(Y)。

特別講座<ミャンマーへの支援を考える>

第21回(2021.5.8)
  特別講座<ミャンマー問題を考える>は<気になることを聞く>第13 回(2021.2.10)「ミャンマーの軍事クーデターで苦悩する日本在住の若者たち」に続くものだが、特別講座として、より広く参加者を募って行った(担当/星野真波ほか)。ミャンマー人の若者(社会人)からは軍事政権とアウンサンスーチー国家顧問が率いるNLDとの長い抗争の歴史が説明され、ヤンゴンに滞在中の日本人企業家、後藤信介さんから現地の状況も報告していただいた。当日の参加は30人余、これまでの授業で最大だった(写真は当日発表の資料から)。


 ミャンマー情勢はいまも激しく動いているが、ミャンマーの人びと、とくに若者たちが命をかけてまで軍事政権に抵抗している背景には、「いまここでひるんではミャンマーの民主化の機運はしぼんでしまう」という強い危機感があるからだと言う。日本人としてどのような支援が可能なのかも、ミャンマーの子供たちの教育的支援などでいくつか提案がなされ、今後ともミャンマーと日本との交流の懸け橋をめざす努力をすることになった。以後は通常講座<気になることを聞く>に戻って適宜開催する予定。

日本に住むミャンマー人は4万人近い 日本にはミャンマー出身者が4万人近く暮らしています(表は在留外国人の数。中国、韓国、ベトナムの順)。その中の5000人強が留学生で、流暢な日本語を習得する人が多く、その話し方から、優しい人柄が伝わってきます。この数年、日本語の指導を通じて接点を持つ機会が増え、今後は日本社会における存在感が高まっていくと思っていた矢先のクーデターでした。
 2月1日の前夜まで、 仕事、勉強、アルバイトに忙しい日々を送り、暇な時間はゲームや動画を楽しむのが日常だったのに、その日から国家の将来像を真剣に考える当事者になっちゃった・・と、発表者の一人が冗談交じりに話してくれました。
 興味のなかった複雑な歴史を学び直し、知り合ったばかりの仲間たちと連携しながら日々活動をしています。 民主化を取り戻すための連帯を呼び掛ける思いが、日本社会へ広がるまでは頑張り続ける覚悟が発表からも伝わってきました。ミャンマーの教育事情は、義務教育を終えられない子供たちの実情を説明するためにも、発表で取り上げたい話題の一つでした。
 ミャンマーの子供たちは、教室で大きな声で発言し、雰囲気を盛り上げ、それを喜ぶ先生を見るのが、嬉しいのだそうです。(日本の学校で、それをされると、少々困るのですが・・)。 学ぶことが好きで、指導者との関係を大切にする彼らの習慣に敬意を払いながら、充実した教育環境の提供の一助となる支援を模索していきたいと思います(H)。

東山「禅密気功な日々」(23)

マイナスからの出発

 以後しばらく、高齢者の筋肉トレーニングと禅密気功(とくに蠕動)について書くことにする。

 高齢になると、使っていない筋肉は確実に衰える。滓がたまっていくからである。軽い負荷でいいから、すべての筋肉をこまめに動かしてやる。精神を集中し丁寧に、ゆっくり、意念を細胞の一つひとつに行きわたらせる。これが高齢トレーニングの要諦である。歳をとればとるほど、実は筋肉トレーニングが大事になる。毎日、食べたり、寝たり、呼吸したりするのと同じように、トレーニングすることを心がけるのがいい。

 若いときに快適に動いていた体が凝り固まったところから始めるのだから、高齢トレーニングはマイナスからのスタートである。位置としてマイナスであるばかりか、ベクトルとしてもマイナスである。1日使わない筋肉は1日分衰える。逆に鍛えれば必ずプラスに反応する。1日トレーニングをして現状を維持できれば、1日の終わりに1日若返ったと考えてもいい。これを10年続ければ、10年若返る理屈である。肉体が日々衰えていくのに抗してトレーニングし、トレーニングによる効果が1日分の老化を上回れば、それは名実ともに若返りとなる。「健康を守り、老化を防ぎ、若返りもめざす」とはそういう意味である。

 使わない筋肉は衰える。逆に、鍛えれば必ず強くなる、というのは多くの専門家が指摘しているが、私の実感としてもそうである。筋肉のピークは25歳頃で、あとはどんどん衰える。だから、平均寿命の80歳まで生きるとして、後の55年間をただ衰えるにまかせているのは、どう考えても得策ではない。前にも書いたが、それは「迂闊」というものである。

・筋トレと禅密気功は健康維持の両輪

 大事なのは凝り(筋肉の滓)ほぐしである。滓がほぐれて邪気を発生するとも、滓が邪気になって体外に排出されるとも言えるが、その滓および邪気こそが「老いの素」である。それが高齢者の頭、首、肩、背、胸、腹、股間、下半身などあらゆるところに蓄積している。肩の凝り、膝の炎症、腹の贅肉、精力減退、顔の渋、いずれも原因は一つだと言ってもいい。

 筋肉トレーニングについて言えば、若いころと歳をとってからではやり方を変えなくてはいけない。若いころは激しい運動をすることでそれらの〝毒素〟を除去できるが、歳をとるともはや無理である。激しい運動ができないこともあるが、まず蠕動で滓をほぐしてからではないと、筋肉を鍛えられない。東洋医学(針灸)の虚実補寫(病邪の実を拭ったあとで正気の虚を補う)はそのことを言っている。

 若い時は意念が不足しても鍛えられるが、歳をとると、意念をともなわない運動はほとんど効果がない。逆に意念を強くすれば、歳をとっても、たくましい、そして弾力性のある筋肉をつくることができる。筋肉トレーニングと禅密気功(とくに蠕動)は、高齢者が健康を維持するための不可欠な両輪だというのが、私の高齢トレーニングに対する基本的な考えである。

Zoomサロン仕掛人

<Zoomサロン>お手伝いします

 コロナ禍の外出自粛生活を機に、これまでバーチャルな会合には興味がなかった人びとも、インターネットで仲間と旧交を温めたり、新しい会話の機会を広げたいと思い始めたりしているようです。従来のカルチャーセンターのような集いをサイバー空間に築こうという動きとも言えます。

 当Onlineシニア塾はそういう背景のもとにパイロット・プロジェクトとして2020年5月に遠隔会議アプリ・Zoomを使って開設しました。これまですでに12回のミーティングを実施してきましたが、その経過のなかで、Zoomミーティングに参加したい、あるいは自分も趣味などのささやかなミーティングを主宰したいと思いながら、いま一歩を踏み出せずにいる人が多いことを知りました。周囲にZoomの懇切丁寧な指導をしてくれる人を見つけるのもなかなか難しい状況です。

 そこでOnlineシニア塾では、このほど<Zoomサロン仕掛け人>稼業を始めました。「元締め」のもとに、Zoom指導の実績が長いOnlineシニア塾IT顧問の西岡恭史が仕事を請負います。

 Zoomは実は扱いやすいソフトで、送られてきた招待状のURLをクリックするだけでミーティングに参加できます。だから参加出来たらほぼ8割がたのハードルを越えたことになりますが、そのハードルが超えられない方も多いようです。だからスマートフォンを使った指導なども行います。またZoomにはいろいろ機能があります。会議を主催するときの便利な機能についても伝授します。

 コンピュータへの習熟度、考えているミーティングの規模などによって悩みは様々でしょう。オンライン上にはすでにZoomマニュアルは氾濫していると言ってもいいですが、それはある程度インターネットになれた若者向けだったりして、ずぶの素人には結局、よくわからないということもあります。当「Zoomサロン仕掛人」はそういう初心者にこそ門を開いています。

 昔、マイカーブームがやってきたころ、「エンジンブレーキはどこで売っていますか」と聞いた人がいたそうです。インターネットに関するそういう初心者もアクセスしてみてください。

 矢野はパソコン黎明期に『ASAHIパソコン』というパソコン使いこなしガイドブックを創刊し、その後は「IT社会を生きる杖」としてのサイバーリテラシーを提唱してきました。広がるサイバー空間を積極的に、かつ賢く利用すると同時に、IT社会をより快適でより豊かなものにするのがサイバーリテラシーの願いでもあります(サイバーリテラシーについては、本<サイバー燈台>の「サイバーリテラシーとは」などを参照してください)。

2021.2.2 <Zoomサロン仕掛け人>矢野直明
問い合わせ info@cyber-literacy.com

 

おもいっきりZoomサロン

 全国津々浦々で呱々の声を上げつつあるZoomサロンの一覧をここに掲載します。こういうユニークなことを始めたといったお便りをお待ちします。また<Zoomサロン仕掛け人>が関与したZoomサロンに関しては、すべてここに掲載させていただこうと思います。

Zoomが「アジアのしい」に新風―理事・奥山寿子

 NPO法人アジアの新しい風(略称:アジ風)は、アジア各国で日本語を学習している大学生との交流を通して、相互理解を深めようとする団体です。
 具体的な活動は、日本語を学ぶ学生たちとの1対1のメール交流(「Iメイト交流」と呼んでいる)を通して日本語学習支援、留学生たちの生活支援などをする一方で、日本人会員も相手国の文化や歴史を学び、若者たちからさまざまな刺激を受けています。アジ風では、個人的なメール交流と並行して、来日している留学生を囲んで意見交換など様々な形の交流会も開催してきました。
 しかし新型コロナウイルスの脅威が全世界に及び、今まで開かれていた海外との門戸が閉ざされるに至って、留学生がゼロになり、アジ風の活動もまったく止まってしまいました。2020年2月1日に120数名の参加者を集めて新春交流会を開催したのを最後に、2021年の現在まで約2年間、リアルで大勢を集めての会合は開かれていません。
 新型コロナウイルスが命を脅かすウイルスであることが報道され始めた頃は、アジ風の活動をどのように継続するか、考える余裕もありませんでした。そのうち企業や学校では在宅で仕事や授業を始めているというニュースが流れてきて、2020年5月初旬に、そのツールの一つであるZoomと有料契約をし、少人数での打ち合わせのためにまず使い始めました。
 Zoomは使い勝手もよく、自宅で参加できる利点もあって、その後はアジ風の事務局の打ち合わせや会議にも利用するようになりました。インターネットが使える環境があれば、どこでも参加できるこのシステムは、コロナ禍の中で、その大きな力を発揮することが確認できたのです。
 2020年9月には、会員と留学生予定者の交流会も大学別にオンラインで開始し、タイのタマサート大学を皮切りに、ベトナムのハノイの貿易大学、北京の清華大学と大学院、インドネシアのパジャジャラン大学と続きました。留学予定者のみならず、本国にいるIメイト学生たちとつながることができた時の喜びは大きいものでした。

・「線から面」へ、かえってコミュニケーションを促進

 勇気を得て、翌年2021年2月の新春交流会は、日本を含めて5カ国がそれぞれユニークなパフォーマンスやプレゼンテーションをし、その後にグループディスカッションを行うという盛りだくさんなプログラムで行いました。参加者は約160名。人数が増えても、Zoomのブレイクアウトセッション(いくつかのグループに分けて議論できる)機能を使うことによって、参加者意識も高められたと思います。Zoomは当NPOにとってコロナ禍の中での僥倖でした。
 このような交流会の実施によって、アジアの新しい風の交流は大きく変化しました。このツールに慣れた会員たちは個別の学生とのビデオ会話を始めましたし、グループで自由に会話する自主的な活動も見られるようになりました。それまではごく少数の例外を除いては会員と学生の1対1のメール交流だけであったのが、多くの人が参加するオンライン会話によって、一気に「線から面」の交流に発展していったのです。
 もちろん、多少の制約やリアルでの会合とは違う物足りなさもありますが、新型コロナの変異株がどのように拡大していくかが予測できない今、オンラインでの交流はまだ続くと思いますし、たとえこのウイルス感染が収束しても、オンラインでの交流とリアルでの開催と併用することで、アジアの新しい風の活動がより多彩になっていくと思われます。
 現在の懸念材料は、このツールを使っていない会員へのアプローチをどのように進めていくかです。当NPOでも会員の高齢化が顕著となり、ITの恩恵を受けていない会員、ITから距離を置いている会員、デジタルデバイドといわれる人たちも少数ですが存在しますので、彼らを取り残さないことが当面の課題だと思っています。その意味でもオンラインとリアルを併用していくことが必要であると強く感じています。

 注記・Onlineシニア塾の講座「若者に学ぶグローバル人生」のスピーカーのかなりはアジアの新しい風からの紹介です。日々の地道な活動の上前をはねるようで恐縮しつつ、しかも図々しく、さらに多くの方の紹介をお願いしている次第です。未曽有のコロナ禍にZoomを武器に果敢に応戦、ツールとしての限界も克服して、よりコミュニケーションを深めている様子を担当理事、奥山寿子さんに報告していただきました。Onlineシニア塾のバックボーンである「サイバーリテラシー」から見ても大変すばらしい試みだと思います(Ý)。

◎2021.7.29 「気候危機とラウダート・シ ~ 母なる地球に愛をこめて」<Zoomサロン探訪記①>

 Onlineシニア塾のメンバーでもあるメリノール宣教会修道女、キャサリン・レイリーさんが主宰して7月29日午後7時から2時間ほど行った環境問題オンライン・セミナーに参加した。「ラウダ―ト・シ」というのは2015年にローマ教皇が環境問題に関して行った回勅(重要なテーマについて教皇が信徒に直接語りかける「手紙」のようなもの)のタイトルである。
 各地の修道院関係者や気候問題に関心をもつ人など60人以上が参加し、基調報告を聞いたあと各地の実情や意見交換を行った。最後のディスカッションまで残った人が40人以上いた。米国のゴア元副大統領が携わり、世界100か国以上で開催されている環境問題に関するセミナー、クライメート・リアリティ・プログラム(Climate Reality Program)の一環でもあり、第1部ではプログラム・リーダーの資格をもつ理学博士、境野信さんが講演した。
 その中で「人新世」という言葉が紹介されたのが印象に残った。地球は地質学的に見て新たな年代に突入したという考えに基づいており、人間の活動の痕跡が地球の全表面を覆いつくした年代という意味である。地表はビルやコンクリートで覆われ、海にはマイクロプラスチックが浮遊し、大気は二酸化炭素で充満している。もはや未開地はないばかりか、人間の活動は全地球を覆うに至った。
 それは同時に人間の経済活動が地球を食いつぶしていることを意味する。新自由主義経済はすべてを市場に取り込み利潤の糧とし、人びとの精神や魂まで切り崩しているが、今や地球危機そのものが私たちの生き方を抜本的に改めることを迫っているわけである。 
 私たちは今何をすべきか、というのがセミナーのテーマで、2050年までに二酸化炭素排出量をゼロに抑えるための政治的課題とは別に、私たちが日常的に二酸化炭素放出を減らすためにできるものは何かと言った身近な提案も行われた。境野さんによれば、化石燃料で飛ぶ飛行機に乗るのも、なるべく控えた方がいいのだとか。 
 コロナ禍のもとで強行された東京オリンピックでは不祥事が頻発しているが、オリンピック関係者用に調達された食糧の大量廃棄をどう考えるべきか。このような無駄を何の痛痒も覚えずにやれるようになっている現代人の感性をこそ問題にすべきだと、突然、発言を求められて、私はまとまりのない感想を述べた。
 最後にキャサリンさんが、「前回は20人規模の参加者だったが、今日はその倍以上。少しずつ仲間を増やしていくことが力になる」と述べ、事務局の水谷安江さんは「講演依頼があればどうぞ」と呼びかけていた。
 たしかに。こういうZoomサロンをもっと広げていくべきである。だからこそ、Onlineシニア塾にも多くの人に参加してもらいたいと、我田引水的に思ったわけでもある(Y)。なお次回セミナーは10月13日19時からだそうです。希望者はcommon.home5292021@aol.comまでメールを。

<探訪先を探しています。ご連絡いただけると幸いです>

◎2021.1.9 『探見』の会「江戸城おもしろ史―天守再建ができたら」

 Onlineシニア塾の主要メンバーでもある森が主宰する『探見』の会(メールマガジン『探見』を毎月発行、読者1000人)が、従来実施してきた現地見学会や講習会を自粛せざるを得なくなって、急遽、オンラインで行なった。40人以上の申し込みがあり、今回の講師は、江戸城天守を再建する会会長・太田資暁さん(太田道灌の子孫)。 私もZoomサロンを主宰するのは初めてで、西岡恭史仕事人に助力をあおいだ。パワーポイント画面80枚以上を駆使した太田さんの講演はスムーズに運び、その後の質疑応答、意見交換も大盛況だった。まさに「案ずるより産むが易し」というのが〝大仕事〟を終えたときの感慨だった。(『探見』編集発行人・探見の会代表幹事 森治郎)

◎2021.1.30 「子育てとの両立をしながら働く女性を支援するためのオンラインサロン」

 高山れい子さんが主催する「子育てとの両立をしながら働く女性を支援するためのオンラインサロン」を西岡が手伝いました。事前に主催側とのZoomでの打合せ、当日サロン開始前にMC担当者とも打合せを行いました。
 講師の川崎市議会議員、各務雅彦氏の、地域の子育て環境の向上を目指して議員になった経緯や、銀行勤めをしながら2人を育てたシングルパパの奮闘ぶりを聞いた後、質疑応答がありました。土曜日の昼間ということもあり回線の不備があった方もいたが、8名参加のもと無事終了しました(N)。

◎2021.2.21 高承研でもミャンマーの若者から話を聞く

 Onlineシニア塾第13回<ミャンマーの若者に聞く>をきっかけに、私の主宰する「高度技術者育成と技能伝承研究会」(高承研)でもミャンマーの若者から話を聞きました。前日にマンダレーで国軍の発砲による死者の報道があった影響もあってか、星野さん、ミャンマーの若者2人、高承研側は私を含め9名が参加しました。
 話を聞いた後は、CDM(市民的不服従運動)について、アウン・サン・スーチーさんの評価、影で軍を支援する中国の影響力 への懸念、支援活動へのカンパ、広報活動の重要性などについて活発な議論がありました。
 最後に、年長者から60年安保や70年安保闘争のころの思い出や反省の弁を伺い、それに基づいて、短期的な思いに駆られて跳ね上がった活動は控え、理性的、科学的に対処することの重要性が語られました。参加したミャンマーの若者からも現状への考え方や抱負が語られて、自分の意見を堂々と話される様子に感心しました。たいへん有意義な会でした(「高度技術者育成と技能伝承研究会」主宰・大野邦夫)。