新サイバー閑話(129)<折々メール閑話>70

参院選における314について考える

 B 3対14というのは、7月20日投票の参院選でのれいわ3と参政党14の獲得議席数ですが、この差は現代の政治状況の何を示しているのか、ということを考えてみたいと思います。
 左の表は党派別獲得議席数ですが(東京新聞7.22日付)、参政党は1から14へと、14倍増です。選挙がはじまったころの神谷宗幣代表の予想は6議席程度だったのに、それを大幅に上回りました。
 この「あっと驚く」躍進ぶりは、昨年11月の兵庫県出直し知事選を思い出させますね。議会から不信任決議をされた斎藤元彦知事が再び立候補し、選挙前の予想を覆して再選されました。最初はほとんどの人が彼が再選されるとは思ってもいなかったわけですが、街頭演説に集まる兵庫県民の姿がしだいに増え、わずか17日の選挙期間中に「あっと驚く」逆転をしました。
 これについては「なぜ兵庫県民は斎藤知事を再選したのか」(『山本太郎が日本を救う④れいわ躍進 膨らむ期待』所収、アマゾンで販売中)で詳しくふれています。彼を再選させた理由として「マスメディアが言うこととは違い斎藤知事は悪くない」という情報がSNSで広まったこと、N党(NHKから国民を守る党)の立花孝志氏が「当選をめざさない立候補」で斎藤知事を応援、触媒役を果たしたことを上げています。我々としては、「わずか2週間余の選挙期間中に世論の流れが急転回した」ことに驚くと同時に、その素地を生んだスマートフォンを通したSNS情報の威力に危惧を感じたわけです。
 今回、参政党に票を投じた人はどういう人たちなのか。これはいずれ詳しい分析が行われるでしょうが、とりあえず①30代や40代も含めた若者層の票が多い、②自公、立憲民主、さらには共産党まで、既存政党の票が参政党や国民民主党に流れた、③投票率が58.51%と前回の52.05%を6ポイント以上も上回ったのは、若者層の政治参加を促した結果だと思われるが、その多くが参政党や国民民主に流れた、ということが言えると思います。

A 日ごろスマートフォン上のSNSに親しみ、新聞やテレビをほとんど見ない人が、参政党に投票したんじゃないですか。そういう意味では既存政党の衰退やマスメディアにおけるジャーナリズムの衰退と根っこは同じ気がしますね。

B 兵庫知事選ではマスメディアの情報が不十分だったために、人びとはSNSに真相を求めた面があったと思うが、今回は様相がだいぶ違いました。選挙の争点が参政党の「日本ファースト」にあおられた形で外国人問題にそらされ、しかもマスコミがそれに乗っかかって、その種の報道ばかりしたのが、参政党に大きな追い風になったのだと思います。山本太郎が「マスコミの争点そらし」を強く批判していたのは、そのことです。
 日本経済がここ30年以上疲弊して、国民の生活水準は押しなべて低下しています。そこへ、円安を利用して海外から多くの観光客が訪れ、そのためにホテル代が高騰するなど国民生活に影響を与えているし、外国人が引き起こすトラブルも報道されています。そういう漠然とした国民の不安が参政党の「日本ファースト」に引きつけられ、一気に排外主義的というか、保守的モードに流れた。兵庫県知事選で立花孝志氏が果たした触媒役を、きちんとした選挙報道を怠り、参政党の実態についても十分な報道をしなかったマスメディアが果たしたと言えなくもないですね(意図しているかどうはともかく)。

A 一時、日の出の勢いだった維新には陰りが見えています。だから参政党もそのうち退潮に向かうだろうと楽観する意見もありますが、そのときは、また別の政党が出てくる可能性を否定できない。都知事選における石丸(伸二)ブーム、兵庫県知事選のどんでん返し、今回の参院選における参政党躍進――、同じ流れに乗った一連の動きのように思えます。

・空洞に落ち込んだ日本民主主義

B 前回、参政党の憲法構想案のアナクロニズムについてふれましたが、こういう政党が国会で15議席も得て、法案提出の権限を獲得しました。ヒトラーのナチス台頭を持ち出すまでもなく、日本の民主主義はいま大きな空洞に落ち込んでいるように思いますね。

A 友人がこんなことを言っていました。

 参政党の正体や憲法草案や言動なんか関係ないんですよ。ワンイシューが気に入ったら盲目的に「推し」てしまう。私の周辺でも参政党に入れ込んだ人びとは、「子ども1人に付き毎月10万円支給してくれるなんてスゴイ!」、「最近、外人が増えてイヤだ、参政党に追い返してほしい!」など、そんなワンイシュー亡者なんです。

  参政党躍進を後押ししたのは財務省だという人もいます。参政党がこれからの政局で消費税ゼロあるいは減税を主張するとは思えないですね。前川喜平さんが投票日のⅩ(旧ツイッター)に「神谷宗幣(同党代表)は日本の恥だ。(自民党の)西田昌司(氏)も杉田水脈(氏)も日本の恥だ。それが分からない有権者も日本の恥だ」と書いたら、数百万の反応があったらしい。ついでに言えば杉田水脈氏は落選しました。参院議長をつとめた山東昭子氏も。彼女は現在83歳ですよ。立候補するのがおかしい。

B 前川ツイートは新聞などでも取り上げられましたが、これを報じたヤフーニュースに対する前川批判のコメントがまたすごい。「自らの意向に沿った選挙結果にならなかったからといって、 民主主義の根底である民意を無視し、 有権者を愚弄すべきではないのではないのでしょうか」というのもあったけれど、「民主主義の根底である民意を無視した」などと居丈高に大義名分を掲げる人が最近増えているのは大いに気になりますね。

A 前回、れいわにしようか、参政党にしようかと迷っている人のことにふれたけれど、開票結果を報ずる東京新聞にも、悩んだ末に比例は「参政党」にした人を紹介していました。れいわと参政党の区別ができないということが不思議なんだけれど、そこには世論調査ばかりやって、何の主張もしない、あるいは参政党の危険な体質にふれないマスメディアの報道の仕方も大きく影響していると思いますね。

B れいわは前回より1議席多い3議席を獲得しましたが、予想に比べると、たしかに期待外れでした。大きく括ったリベラル勢力という側面で考えると、野党第一党である立憲民主党は横ばい、共産党は議席減です。それから見ると、れいわはわずか1議席増ではあるが、比例特定枠の伊勢崎賢治氏の当選など、それなりの実績を獲得したとも言えますね。社会民主から立候補したラサール石井氏や、みらいの党のIT技術者、安野貴博氏の当選も明るい側面です。N党、再生の道は当選者なし、保守党からは北村晴男、百田尚樹の2人が当選しました。
 れいわが比例区で獲得した票を過去と比べてみると、2022年参院選は231万9156票、今回は387万9914票で、れいわ支持者は着実に増えています。全体に占める得票率でみると、4.4%、6.6%となります。ただし前回(2024年)衆院選の比例得票数380万5060票からすると、あまり増えていません。これに比べ参政党の得票は742万5053票で、れいわの2倍近い。今回は投票率が高かったことをあわせて考えると、若者票がかなりれいわから参政党に流れたと考えた方がいいですね。れいわが掘り起こしてきた政治的無関心層、若者層が、あるときは石丸候補に、あるときは参政党に流れているわけです。

A 社会全体の保守への回帰は否定しようがないですね。保守的思考自体は必ずしも悪いとは思わないが、似非保守が跋扈しているというか‣‣‣。立憲も自民と同じく高齢者に支えられているわけで、若者層全体で見ると、総保守化の傾向が見られます。その中でれいわが1議席増だったことは、よくやったと言えなくもない。
 もう1つ、参政党の当選者14人のうち7人、国民民主17人中5人が女性です。既存政党との対比で言うと、女性の比率が高い。今回の参院選では女性が42人当選し、過去最高だと言われています。女性議員が増えることは歓迎ではあるが、参政党当選者の半分が女性というのはどう考えるべきでしょうね。

B れいわとしてはあまり焦らず、我が道を着実に歩んで行くのがいいと思いますが、参政党は法案提出の権利も獲得しました。さっそくスパイ防止法案を提出するとか言っていますが、この参政党に自公、維新、国民民主、さらには保守党も合流すると、世の中、一気にきな臭くなりますね。
 今回の参院選ではスマホやSNSがいよいよ現実の政治に大きな影響を与えていること、そういう状況下でマスメディアはいよいよその力というか見識を失っていること、そのため日本の民主主義は大きな岐路に立っていることを浮き彫りにしたのではないでしょうか。

新サイバー閑話(128)<折々メール閑話>69

自公の票が国民や参政に流れて、何が変わるのか

 B <折々メール閑話>前回の投稿が4月6日だから、早や3カ月以上たってしまいました。この間もコメ不足と小泉農林水産大臣登場、東京都議選など、話題はいろいろあったけれど、ちょっと体調を崩したこともあり、特筆すべきこともないと思えば、そのようにも思え、なんとなく過ぎてしまいました。そして、あっという間に参院選がやってきました。

A このところの選挙で驚くのは、参政党の躍進ですね。少し前までは石丸(伸二)ブームや国民民主党の躍進があったけれど、石丸新党は都議会議員選挙では全滅しました。国民民主党はこれまでの0議席に対し9議席も獲得しましたが、山尾しおり元議員の参院選立候補をめぐる公認と取り消し騒動も影響して(本人は無所属で東京選挙区から出馬)、一時の勢いがなくなったようです。これに対して、参政党は都議選も4選挙区で候補を立て、世田谷、大田、練馬の3選挙区で、しかもそれぞれ高位で当選しました。大阪府尼崎市議選、愛知県西尾市議選、福井県あらわ市議選でもトップ当選しています。鎌倉市議選でも1人当選しましたね。

 B 参政党は2000年に神谷宗幣氏が立ち上げた政党で、2022年の前回参院選で神谷氏が比例区で当選、2024年の衆院選では比例で3議席を獲得しました。地方議員はすでに140人以上います。
 参政党の新日本憲法構想案(「改憲」ではなく「創憲」と言っている)を見ると、前文では「日本は、稲穂が実る豊かな国土に、八百万の神と祖先を祀り、‣‣‣、心を一つにして伝統文化を継承し、産業を発展させ、調和のとれた社会を築いてきた」、「天皇は、いにしえより国をしらすこと悠久であり‣‣‣、国全体が家族のように助け合って暮らす、公権力のあるべき道を示し、国民を本とする政治の姿を不文の憲法秩序とする。これが今も続く日本の國體である」と、まるで戦前の建国神話のような文章が続き、個々の条文には人権に関する章もなく、全体に法律の体裁も整っていない。時代錯誤の極右政党としか思えませんね。
 ユーチューブのアークタイムズに出演していた憲法学者、石川健治・東大教授によると、「参政党の憲法構想案は必ずしも憲法がわからない人が書いたものではない」らしいのだが、「そこには自分とは違う他社の存在がまったく想定されておらず、歴史によって培われてきた立憲主義的憲法とはまるで異色のものである」と述べていました。
 理念的には、れいわ新選組と対極にあると言ってもいい政党ですが、既存組織とは関係なく支持拡大をはかっている点や、神谷代表が山本太郎代表とほぼ同年代で、党設立も1年の差であるなど、れいわ新選組と表面的に似通ったところもあります。選挙公約などでもナショナリズムや反グローバリズムなどの保守的主張に加え、反ワクチンや減税などの口当たりのいい政策を掲げています。
 このヌエ的な極右政党が今回参院選の各種投票予想調査でも、異常な躍進ぶりであることは、やはり大きな驚きです。支持者たちは憲法構想案を読んでいるのでしょうか。
 NHK世論調査(6月27日から3日間、全国の18歳以上を対象にコンピューターで無作為に発生させた固定電話と携帯電話の番号に電話をかける「RDD」という方法で実施)による各政党支持率は左図の通りです。参政党はれいわを上回っているわけですね。これを年齢別に見ると以下の通りです。この表から次の点が指摘できるのではないでしょうか。
 ①自民、立民、公明、共産という既成政党は高齢者の支持が高いのに対して、国民、れいわ、参政は若者層の支持が多い。このところの選挙で明らかなように、高齢層と若年層の意識の乖離(分断)がいよいよはっきりしてきた。維新は明らかに退潮傾向にある。
 ②自民、立民、公明、共産という既成政党の票が、とくに若者層で新興の国民、れいわ、参政党などに流れているように見えるけれど、ここで推測をたくましくすると、与党たる自公の票が参政党や国民民主に流れている、すなわち民意はより一層保守化しているというか、右方向に流れているのではないか。

A 参政党は第3、、あるいは第4与党だと言われているみたいですが、「日本ファースト」などという耳ざわりのいいワンフレーズにいとも簡単になびく選挙民の、それこそ民度の問題だと思いますね。背後には怪しげな宗教団体も存在するようですが、そもそも党首が信用出来ない。言うことにこと欠いて、れいわは移民推進政党だなどとデマを振りまく。「国民の危機感を煽り、自身の主張を言い募るのはナチスと同じだ」とれいわ三重サポーターズの仲間が言っていました。

B 右翼政党の台頭はドイツで「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進したように、世界共通でもありますね。既存政党に不信をいだく有権者がテレビで「れいわか参政党に入れる」と言っていましたが、れいわと参政党という、まるで違う政党が同じように見られているわけです。

 ・今回も逸材そろうれいわの候補者

A 今回参院選でれいわは安保問題の専門家、東京外国語大学名誉教授の伊勢崎賢治、経済政策の長谷川うい子、主婦パワーの奥田ふみよなどの逸材を比例に立て、選挙区でも東京で元衆院議員の山本譲司、神奈川で元外交官の三好りょう、京都で教育学博士の西郷みなこ、広島で弁護士のはんどう大樹など、他党とは明らかに際立つ人材を擁立しています。顔ぶれ一つ見ても、れいわの政治に取り組む真剣さが感じられますね。有権者がかっと目を見開いて投票することを期待したいです。伊勢崎氏は比例の特定枠だから、当選したも同然ですが、国際問題がいよいよ緊張している今、なぜ他の政党にこういう人材がいないのかはよく考えてもらいたいです。

B 以前、このコラムで政治家の劣化を取り上げたけれど(『山本太郎が日本を救う』第1集、「まともな人間を育てない教育」参照)、保守化する若者層を見ていると、いびつな社会や教育の犠牲のようにも思えます。まともな人びとももちろん多いわけだけれど、大きく見ると、フランスの歴史家、エマニュエル・トッドが言うように、教育が知性を育むことから離れて、ただの「資格」取得のためとなり、物事を深く考える暇もなく、ただ学歴だけを積み上げていく人間を生み出している。これは世界的傾向で、日本もまったく同じ。それは指導層にも言えるし、国民全般にも言えるのでは。こういう状況下での参政党躍進でもあると思います(トッドは最近、『西洋の敗北』という本を書き、独特の視点からウクライナをめぐる現代世界情勢を分析している)。

A 今回参院選比例区で興味深い顔ぶれとしては、2024年都知事選で落選した蓮舫氏が立憲民主党から再挑戦すること、梅村みずほ氏が維新から参政党に鞍替えして立候補したこと、タレントのラサール石井氏が社会民主党から立候補していることですね。先の都知事選で15万票を得たIT技術者の安野たかひろ氏も「チーム未来」から立候補しています。

 B ラサール石井氏の社民党からの立候補には男気を感じますが、じり貧傾向の社民党を救えるかどうか。

 A 都知事選では石丸ブーム、今回参院選では参政党台頭、そのつどウケ狙いの連中が登場しては消えてゆく。それだけで何も変わらない。と言いつつ、変わらないのは山本太郎ただ一人!