新サイバー閑話(112)<折々メール閑話>53

混沌の先に激変の兆し。焦点は7月の都知事選

B ここ1年ほどの日本を見ていると、どんどん悪くなっていくというか、いよいよ衰退し、沈滞していく傾向をひしひしと感じますね。政治の堕落が官界、経済界、メディア界に広がり、日本全体がまさに混沌として、「液状化」という言葉がぴったりです。こういう状況を象徴しているのが、人物で言うと、岸田文雄首相と小池百合子東京都知事、政党では、自民党とその亜流とも言うべき日本維新の会ではないでしょうか。
 最近のニュースを拾うだけで、彼らが繰り出す日々の行動の軽薄なこと、自分本位なことにあきれてしまいます。まさに「今だけ、自分だけ、金だけ」、彼らの念頭には政治理念も国民の存在もありません。
 たとえば岸田首相。6月から始まる「定額減税」を自分の手柄と印象づけたいために「減税額を給与明細書に明記する」ことを企業側に義務づけた。企業、とくに中小企業の煩雑な手間のことは考えていない。たとえば小池都知事。都議会で経歴詐称疑惑に関して追及されても、それを役人に答弁させる。7月の都知事選は立憲民主党の蓮舫参院議員が名乗りを上げるなど熱気を帯びてきましたが、28日には都内の区市町村長有志などが小池知事の3選出馬を要請するパフォーマンスがありました。62区市町村長のうち52首長が名を連ねたというが、1関係首長が明らかにしたところでは「先方の応援依頼」が「当方の出馬要請」へとすり替わったものらしい。経歴詐称疑惑打ち消し工作を彷彿させるやり方です。日本維新の会の大阪万博をはじめとする政策の綻び(無責任さ)はひどいものだが、同党はいま露骨に自民党にすり寄っています。当の自民党の裏金問題は言語道断ながら、最近、自民党議員の何人かが、自分が代表を務める政党支部に自ら寄付することで、所得税の一部を還付させるという、個人献金促進のための税制を悪用した〝私腹肥やし〟をしていたらしい。いやはや。

A これらの出来事をメディアは、ただ事実として垂れ流すだけの報道をして、権力者の宣伝に大いに貢献している。昭和の時代にはあったブンヤ精神がいつの間にか無くなって、「両論併記」で事足れりとするサラリーマン化した連中ばかりになった。本田靖春の名著『警察(サツ)回り』に生き生きと描かれているブンヤの交流風景など今は望むべくも無いのですかね。

B こういう状況になった遠因を考えると、まず、組織のトップが無能であると、有能な人材が集まらないという古今東西を通じての真実に気づきます。自分が無能だからそれを補完する有能な人材を回りに集めるということは起こりにくく、むしろ自分の地位を脅かす有能な人材を排除し、自分を忖度して動いてくれる、あるいは自分の地位を脅かさない無能な人材を集める。優秀な人材を回りに集めるような人は、すでに無能ではないですね。
 自民党政権はこの負の連鎖を拡大生産してきた。岸田首相もそうだし、管元首相もそうだと思うけれど、やはりその前、12年も続いた安倍元首相が負のサイクルを大々的に醸成し、促進した。いったん出来上がった負のサイクルを変えることは至難であり、そういう実態が長引けば長引くほど、弊害は幾何級数的に大きくなります。無能であるために選ばれた幹部が、さらに無能な人材を回りに集め、有能な人材を芽の若いうちに摘み取ってしまう。将来のためにすぐれた人材を育てようとは思わない。その結果が現在日本の政治状況、ひいては社会状況だと言っていいでしょう。
 そこではまっとうな思考そのものが駆逐される。負のサイクルに抗い、正論をはいたり、誤った意見を批判すると排除される。これが権力監視を旨とすべき記者たちにも及び、悪貨が良貨を駆逐するように、大手メディアのジャーナリズムは死滅しつつあります。

A 最近、前川喜平さんが「朝日新聞読むの、もう止めようかな」と発言した「悩みのるつぼ」問題はその象徴ですね。
 朝日新聞土曜版「Be」に「悩みのるつぼ」という人生相談コーナーがあって、そこに50代の男性が、「不正義や理不尽な行動を伝える新聞報道を見るたび、怒りに燃えて困っています。ロシアの軍事侵攻、イスラエルのガザへの攻撃―最近では、アメリカ大統領選の報道。‣‣‣絶望的な気分になり、夜も眠れません」という投稿をした。その回答者がタレントの野沢直子さんで、彼女は「このお悩みを読んで、まず最初に思ったことは、そんなに心配なさっているのなら実際に戦場に出向いて最前線で戦ってくればいいのにな、ということです‣‣‣あなたがそこまで心配しているなら、その地に行って自分の目で確かめてくるべきだと思います。‣‣‣人間とはないものねだりな生き物で、あまり幸せだと『心配の種』が欲しくなってくるのだと思います。失礼ですが、それなのではないでしょうか」と驚くべき回答をしたわけです。まるでバラエティ番組で、すべてが「やらせ」ではないかとすら思えてきます。
 しかし問題はその先にあった。編集委員だという人が朝日新聞DIGITALで「野沢さんの回答、ぶっ飛んでいうようで重いです。そこまでしなくても、沖縄に行かれて、本土ではまれな米軍基地と隣り合わせの生活をご覧になればどうでしょう。相談者の方がそこで『不正義や理不尽』を感じたなら、同じ日本人として声を上げるという『手だて』があります」とコメントしたんですね。
 彼の態度は完全な第三者というか傍観者的で、ジャーナリストとして投稿者に向き合う姿勢や社会の矛盾に切り込むという覚悟がまるでありません。

B 自分がジャーナリストだとも考えていないわけですね。しかも編集委員氏は「政治・外交・憲法」が専門だと自ら名乗っている。小池都知事の経歴詐称疑惑をめぐっても、真正面から知事を追及しようとしない都庁担当記者の無気力と同じものを感じますね。前川さんが「朝日新聞をやめようかな」と思うのもむべなるかなです。
 泉房穂・前明石市長が「マスコミの政治部は解体せよ」と言っていたけれど、朝日新聞も中枢から腐って全部門に及んでいる気がしますね。
 自立精神を失い、その場の空気に流されていく。明らかにおかしいと思われることも、一部の批判の声はかき消され、だらだらと続いていく。統一教会と自民党議員とのずぶずぶの関係、コロナ対策の無策、東京オリンピックの利権構造とそれを摘発しない検察当局、自民党の裏金問題――メディアが歯止めになるどころか、それと同じ空気の中にどっぷりつかっている。

A 国際的なNGO「国境なき記者団」が5月3日、2024年の「報道の自由度ランキング」を発表しましたが、日本は前年からさらに順位を下げ、G7主要7か国で最下位の70位となりました。
 発表によると、180の国と地域のうち、1位はノルウェーで、2位はデンマーク。「国境なき記者団」は日本の状況について、「伝統やビジネス上の利益、政治的な圧力や性別による不平等などが権力の監視役としてのジャーナリストの役割をしばしば妨げている」と指摘、「日本では政府や企業が主要メディアに日常的に圧力をかけていて、汚職、セクハラ、健康問題、公害など、センシティブとされるテーマについて、激しい自己検閲が行われている」とも言っています。こういう指摘に当のメディアが正面から反論することもないし、「ロシア、中国、北朝鮮、ミャンマーなどの独裁国家に比べればはるかに自由である」、「指標の取り方に問題があるのではないか」などと言って、恥ずかしいとも思っていない。特ダネを雑誌、とくに『週刊文春』に抜かれっぱなしでも何の痛痒も感じない。何のために新聞記者になろうとしたのか、その根本に疑念を感じます。社内教育も行われていないのではないか。

・進む既存制度の空洞化、骨抜き

B もう1つの遠因は、無能なリーダーほど権力を自己に集中したがることです。安倍元首相の安保法制定の時、これは「非立憲政権による上からのクーデター」だと批判した憲法学者がいたけれど、安倍首相は民主主義という制度に埋め込まれていたチェックアンドバランスの仕組みである三権分立制度を、自分の仲間を行政や司法のトップに送り込むことによって破壊した。メディア攻撃も激しく、朝日新聞がダメになったのも、1つには、この攻勢に負けたからです。報道の自由度ランキングは、安倍政権以前の2010年には17位だったこともあったんですね。
 既存制度の空洞化、骨抜きの例として、最近、興味深い例がありました。横浜市立学校教員による児童生徒へのわいせつ事件の裁判で、市教育委員会が横浜地裁法廷に職員を動員し、破廉恥事件の公判をなるべく部外者が傍聴できないようにした。市教育委員会の5月21日の発表では、2019、23、24年度に審理された4事件の公判計11回で延べ525人に職務として傍聴を呼びかけたそうです。裁判の公開原則を力づくで封じたわけです。だれがこんな臆面もないことを考えつくんでしょうね。
 この事件が明るみに出たきっかけは、東京新聞記者の「さして有名な事件でもないのに、やけに傍聴人が多い」というちょっとした疑問でした。東京新聞紙上で当該記者が経緯を書いていますが、傍聴席は48しかないのに、法廷入口にスーツ姿の男女60人ぐらいの行列ができていた。記者が閉廷後、傍聴の1人の後をつけたら、教育機関が入居するビルに入った。その取材が記者会見に結びついたようです。
 教育を看板に掲げる機関がこういうことをやっている。何の疑問も感じず、動員される人もどうかと思いますが、出張旅費なども支給されていたようで、まことに開いた口がふさがりません。

A ここで新聞記者魂が発揮されたことにはほっとします。そういう記者が社内で評価され、また社会的にも讃えられるようになってもらいたいですね。もっとも、2019年からそういうことがやられていたのに、だれもそれに異論をはさまなかったというのは、ちょっと考えさせられます。

B 危急存亡のときは国や首相に権限を集中すべきだと考えがちなのも、同じ発想の延長線上にあります。そのために都合のいいように法やシステムを変えようとするし、国民の代表である国会の役割は、当然のように軽視する。いざという時に中央の司令塔が誤った判断をすると、その被害は全国に広まる危険については考えない。
 戦国時代の骨肉相食む権力闘争はすさまじくはあるが、そのころは技術が未発達で、影響は直接には庶民に及ばなかった。現代IT社会では事情が違います。だからこそ権力集中は恐ろしいという健全な良識というものが働かない。

A 今国会の衆院で可決した地方自治法改正もそうですね。大規模災害や感染症の蔓延など「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」と政府が認定すれば、個別法に規定がなくても政府が必要な対策を自治体に指示できるようになり、これは一見効率が良さそうだが、危急存亡の時に政府が誤った場合は一億総崩れです。しかも、いまの政府に賢明な判断をする可能性はきわめて低い。身近な住民と直接接している地方自治体が個々に判断する方がいいと思いますね。コロナ禍のときの「小中高の一斉臨時休業」とか「アベノマスク」の愚を思い出すべきです。

B 2000年に施行された地方分権一括法は、国と地方の関係をこれまでの上下・主従関係から対等・協力関係へと転換し、個々の市町村において、政策を立案、実行していくための行財政基盤の強化をめざしました。今回の改正法はこれに逆行、地方を国に従わせようとするものですね。地方自治体からも反対意見が聞かれます。何もかも中央で判断する体制ができると、地方は国頼みの発想をいよいよ強め、判断能力そのものを喪失してしまう恐れも強いでしょう。

A これと軌を一にするように、力づくの政策への同調圧力も強まっています。

B 社会の潮流に異論をさしはさむと異端視されるばかりか、逆に処分されることは、これまでも山本太郎やれいわ新選組の大石あき子、櫛渕万里議員などの例で紹介してきましたが、最近、東京都議会でも同じようなことがありました。
 小池知事の経歴詐称疑惑については前回、詳しく紹介しましたが、東京都議会で答弁を求められた知事は、本人に関わる個人的な質問にすら答弁せず、代わりに側近の政策企画局長が答弁するという異常な事態が続いてきました。
 5月13日の都議会予算特別委員会で立憲民主党の関口健太郎議員が、小池知事は「知事に対して厳しい質問や耳障りなことを言う議員には76%の確率で答弁拒否する」、「質問する議員によっても違いがあり、これは答弁差別である」などと小池知事を追及しました。当の知事(右写真左端)はその答弁も拒否、政策企画局長がまさに官僚的な答弁をしていました(気の毒ではありますね)。問題はその後で、都民ファーストの会、自民党、公明党が「質問者は答弁者を決定する権限はない」などとして、同議員の発言は不穏当であるとして発言の取り消しを求める動議を提出、それが可決されたわけです。

・蓮舫、石丸伸二、そして小池百合子

A さすがに政権交代を求める国民の声も強まってきました。先の東京、長崎、島根の衆院補選に続いて、静岡県知事選でも自民候補が破れました。目黒区の都議補選もそうで、このところ自民党は選挙で全敗(不戦敗も含む)と言っていいですね。
 そして7月には焦点の都知事選です。小池知事の経歴詐称問題は尾を引いていますが、今回選挙では石丸伸二安芸高田市長に続いて、蓮舫立憲民主党参議院議員も立候補を表明しました。小池知事は31日現在、立候補を正式表明していませんが、3選に名乗りをあげてまた「カイロ大卒」の肩書を掲げたら「経歴詐称で告発する」と元側近の弁護士(小島敏郎氏)が言っている中でどう対応するのか。また小池知事の定見のない都政については、ようやく都庁内部からも批判の声が高まっているようです。

 B 小池知事が初めて都知事選に打って出た2016年には反自民を掲げていたのだが、その後は自民党と歩調を合わせてきました。最大の関心が権力の座をいかに維持するか、さらに上をめざしたいということだから、ときどきの風向きで政策が変わる。要するに政治理念というものはない。
 これは岸田首相も同じで、精神の下劣さは勝るとも劣らないでしょう。岸田首相をめぐる自民党内の駆け引きも熾烈を極めているようですが、とりあえず解散は先に延びたようで、当面の焦点は7月投開票の都知事選になるでしょう。
 石丸伸二安芸高田市長は次期市長選に立候補せず、都知事選に出馬することを表明しています。彼に関しては、<岸田首相と石丸安芸高田市長の器について㊷>で詳しく紹介しました。保守党市議との間で派手な喧嘩をしてユーチューブの人気動画になりましたが、主張はきわめて明解、今回も「東京を通して地方を活性化させる」と述べており、台風の目になる可能性もあります。他にも続々名乗りを上げる人が出ており、混沌の先の激動を占う選挙戦として大いに期待したいですね。