新サイバー閑話(4)

ゲームおたくがアスリートになる日

 新聞に2024年パリ五輪組織委員会委員長が「eスポーツを追加種目には提案しない」と語ったという記事が出ていた。eスポーツとはエレクトロニック・スポーツ(electronic sports)のことで、会場に設けられた大きなディスプレイに映し出されるコンピュータゲームの〝闘い〟を観戦するものである。

 たしか今年はじめだったと思うが、eスポーツという言葉を最初に聞いた時は違和感をもった。陽光のもと、屋外で全身の筋肉を使って体力の限界に挑戦するのがスポーツとすれば、コンピュータゲームは暗い室内でただひたすら指だけを動かしているに過ぎない。そんなものをスポーツと呼べるのだろうか。

 しかし、あるゲームが行われ、それを多くの観客が入場料を払って観戦、多額の賞金も発生すれば、それは立派な「スポーツ」かもしれない。要は定義の問題で、「フィジカル(肉体の)スポーツ」に対して、チェス、ポーカー、囲碁、マージャンなどを「マインド(思考の)スポーツ」と呼ぶ例もあるから、「e(電子)スポーツ」があっていいということになる。

 1990年代後半から2000年代初頭にかけてオンライン上で対戦するゲームソフトが増えるにつれ、北米を中心とした海外で、eスポーツがブームになった。プロゲーマーの中には大会の賞金だけで年間数億円も稼ぐ人が大勢いるとか。ソフトとしては『Dota 2』(ドータ・ツー)という、2チームが5対5に分かれて戦うゲームが有名らしい。毎年8月にシアトルのキーアリーナで世界最高賞金額の大会が開かれている。会場の真ん中に設置されたディスプレイの巨大さは圧巻である。

 eスポーツはアメリカ、中国、韓国で盛んだというのも興味深い。今年ジャカルタで開かれたアジア大会ではデモ競技として実施され、サッカーゲームの部で日本チームが優勝している。次回の中国大会では正式競技に採用されるという。日本eスポーツ連合が2月に設立されている。今年秋からは地上波テレビもeスポーツ関連の番組を流し始めた。eスポーツという言葉は、2018年のユーキャン新語・流行語大賞のトップテンに選ばれている。

 eスポーツをオリンピック競技に加えようという動きもあるが、トーマス・バッハ、オリンピック委員長は「オリンピックのプログラムに暴力や差別を助長する競技が入ることはありえません」と、今年9月に述べている。冒頭の話はパリ大会でもeスポーツ採用はないことを示唆したものである。

 しかし、しかし。

 自分の部屋にとじこもり、ゲームばかりしているやせ細った少年が、その後eスポーツのアスリート(スポーツマン)となり、野球選手やサッカー選手のような大金を稼ぎだす日も遠くなさそうである。

肉体に依存しなくとも、身体『脳』力  はアスリートの才能なのだ

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