東山「禅密気功な日々」(22) 動功編⑤

吐納気法と慧功<動功もまた瞑想の一部である>

 気功には築基功、陰陽合気法(天地部)のほかに、双雲功、吐納気法、慧功、洗心法、陰陽合気法(人部)、灌頂法、三密相応、霊至法、双至法などいろんな功法があります。中には密教系の加持祈祷のように印を結んだり、呪文を唱えたりするものもありますね。

――気功は古い歴史を持っていますが、禅密気功そのものは劉漢文先生が1980年代に、それまで家門秘伝とされてきた功法体系を公開したものです。密教系の歴史が長かったので、その文化も受けついでいます。本部道場でもそういう功法を教えています。

 すべての功法をマスターされた地点から見ると、築基功はどう位置づけられますか。

――築基功を広げていろんな功法に至るわけで、「築基功から始まって築基功に終わる」と言ってもいいでしょうね。

 太極拳と気功の違いはどういうところにありますか。

――太極拳は武術である拳法の一つです。太極拳でも気ということは言いますが、それは「気力」の気ですね。瞬発力と言ってもいい。気をゆっくり流していたんでは、試合に負けてしまいますから(^o^)。でもいま中国では太極拳(拳法)の試合はありません。型としての太極拳、健康法としての太極拳は、動きがだんだん柔らかくなってきています。もともと太極拳には気を流すという考えはなかったけれど、いまではだいぶ気功の動功に近づいてきたとも言えますね。

 今回は、上級気功士の資格を得るのに必須とされている吐納気法慧功についてのみ、その概略をお聞きします。

――吐納気法は、呼吸に合わせて外界自然の気を取り入れ、体内に流すことにより、内気と外気の自在な交流を日指す功法です。呼吸に合わせて意念を強くし、同時に気を強くします。

 外気との交流という点で、陰陽合気法との違いは何ですか。

――いい質問です(^o^)。陰陽合気法は温かいとか冷たいと感じることで気を取り入れますが、吐納気法はもっぱら呼吸にあわせて外気との交流をめざします。鼻を通して外の空気を吸い、あるいは体内の気を外に吐きます。

 なるほど違うんですね。

――大事なのは鼻、呼吸です。

 吐納気法を練習するためにも、築基功の修得は必要ですね。

――吐納気法には、気を吸うことに重きを置いた一字勢陰陽勢渾円勢などの納気法と、気を吸って吐くことを重視した排山勢立天勢などの吐気法の2通りがあります。

 樹木に向かって立ち、両手を前に伸ばし、息を吸いながら樹木の気を引っ張り、これを陰面を通して下に流したり、意念を手のひら(労宮)と足の裏(湧泉)に置き、その間で気を往復させたり、下から陽面を通して気を吸い上げ、それを労宮と中指から出したりします。
 吐納気法は武術からきて、だんだん柔らかくなった、他人を倒すのではなく、自分の体を動かす方法になってきました。

 集中コースを何度も履修しないとマスターできないですね。

――動作がたくさんあるから、覚えるまではたしかに練習が必要です。集中コースに年2回、20年以上参加している人もいますよ。

 慧功はどういうものですか。

――慧功は深い瞑想とともに、体内の気と天地宇宙の気を交流させ、調和させて心身を柔らかくし、人間が本来持っている潜在能力を啓発し、智慧を開発する功法です。慧功を練習すれば、心の奥深くから湧き出る悦びが表に表れ、精神は広く豊かになり、智慧は一層深くなります。気は体内を自在にめぐり、宇宙と連なり、宇宙の気、そして光と一体になり、自らも光となり、空になり、「空有合一」「天人合一」の境地が得られます。
 慧功を練習することにより、精神を癒し、ストレスを解消することができます。

 慧功は禅密気功の代表的功法だと聞いたことがありますが、どうでしょうか。

――一時はたしかにそう言われました。築基功、陰陽合気法、吐納気法をあわせたような練習をしますが、動きはもっと柔らかくなり、より深く瞑想します。ここまで履修すれば、禅密気功の山の5合目くらいまで来たという感じです(^o^)。

 「深い瞑想とともに、体内の気と天地宇宙の気を交流させ、調和させて心身を柔らかくし、人間が本来持っている潜在能力を啓発し、智慧を開発する功法」というのは、そういうことですね。いよいよ動功が瞑想に近づいてきた印象ですね。

・瞑想はより深く、動作はより柔らかく

――瞑想はより深く、動作はより柔らかくなります。瞑想(静功)は動いてはいけない、動功は動功というふうに分けて考えられているところがありますが、瞑想と動功は同時にも行なえます。禅密気功では瞑想の中に静功と動功があると考えているんですね。慧功はその辺をうまく合わせていると言えます。

 慧功では緩密処と展彗中の練習もしますね。

――全身の緊張を解きほぐし、心身を解き放つことが慧功の基礎で、その第一歩が「松展放収」の練習です。全身の緊張を緩めることにより、気持ちが落ち着き、呼吸が整い、気と息が調和します。
 まず密処を緩めます。密処の緊張が緩むと、それが逐次全身に波及し、血管の流れ、そして気と息の運行が円滑になります。密処を真にリラックスすることにより、全身は緩み柔らかくなり、心は調和され、心の奥底から自然に嬉しさがこみ上げてきます。
 ついで慧中を開きます(「展在慧中」)。慧中が開けてはじめて、自然と「微笑み(歓び)は心の底からとめどなく湧き上がる」という状態になれます。慧中が真に開けば、心身は改善され、悟りが開け、智慧が湧いてきます。

 なるほど。悟りですか。

――「悟り」というのは、人生に対する考えが変わるというか、人生がいい方に変わって見えることです。気持ちが落ち着いてきます。「知恵が湧いてくる」というのはこだわりや悩みがなくなり、視野が広くなることです。

 密処は「鉄の門」と言われるくらい固く、たしかに緩めるのがむつかしいですね。

――密処がほぐれるのには2つのポイントがあります。1つは尿が出そうで出ないような感覚、もう1つはあまり言わないですけれど、性欲の感じが出てきます。

 密処はいったんほぐれるとその状態がずっと維持されるのではなく、いつのまにかもとに戻ったりしますね。しかも密処が緊張していることを気づかせないのがやっかいです。密処はほぐしにくい、ほぐれてもすぐ元に戻る、密処は緊張していることを気づかせない、を私は「密処3原則」と呼んでいます(^o^)。

――人間、いい状態も悪い状態もいろいろありますからね。

 日により体調が変わる、と言うより、刻々と体調が変わることを、歳をとるにつれて敏感に感じるようになりました。だからこそいい状態をなるべく長く保つように心がけたいと思っています。漢方などは日によって、あるいはそのときの体調によって処方を変えると言いますものね。
 緩密処よりも展彗中の方が難しいように思います。慧中が開いて無限の宇宙が見えたかな、と思うこともありますが、慧中模様は曇天、頭に厚い雲が覆っているときもあります。

――ほほ笑むような感じが大事です。顔をやわらかくして、眉間を開きます。たまっていた意識が無限の空に向かって開いていくような感じですね、

 お話を聞いてあらためて思うのは、だからこそ毎日、築基功をやるのがいいのだと。私自身の体験からもみなさんにお勧めしたいと思います。

築基功教本(劉漢文編著、朱剛監修)

◇ 

 これで動功編を終わります。しばらく間をおいて、静功編をお届けする予定です。動功もまた瞑想だということはお分かりになったと思いますが、静功こそが瞑想の本丸、禅密気功の神髄ということにもなります。コメント欄や私へのメールで、ご感想や今後、先生に聞いてほしいことなどをご連絡いただければ幸甚です。

 

 

東山「禅密気功な日々」(21) 動功編④

陰陽合気法<大自然の陰と陽のエネルギーを体に取り入れる>

 鎌倉教室では、築基功のほかは陰陽合気法をもっぱら練習しています。

――陰陽合気法は、自然の陰気と陽気を取り入れて、身体の陰と陽のエネルギーを調和させる功法です。陰気とは地のエネルギー、陽気とは天のエネルギーです。宇宙のエネルギーと一体化した「天人合一」の意識にまで至れば、心身は穏やかに解きほぐされ、健康と活発な精神を得ることができます。

 陰と陽は中国思想の根本でもあるようですが、これについてまず説明してください。

――中国では常にものごとを陰と陽に分けて考えてきました。すべてのものごとには反対の意味がありますし、またその両者を統一することもできます。その考えを健康法に応用しているわけです。神秘とか幻覚とかいう非科学的なものに関連づけて説明すると、なんだかすばらしいように思えますが、かえって本質から離れてしまいます。大事なのはわかりやすく説明することです。

 体の前を陰面、背中の方を陽面と言いますね。犬などの四足動物で言うと、お腹が陰、背中が陽というのはわかる気もしますが‣‣‣。

――内側が陰、外側が陽。表が陽、裏が陰でもあります。腕でいうと、外側半分が陽、内側半分は陰ですが、細かく言うと、腕の外側3分の2ぐらいが陽です。

 陰陽合気法を練習するためには、築基功を修得しておくことが必要で、陰陽合気法の基本姿勢も「三七分力」、「三点一線」、「緩密処」、「展慧中」ですね。

――ここで陰陽合気法というのは「天地部」のことです。これとは別に「人部」がありますが、ここでは天地部について、順を追って説明します。
 最初が「築基法」です。まず、ゆるやかに嬬動します。次に、さらに深く瞑想、内視し、内に深く気を生み育て、行き渡らせます。その気は自然に外部ともつながり、内にも外にも気を配ることになります。動作は力を入れず、立ち止まらず、緩やかに、軽く、柔らかく、円くし、大小相まじって千変万化します。

 築基功の蠕動は、もっぱら体内の気を動かすが、築基法では外部との関係を重視するということでしょうか。

――そうでもありますが、自分の姿が見えるように、気をもっと感じるように、より強く瞑想します。目をつぶっても自分の姿が見えるようにします。

 瞑想の度を深めるということですね。

――「三円功」では、腹腔内に気を回して「先天の気」を育て、拡大させます。渦巻き状に円を描くように気を回します。円の描き方は「平円」「側円」「正円」の三つですが、どの円も下腹部の中心から渦を巻くように広がって、そして外周から中心に戻ります。
 「平円」を描く場合は、捻動と合わせて水平に回します。「側円」の場合は、擺動と合わせて時計方向(逆方向も可)に回します。円が大きくなったときは、上は鳩尾のあたり、下は密処を通します。さらに「正円」の場合は、蛹動と合わせて前後に回します。大きくなったときは、「側円」と同じように対処します。

 「先天の気」については以前もお聞きしましたが、「後天の気」との関係でもう一度説明してください。

――昔からいろんな言い方があります。たとえば生まれる前の気、生まれた後の気というとらえ方があります。生まれつきの気を先天の気と言ってもいいです。生後半年もたたない赤ん坊は病気もしません。そのうち食事をしたり、悩んだりして体に支障が出てくる。これを後天の気と言います。道教ではもともとの世界は「天人合一」と考えていたんですね。
 だから、こう言ってもいいです。先天の気は病気のない気、元気な気です。これに対して、社会生活の中でいらいらしたり、刺激を受けたりして乱れた気が後天の気です。この後天の気を先天の気に戻すようにするのが健康の秘訣です。

 なるほど。三円功は「腹腔内に気を回して『先天の気』を育て、拡大させる」わけですね。

――「先天の気」に戻す、と言ってもいいですね。

 もっぱらお腹を中心に気を動かすのは、どういう効果がありますか。

――丹田はへそ下三寸あたりにありますが、これは医学的に言えば小腸の部分です。気功にはいろんな流派がありますが、丹田を重視するのは共通しています。伝統的には、体に入ったエネルギーはまず丹田に集まり、そこから全身に広がっていくとされています。現代医学で言えば、食べたものは消化されてまず小腸に行く。ここで栄養分は吸収されて血液とともに全身に回ります。小腸が健康に大きな影響を与えることが明らかになっています。

 小腸が大事だということですね。

――今では小腸の働きと穏やかな気持ちは関係があるとも言われています。丹田に気を集めると落ち着いた感じが出てきます。気が頭の方に上っていると、気持ちが安定せず、落ち着きません。エネルギー吸収にもよくないですね。

 禅などでも「気を丹田に養う」とか「上虚下実」などと言いますね。

――3つの円の共通の要点は次の5点です。
 ①目を閉じて意念で気を引き連れていくよう、帯のような気の流れを見つめる。
 ②方向を変えるときにはS字状に動かして、気の流れを変える。
 ③円の大きさは身体の外に出ない。
 ④回数は、男性が3の倍数、女性が2の倍数。
 ⑤手は下腹部に重ねて行なう。男性は左手の上に右手、女性はその逆にする。

 「帯のような気の流れ」を実感することが大事ですね。ところで、男性と女性では回数や手の置き方が違うのはどういうことでしょうか。

――気になりますか(^o^)。厳密に守らなければ効果がないのかと言われると、そうでもないわけですが、ここに陰陽の考えが反映しています。女性は陰、男性は陽です。もちろん人間としては同じですが、違う面もありますね。その一つの現れですから、まあ従っておいていいでしょう。

 三円功が終わった後は、「接地陰」と「通天陽」に移るわけですね。教室などでは三円功を後でやることもありますね。

――そのときの状況や都合によって三円功を後にやることはありますが、三円功は陰陽合気法の前提を整えるものでもありますから、やはり最初にやるのがいいですね。

・温かくなったなと思えば、温かくなる

「接地陰」は、陰のエネルギーを取り入れて、体内の気の調和を図ります。「三円功」が終わり、気が下腹部に戻り、集中したところから始めます。
 ①意念で気を引き連れて、下腹部から密処、腿の内側、両足の裏側を通して、陰面に沿つてはるか深く地根にまで至ります。井戸の中の冷たい水に全身が浸るようなイメージを持ちます。
 ②次に気は地根から上り始め、両足の裏側を通して、両腿、密処、腰から陽面に沿って下腹部に戻り、再び地根に向かいます。
 ③軽く、柔軟に蝠動して、手は柔らかく気を導くようにします。
 ④意念の行くところは、手と気だけが行くのではなく、目も耳も同行します。
 「通天陽」は、陽のエネルギー(天陽)を取り入れて、体内の気の調和を図ります。「接地陰」に引き続いて、下腹部に戻った気を天根にまで到達させます。
 ①気は下腹部中心から密処を通して、陽面に沿って上に上り、天頂を通して天根に通じます。意念で気を引き連れ、手は気の流れを導きます。暖かい太陽のエネルギーを浴び、包まれるようなイメージを持ちます。
 ②次に気は天根から降りて天頂を通り、陰面に沿って下腹部、密処を通して下り、そのあと再び上に上ります。
 ③「接地陰」と同様に、軽く嬬動し、手は柔らかく気を導き、意念は気の流れを見つめます。

 接地陰では地下深くにある冷たいきれいな水を意識し、蠕動しながらそれをかき回す。また通天陽では「太陽、月、星、雲など、あらゆるエネルギーをまとめて」ボールにして、その太陽のボールを天頂で見る。そこから温かい気を引っ張ってくるわけですね。
 陰の気が上ってくるとその部分が涼しく、また陽の気が下ってくるとその部分が温かく感じると言いますが、最初はなかなかうまくいきません。その感覚は人によって違うということでしょうか。感じられない場合は効果がないのでしょうか。

――人によって違いはありますが、温かくなってきたなあと真剣に思えば温かくなります。涼しいなあと真剣に思えば涼しくなります。想像を込めて練習するわけです。

 なるほど。ここがポイントですね。意念を強くするとは、イメージを喚起しそこに集中するということですね。

昇降法」と「合気法」は応用編のようでもありますね。

――「昇降法」は身体を左右半分ずつに区分して、左右両側を通して気を昇降させます。「地―人―天―人―地」と気を循環させます。
 ①「接地陰」で気を地根にまで入れた後、地根から左足、左半身を通して引き上げ、天根にまで到達させます。
 ②次に天根から気を引っ張り、右半身、右足を通して、再び地根に入れます。これを繰り返します。
 ③柔らかく軽く嬬動し、手は気を導き、意念は気を引き連れるように気の流れを見つめます。
 「合気法」は陰気、陽気を用いて「陰陽共盛」を図り、身体の全体的調和を実現します。
 ①「昇降法」に引き続いて、地根に到達した気を両足を通して陽面に沿って引き上げ、そのまま天頂を通して天根に届けます。
 ②次いで天根の気を引っ張り、天頂を通して陰面に沿って下に降ろし、再び地根に到達させます。これを繰り返します。
 ③柔らかく軽く嬬動し、手は気を導き、意念は気を引き連れるように気の流れを見つめます。

 陰陽合気法でも、収功がありますね。

――「収法」は気を下腹部中心に戻して、手は下腹部で解脱印を結び、天地人の気を収めます。目も耳も下腹部に集中させ、見、聞きます。気の感じがまとまり、集中し、安定し、消えたら、静かに目を開けて、終わります。

 収法は築基功の収功と同じですか。

――まったく同じです。

 陰陽合気法では、地―人―天―人―地という感じで、体内の気と外気を交流させるわけですね。

――そのための功法です。さっきも言いましたが、意念の働きが大事です。感じる、感じないと言うよりも、感じるように強く意識することです。雑念が入るとなかなか集中できませんが、練習を続けるうちに雑念は少なくなり、集中できるようになります。がんばってください(^o^)。

 これは陰陽合気法の主要部分の動画です。それぞれの功法の概略を知ることができます。