新サイバー閑話(39)謹賀新年

あけましておめでとうございます。

 正月5日に「男はつらいよ お帰り寅さん」を見てきました。平日とはいえ、劇場は高齢者でほぼ満席、パンフレットを買おうとしたら、売り切れでした。

 記念の50作目は寅さんの甥の満男とかつての恋人、泉が再開する3日間の出来事からなっており、その間にかつてのマドンナたちやいくつかの名シーンが織り込まれ、懐かしくもあり、楽しくもありました。マドンナではリリーを演じた浅丘ルリ子だけが登場しています。

 私は公開された49作は全部見ています。昨年夏、本サイバー閑話<平成とITと私>で『ASAHIパソコン』創刊をめぐる思い出を記録するため古い書類を整理していたら、まだ新聞社の整理部時代(1970年代中ごろ)に書いた、忘年会用寸劇のシナリオが出てきました。地元の大学の女子大生に助演を頼み、参加者に寅さん役を演じてもらったのですが、セピア色した用紙の手書き文字を見ていると、「当時、こんなことをしていたのか」と懐かしくなりました(登役は幹事がつとめた)。

 新年のご挨拶代わりに、そのシナリオを仮名遣いもそのままに復刻して、ここに紹介しておきます。まさにご笑覧ください。

男はつらいよ

西部整理部忘年会脚本復刻

 物のはじまりが一ならば、国のはじまりが大和の国、島のはじまりが淡路島。泥棒のはじまりが五右衛門なら、博奕打ちのはじまりが熊坂長範。ねえ兄さんは、寄ってらっしゃいの吉原のカブ。産で死んだか三島のおせん。四谷からこうじ町、ちゃらちゃら流れるお茶の水、粋な姐さん立ち小便……

寅次郎 どうぞ近くによって見てやって下さい。結構毛だらけ猫灰だらけ、これまた結構な××新聞だよ。

女学生A トラさん、いつから新聞売りはじめたの。

寅次郎 今は情報化社会。地道に勉強しないと時勢に遅れるからね。(観衆に向って)やあ、××新聞の労働者諸君、ごくろうさん。あぶらと汗とインクにまみれて、一生懸命働いているかい。そう、赤えんぴつ握って、めしも食わずに訂正出して……。考えてみれば君たちも貧しい人たちだなあ。

女学生B そんなこと言うもんじゃないわ、トラさん。ではあなたは一体何階級の人なの。

寅次郎 そうだなあ、まあ中流じゃないの。

女学生B 中流ってのは、カラーテレビとか、ステレオとか持っていないとだめなの。あなたが持ってるのは四角いトランクだけじゃないの。

女学生A 物を持っているから偉いという考えはちょっとおかしいわ。大きな屋敷で鯉飼っててもくだらない人はいるのよ。財産がない人にこそ本当に立派な人がいるものよ。

寅次郎 いいこというねえ、学生さん。たいしたもんだよ、カエルのションベン。今のこと、何という本に出てるの?

女学生A トラさんはカラーテレビやステレオは持ってないけど、そのかわり、誰にも負けない、すばらしいものを持ってるわ。

寅次郎 えっ、何だって。俺のカバンあけて見たのか。

女学生A 形のあるものじゃないわ。

寅次郎 屁みたいなものか。

女学生A 違うわよ。つまり愛よ。人を愛する気持ちよ。

女学生B そんな高級なものを持っているとしたら、トラさん、さしずめ上流階級ね。

寅次郎 上流階級? 俺が? 気がつかなかったなあ。上流階級ねえ、この僕が……。では、今夜はこの辺でお開きにするか。

<カネの音>

寅次郎 鐘の音か。貧しい人びとがやすらかに眠りにつくんだろうなあ。

(おしまい)

 

 

 

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