古藤「自然農10年」(13)

政治家の質もあぶりだす?新型コロナウイルス

 父子3人会が新型コロナウイルスでお流れになって私ひとりが札幌へ出かけた3月6日(2020年)、まさか世界中がこんな様相を呈するとは爪の先ほども想像していなかった。地球規模の感染拡大は経済への打撃にとどまらず国際政治、社会生活にまで激変をもたらし人類史の転換点、これは戦争だとする評論さえ出る事態である。

 首相による全国小中高の休校要請や北海道知事による緊急事態宣言が出される中、これが原因で一人旅になったと恨みがましく書いたが、不明を恥じて反省している。鈴木直道知事の素早い政治判断で2月末から週末の外出を控えるよう全道民に発したメッセージが感染抑制にいかに絶大な力を発揮したか、経過を見れば明らかだ。安倍首相が遅まきながら法に基づく緊急事態宣言を出した4月7日、感染者数1位だった北海道が8都府県より少ない感染者数に落ち着いていた。感染者が急増して首相から緊急事態の対象とされた首都圏、大阪、福岡の7都府県に比べ鎮静化ぶりは際立っている。

 埼玉出身で東京都の職員だった鈴木知事は、都の猪瀬直樹副知事(当時)の声がかりで炭鉱の火が消えて赤字財政に苦しむ夕張市に派遣された。これが北海道との初めての縁だったそうだ。その後、都を退職して2011年4月、自公推薦の候補を破って夕張市長になり、その2期8年の実績で2019年4月、参院議員へくら替えした高橋前知事の後継をめざして自公の推薦を希望、野党統一候補を破って北海道知事となった。

 母子家庭、高卒で都庁入りした後、夜学で法政大を卒業、平明な物言いも合わさって道民の信頼感は厚いという。都の衛生研究所(後の健康安全研究センター)など保健政策、疾病対策が仕事だったそうだから、新型コロナウイルスに襲われた北海道にとっては知識と決断力を持った頼もしいリーダーといえる。

 安倍首相は小中高の休校要請こそ指導力を見せたものの、これも北海道がいち早く公立1665校で1週間の臨時休校に踏み切ったのを受けての決断。その後は、感染対策や窮状の医療支援に照準を合わせた有効な政策は出せないまま経済対策、休業補償で腰が定まらぬ迷走。各方面からの不満が溜まって、その付け払いを迫られた様な国民1人10万円という究極のばらまき政策だ。税金を使って有効な手を打ってこそ政治ではないか。これでは政権が役割を果たせず、ばんざい状態に等しい。

 北海道が感染者数39人で果敢に動き出した時、イタリアの感染者数は300人を超え死者は12人だった。3月10日に全土で外出禁止とされたが対応の遅れから感染者は4月16日現在、16万5155人で死者2万1645人(米ジョンズ・ホプキンス大集計)。アメリカは同じ2月末、死者はゼロ、カリフォルニア州では感染経路の不明な患者が初めて確認されたが、トランプ大統領はただ漫然と楽観論のツイート続けワシントン・ポスト紙が「脅威を小さく見せようとしている」とかみついた。

 アメリカの感染者数はいま63万9664人、死者は3万人を超え(同集計)ともに世界最大である。そんな中、トランプ大統領は自らの責任を棚上げしてもっぱらWHO(世界保健機関)が中国寄りだと攻撃し拠出金を止めると脅している。

 新型コロナウイルスは現代生活が抱える様々な弱点を攻撃する一方で政治家の質まであぶりだしている。治療法はなくウイルスの振る舞いさえ掴めないのだから対策が手探りになるのは仕方がないが、各国が発表する数字でさえ実態を正確に反映しているのか疑念も拭えない。

 騒ぎが収まったかに見える中国だが昨年末から何が起き、どんな対策が取られたのか情報はなお限られている。日本でも肺炎で死亡する高齢者がコロナ判定をしないまま感染を防ぐ名目で家族の対面も許されず火葬されている。今後数年にわたって死因別の統計を見ないと感染死の実態は分からない可能性もあるのだ。

・ウイルスは生命にとって不可避

 生物学者の福岡伸一さんが新型コロナウイルスの振る舞いについて4月3日付けの朝日新聞に興味深い寄稿をしている。見えないテロリストの様に恐れられているが、ウイルス表面にあるたんぱく質が人の細胞膜のたんぱく質とまるで呼び合うように融合する。それは宿主である人の細胞が極めて積極的にウイルスを招き入れているかのような挙動で、双方のたんぱく質がもともと友だち関係にあったと解釈できるという。

 構造は原始的だが、進化の過程からいえばウイルスは高等生物の一部がいわば家出をしてどこかさ迷った後、また宿主へ帰りやさしく迎えられている。それは親から子への垂直的な遺伝だけでなく、場合によっては種を超えて遺伝情報を水平方向へ伝達することが動的平衡を揺らして、免疫システムを改善するなど生物進化に有用だから温存されたプロセスではないかというのだ。

 また文化人類学者の上田紀行さんは中屋敷均著『ウイルスは生きている』を取り上げ(3月17日付の毎日夕刊)、哺乳類の誕生に欠かせない胎盤は、母親と胎児の血液型が異なっても共存できるという特殊な膜のおかげで、その膜で重要な役割を果たすシンシチンというたんぱく質はウイルス由来の遺伝子によることを紹介している。ウイルスに感染していなければ哺乳類も人類も生まれなかった、そう解釈できるというのだ。

 ウイルスは病気や死をもたらすけれども、私たち生命の不可避的な一部であるから根絶したり絶滅したりすることは出来ないと、福岡さんは結論づけている。

 自然をありのままに受け入れる自然農は虫や草と同じようにウイルスも敵とせず共存する相手と考える。家と田畑を往復する日常だからマスクは要らないし、奈良の漢方学習会は外出の自粛要請の中で開かれている。

 ただ、スーパーなど買い物へ出かける時はマスクをする。しないと白い目でにらまれるからだ。

 奈良漢方学習会の帰りの3月31日早朝、伊勢神宮に参拝したが、参道はほとんど人気がなく、私たち4人で広い参道を独り占め状態だった(写真)。

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