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尾花  尾花でございます。座ってセミナーをするのは慣れていないので、パネルの時間は座らせていただくことにして、この時間は立たせていただきます。今度出した本は赤・黄・青の3冊になっています。みなさんの記憶にも新しいと思うんですが、佐世保の小学生の女の子がお友だちを殺してしまった事件のきっかけがインターネットということで、一時期インターネットは殺人事件まで起こしてしまう危ないツールである、子どもたちにはなるべく使わせないように、みたいな傾向が出てきました。 刃物を持って学校に行っちゃいけないというような話ですが(その刃物を持って行って傷つけてしまったのが佐世保の事件でしたけど)、実は昔は、小学生のころから鉛筆を削りながら、手が切れれば痛いということを学び、人を刺したら大怪我をしてしまうことを学びながら、刃物の扱い方を覚える授業をやってきたのに、いまは先生たちが臭いものにはふたをする、めんどうくさいものは取り上げる、とにかく知らせなければ安心だという教え方をしてしまいがちです。
    ずっとその道具を取り上げられてきた子が急に与えられた瞬間に、とんでもない使い方をしてしまう。いまお話があったサイバーリテラシーがまったくない状態で、ある年齢になると急にサイバーな道具だけをポンと与えられてしまうのはいけない、それよりも子どもより先に子どもの身近にいる大人を喚起しなければいけないということで、高橋さんといっしょに企画したのがこの本です。
 青だけほしいという方もいるし、赤だけほしいという方もいるでしょう。でも、どれかを読んでいると、他の2冊がないと気になってしまうようにはなってるんです(笑)。お求めいただいても、図書館で読んでいただいてもけっこうです。何かのときに見てヒントになるものがいまないじゃないですか。大人に聞こうと思っても、大人もわからない。ネットにすごく精通している人は、その説明がよくわからない。この本は、小学校5年生くらいから読んでいただけるようになっています。学生さんがいま、あるいは社会人になってからも読んでもらいたい内容にもなっているので紹介させていただきました。

公開されたページで内緒話はないでしょう

 それではまず、子どもたちの実態からお話ししたいと思います。最近はネットを使った驚くべき事件が多発しています。ちなみに、このなかでメールのアドレスを1個しか持っていないという方はどのくらいいますか。すごく少ないですね。みなさん、2つ以上のアドレスをいろんな形で管理なさっているんですよね。私なんか十以上のアドレスがあるので、管理して、だんだんわからなくなってくるんですが(笑)。
 もうひとつ質問させてください。ブログとかホームページとか、外に発信するスペースを自分でつくったり手伝ったりしている方は? そんなに多くないですね。これが平均なのかと思います。
 中学2年生になる息子も、クラブのホームページを自分が作ることになって、「ブログならどれがいいか見てくれる?」と相談に来ました。小学校6年生の娘の友だちが4年生のときに作ったホームページもあるくらいです。ブログは、小さいお子さんからご年配の方まで、パソコンにそんなに詳しくなくても作れます。昔なら何かを発信する場合には雑誌に投稿したりしなければならなかったのに、いまでは無料のブログに文字を書けば、全世界に発信できます。
 そのせいでいろいろな事件が起きています。9月21日の新聞に出た、芸能紙が飛びついた事件で、あまり読みたくないんですけど(笑)、冒頭だけ紹介しますと、
 「第二の宮里といわれる16歳少女ゴルファーの破廉恥ホームページ。女子アマゴルフ期待の星、A選手が、ネット上の自分のホームページで飲酒や暴走族への出入りなどの悪癖を告白。美貌と実力から芸能プロにも所属する友人のB選手(16歳)も、彼氏とキスしている画像などを同じホームページに掲載していたことがわかった。次代を担う2人のやんちゃぶりに大きな衝撃が広がっている……」。
 見つかるということを考えないんでしょうか。なぜこんなことを公開しちゃうんだろうと、率直に思いますよね。でも同世代の方には、どうせ見つからないと思って、なんか書きたい、自分で主張したい部分を書いちゃったんだろうなと、わかるような気がする方もいらっしゃるかもしれません。
 16歳の飲酒行為は違法なので、2人とも自主退学を勧告されて、高校を退学しました。こういうことになった割には悪びれていないというか、両選手は事件後のゴルフ大会ですごくいい成績を収めて、周りの大人たちはあっけにとられていたようです。彼女たちが書いていたホームページは、少女たちの告白などを載せているサイトです。なぜばれたかというと、彼女たちが自分とわかるようなことをちょこちょこ書いていたので、それを少しずつパズル解きして、絶対彼女に違いないと思った人が2ちゃんねるに書いたんです。
 公開されている道具を使った内緒話なんてありえない。私がこうやってマイクを使って「実は内緒なんですけど」と言っても内緒にならない。テレビの放送もそうですよね。なのにインターネットだと、何十万何百万何千万あるページのうちの一つだから、なんとなく見つからないだろうという感覚を持ってしまう。これがまずインターネット無謀運転の例です。
 誰かに聞いてほしいし、知らない人にだったら告白したいという気持ちをそこにぶつけてしまうと、わかった瞬間に学校をやめる羽目にもなります。これは、エロサイトと言われている中高生の告白ウェルカムのページなんですけど、じゃあこんなところに出入りしていなければ大丈夫かというと、そんなことはありません。
 身近な例ですけれど、娘のお友だちのいとこのお姉さんがストーカー行為にあったきっかけがホームページでした。彼女は大学に入って、ブログで日々の出来事を更新、自分の写真も載せていたんですね。プロフィル欄に自分のかわいい写真を載せてる人、よくいますよね。いまはケータイからブログの更新ができるので、ケータイで撮った写真をそのままアップするようなことを、みなさんけっこうやっているんですよ。
 友だちといっしょ写っている写真などを九州の男性が見て、気持ちが高揚しちゃって、どんどん彼女のことが好きになってしまったらしく、彼女に会いたいと東京に出てきちゃったんですね。自宅はホームページに載せていなかったので、自宅に直接来る可能性はなかったにせよ、大学で待ち伏せして後をつけられたら、自宅がわかってしまうじゃないですか。知り合いの部屋にいったん寄ったりとか、何とかまこうとしたりとか、本当に気味が悪くて、最終的にホームページを閉じてしまいました。親戚中が巻き込まれて大変な騒ぎになったそうです。
 彼女が無謀だったのは写真ですね。自分の写真をホームページに載せるとしたら、とくに女性の場合、かわいく撮れているものを載せますよね。すると、見た人が「この子かわいい」になるんです。そこが落とし穴です。写真を載せるのであれば、行きつけの喫茶店とか絶対に乗せちゃダメですよ。写真が載っていて、「いつもここに行ってます。ここのフルーツケーキがおいしいの」と書いてあれば、1週間でも10日でもそこでずっと待っていますから。
 男性の方たち、他人事と思わないでくださいね。追っかけられる男性も怖いものだそうですよ。私の友人が女性ファンにつけられ、会社のビルの陰に隠れているのを見たときにはぞっとしたと言っていました。男性も女性も、自己主張はいくらしてもいいんですが、自分が外に出してしまうと負わなければいけないリスクがあることをよく考えて行動してほしい。とくにこれから社会人になる方は、リスクとの駆け引きをないがしろにしてはいけません。

友人から送られた残虐映像でショックを受ける

 今度は迷惑メール。迷惑メールをもらったことのない人は? いないですよね。メールアドレスを持っていて、迷惑メールを1通ももらったことのない人がいたら私、会いたいです。どんなに避けても来ます。
 みなさん、迷惑メールにどう対応していますか。適当に流している、気がついたときに捨てている、あるいはメーラーで振り分けて、ガサッと捨てているという感じでしょうか。迷惑メールにひっかかりやすいのも、実は学生さんだったりするんです。女の子たちがふだん友達とやり取りしているメールの言葉がジャンクメールとそっくりだということを最近、娘のメールを見て初めて知りました。娘がたまたま私の友だちに送ったメールで、「返事が来ない、おかしいよ。いつも返事をくれるのに、何で今回はくれないんだろう」と言うのでその友人に聞いたら、「え?本当に当人からなの。ジャンクだと思った」って言うんです。
 文面を送ってもらって、笑ってしまいました。タイトルは「あの……」から始まるんです。「○○○で〜す」と名前があって、「これが私のメルアドだよん」。もう私、頭がガンガンしちゃって(笑)。ジャンクで来ているのか、ふつうのメールできているのかわからない。というか、ふつうのやりとりのメールがジャンクととても似ている。ということは、ジャンクメールの送り主は、最初にあの文体をつくるまでに本当に女子高生とやりとりをしていたんじゃないかと思うくらいです。
 だから、「同窓会ってこないだあったよね」と思っているときなどに同窓会のメールが来ると、「ごめん、こないだは」という返事を書いてしまって、それではまってしまうというケースがあります。ふだんのやりとりとジャンクメールの違いが実はすごく少なくなっていることを理解しておいてください。とくに大人の方は、子どもが引っかかるのはおかしいと思うのは間違っていると思ってください。
 いろいろな例を紹介しましたが、最後にこれだけはみなさんも絶対にやってほしくないと思う例です。中学校で女の子が授業中に気持ちが悪くなって、その日一日、授業が受けられなくなりました。何が原因かというと、ケータイのメールだったんですね。学校でケータイのメールを受信していいのかという問題はひとまずおいて(私は学校ではケータイはいらないと思いますが)、何が起きたかというと、イラクで捕らえられて首を切られた日本人の残虐な映像が送られてきた。なぜ開けてしまったかというと、送り主が友だちだったんですね。それでうっかり開けてしまって、ショックを受けた。
 友だちのいたずら心が、一生消えない傷になるかもしれない。相手がどう受け取るかを考えずに面白がって何かをすることによって、人をとてつもなく傷つけてしまう可能性をインターネットやメールは持っています。
 話を整理しますね。
 まず、公開されているものの上で内緒話は絶対にあり得ない。公開されているものは必ずどこかで誰かで見ている。いったん公開したものは元に戻せません。どんなに途中で削除しても話だけは広がります。
 それから、真面目にやっていても個人だとわかるような情報だと、何か事件に巻き込まれたり、被害者になったりする可能性が出てきます。自分を公開するときにはそれなりのリスクと責任をしっかり考えたうえでやらなければならない。じゃあ、子どもたちがいまおかれている環境はどうかというと、ふだんのやりとりと変わらないような詐欺メールが来る。だから、やりとりのなかで何かひと工夫、友だちだとわかる工夫がないと、事件に自然に巻き込まれてしまう可能性があります。
 最後に、ネットして面白いとか、こんな珍しいという興味本位から、人に送信したり情報のやりとりをしてしまうと、その情報によって人を傷つけてしまったり、一生消えない心の傷を残してしまったりします。

矢野  ありがとうございました。具体的なエピソードを通じて、インターネットの世界でわれわれ大人では想像もつかないような事態が進んでいるという事実の紹介がありました。続けて高橋さんにお願いします。


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