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高橋  私はテクニカルライターとしてマニュアルを作ったり、いわゆるマニュアル本とかパソコン本と言われるような、書店のパソコンコーナーで売っているような本を書くのが仕事なんですけれども、大妻女子大学や立教大学、跡見学園でコンピュータリテラシーの授業を持っている経験も踏まえて、大学生のみなさんが知っておくといいこと、気をつけたほうがいい点についてお話します。
    まず、ネットの世界を安全にドライブするための知恵をいくつかまとめてみました。
車を運転するためには教習所に行きます。運転技術や交通法規を教えられて、試験もあります。試験場にいくと、だいたい恐ろしい事故のビデオを見せられます。不注意だったために、小さな赤ちゃんがいるお父さんが刑務所に入れられてしまう話もあったり、事故を起こすとどんなに大変かということを具体的に教わりますけれど、インターネットの場合には、パソコンを買ってきてネットにつなげばすぐに使えてしまいます。
尾花さんが話してくれたように、ほんの興味本位だったり、まったくそんな意識がなくて行ったことが重要な事件につながるということが起こっています。
このシンポジウムに先立って、立教大学で理系も文系もあわせて全学部共通カリキュラムとしてやっている授業の学生たちに聞いてみました。まずウイルス対策ソフト。これを使わなければウイルスにかかってしまうのですが、ソフトをきちんと使わないと、あまり意味がありません。ウイルス対策ソフトはウイルスを検知するためのパターンファイルが必要ですが、常に最新のパターンファイルを更新している学生は33%でした。対策ソフトそのものは使っているけれども、パターンファイルは更新していないのが38%もいます。これだと、まったく効果がないわけではないけれども、最新のとくに悪質なウイルスが入ってきたら攻撃されてしまいます。ウイルス対策ソフトを使っていない人(言語道断ですね)が、自分のパソコンを持っていない学生も含め7%。家族のパソコンなのでパターンファイルの更新やユーザー契約をしているかどうかわからないという人が22%いました。使っていない人とあわせると約3割です(下図)。

 ということは、自分で気をつけていても友だちから来るメールはウイルスに汚染されている可能性があるということですね。レポート用のファイルをもらったり、ほかのゼミで使用したりしていると、汚染されたパソコンを使ってしまう危険性があるということです。
 みなさんは80年代、日本でパソコンが登場した時期に生まれたんですよね。インターネットを利用するのがあたりまえの状況で育っているので、どういうことに気をつけなければならないかを徐々に学んできた大人たちと、ちょっと意識がずれているかもしれません。ドライブするにも危険があって、きちんと運転しないと衝突されたり、どこかにぶつかったり、物盗りにあったり。道をドライブするだけでも危険だということに気づいておらず、意外と無防備にパソコンを使っている人がけっこう多い気もします。
 巧妙な技術力や知恵を使ってウイルスを退治しているにもかかわらず、悪質なウイルスは増えています。情報処理推進機構(IPA)が発表しているウイルスの被害届出件数によれば、2002年から2003年にかけてはやや減ったくらいですが、2004年は急に増えています。 2003年が1万7425件。2004年になると5万2151件、約3倍です。2005年も大幅に減ることはなく、個人情報を盗み出すような悪質なウイルスも出てくるなど危険性は増しており、ますます気をつけなければいけない状況です。

知らなかったではすまない大事が起こる

 次に著作権の問題です。学生にパソコンの使い方とかマナーについてレポートを書いてもったり、著作権絡みでファイル交換ソフトの授業をしたりすると、「知らなかった。いけないことだとは思ってもみなかった」という感想を書く人がいます。ファイル交換ソフトというのは、インターネットを利用して不特定多数のユーザー間で楽曲データなどのファイルを交換するソフトですね。パソコンから小さいプレイヤーに取り込んで音楽を聴きます。
 アップル社のi-Podが8月にアイチューン・ミュージック・ストアをスタートしましたけれど、あれは1曲150円から200円くらいかかります。ファイル交換ソフトを使えば無料で自分のほしい曲を検索して取り込むことができるので、自由に使えるお金が少ない学生の人は使いたいソフトウエアです。でもファイル交換ソフトはプロが作っている楽曲を無断でやりとりする違法性もあります。そういう著作権違法による訴訟の恐れがあるだけでなく、そこからウイルスに感染したり、個人情報が漏洩したりする危険性もあります。ですから使わなければいいや、ということではすまないわけです。
 ファイル交換ソフトの一つ、ウィニー(Winny)は多くの人が使っています。開発した人が著作権法違反の幇助罪で逮捕されています。そのウィニー利用者を対象にしたウイルス、アンチニーが2003年8月に発見されました。このウイルスはひっそりと侵入して個人情報を盗むような最近のウイルスとは正反対で、感染するとパソコン内に保存された画像や文書ファイル、それからデスクトップの画像などをウィニーのネットワークに勝手に流したり、場合によっては掲示板で公開したりします。
 パソコンのハードディスク内にプライベートな写真、友だちと写した写真を入れたり、レポートの文書を入れたり、就職活動をしていればエントリーシートもあるかもしれません。そういう大事なデータ、情報を自分の知らないうちに流してしまう。学生だったら、最悪でも自分の人生がめちゃくちゃになるという個人の問題ですむかもしれませんが、新入社員になってうっかり会社のパソコンにウィニーをインストールしたりすると、そこから会社の大事な情報が漏れて、取り返しのつかないことになります。悪意はなくて、知らなかったことでも、それだけでは済まない恐ろしい事態になってしまいます。
 スパイウエアという言葉を聞いたことがあるかもしれません。これもパソコンの中に侵入して、ユーザーの行動や個人情報をまるでスパイのようにこっそりと収集して、それを元のところに送信します。スパイですから、こっそりやるので、自分のパソコンにスパイウエアが入ったことに気づきにくい。
 スパイウエアは必ずしも違法だとは言われていません。似たものにアドウエアがあって、広告を見せるだけではなく、どんな広告を見ているのか、どんなホームページを見ているのか、そういう情報を収集して、ユーザーの行動とか嗜好、ライフスタイルを広告主に送ったりしているんですね。スパイウエアとアドウエアは似た動きをすると言われています。
 先ほどの情報処理推進機構のページにスパイウエアのいろいろな情報が書いてあります。「自分はウイルスにはあまり詳しくない」、「スパイウエア、ちょっと心配だな」というときにここを見ると、何をしたらいいか詳しく書いてあるので、ぜひ見てください。
そこに書いてあったスパイウエア対策5か条を取り出してみました。

(1)スパイウエア対策ソフトを利用し、定期的な定義ファイルの更新、およびスパイウエア検索を行う。
最近のウイルス対策ソフトはセキュリティ機能が充実していますから、こうった機能が盛り込まれているものもありますし、無料でダウンロードできるスパイウエアの検出ソフトもあります。
(2)コンピュータを常に最新の状態にしておく。
そんなにいつも新しいコンピュータは買えませんよ、と思うかもしれません。そうではなく、ウインドウズなどの基本ソフト(OS)を最新の状態にアップデートしておく意味です。OSの、セキュリティホールと言われる穴をふさいで攻撃されないようにしておく。これも意外と、アップデートのポップアップ情報が出ても、その日レポート書かなきゃいけないし、メールもチェックしなきゃいけない、と更新しないで通り過ぎている人がいるかもしれません。常に更新しておいてください。 (3)怪しいサイトや不信なメールに注意。
これはスパイウエアに限らないですよね。たくさんメールが来ると思いますけど、ちょっと怪しいなと思ったらクリックしない、読まないで削除するということが重要です。
(4)コンピュータのセキュリティを強化する。
ファイアーウォールと言われるような、外部からの侵入を防ぐソフトウエアを使うといいです。これもウイルス対策ソフトにも入っていますし、ウインドウズのファイアーウォール機能もありますので、それをオンにして自分のコンピュータを守る、塀を作っておくということですね。 (5)万が一のために必要なファイルのバックアップをとっておく。
 卒論間際になると、情報センターなどから警告があると思いますが、大事なファイルはくれぐれもバックアップをとっておいてください。外から侵入されたり、壊されたり、改竄されてしまう恐れから守るということが一つと、それからリスク管理。みなさんが何カ月も、場合によっては何年もかけて作った大事な文章は、自分でふだんから守っておく。2カ所以上の別々の場所においておくということをぜひやりましょう。そうしないと、後から「せっかくやった。ちゃんと書いたんです」と言っても、何もなくなってしまっては認められません。そういう意味では、バックアップをとっておくということをぜひやってください。

文字だけのコミュニケーションは難しい

 今まではパソコン上でやっておくべき話でした。車の運転で言うと、始動点検をするというのが最初のところでしょうか。車のブレーキが効くか確認しておく、エンジンオイルが入っているか調べて、メーターを確認して、自分の車が安全に動くということを確認しておくのが、ウイルス対策ソフトを入れる、ファイアーウォールを設置するということです。
 しかし、それだけではダメですね。車の運転はうまい下手があると思うんです。車の流れに沿えないでノロノロ運転している人、過剰に怖がって流れに乗れない人はぶつけられてしまいます。ですから、腕・技術と同時に、こういうときにはこうするという知識が必要になります。そんなオンライン・コミュニティに参加するときの運転技術と心構えを少しお話します。
 オンライン・コミュニティに参加するメリットは、まず時間や距離を超えたコミュニケーションがとれるところです。いつでも自宅のパソコンからアクセスできるので、時間や距離を超えられるし、知らない人、ふつうなら出会えないような人にも会えます。こんな趣味の人あまりいないかなと思っても、実はすごくいて、コアな自分の好みや関心のある人と出会えることもあります。
 それと立場を超えて議論できます。リアルですと、外見とか容姿、肩書きなどに多少は影響されてしまいます。とくに若いと、大人と話をする機会はあまりないと思います。私もそうでしたけど、やっぱり気おくれしちゃって、自分の意見はたいしたことがないように思えて話せなくなる。オンラインだとそれが比較的ないので、自分の思っていることを言いやすい。とくに口下手だと思っている人にとってはいい場になります。
 でも、やっぱり危険性もあるんです。デメリットがあります。それは基本的には文字だけのコミュニケーションだからです。会っていれば表情とか雰囲気で、「この人、そうねって言ってるけど、同意していないな」とか伝わりますけど、文字だけだと情報量が少ないので誤解を招きやすい。その結果、けんかが起こったりします。「こんなことも知らないの?」とリアルで言われたら「知らなかったんだよ」ですむかもしれませんが、ネットのなかでは、こんなにたくさんの人がいるなかで自分のことを馬鹿にされたと思ってケンカになってしまうのはよくあることです。
 パソコンにはだいたい1人で向かっていますから、気持ちが高ぶりやすいので注意が必要です。情報量が少ないので、メールを送るときにも「相手はわかってる」と思っていることでも相手はわかりません。
 日本の多くのオンライン・コミュニティは匿名に慣れていますから、相手がわかりません。それが肩書きとか容姿にとらわれない利点である一方、他人になりすますことも可能です。「そうなんだ、私も同じ」と書いている人が、男性かもしれない。中学生の子どもに「じゃあ、どこどこにいっしょに行こうね」と書いてきている人が、実は危険なおじさんだったりします。これも大きな危険です。
プロバイダー責任制限法という法律ができて、何か起こった場合はプロバイダーがある程度把握している会員情報を出してくれることもありますが、手続きがありますし、無料の掲示板、特に個人情報を取っていないようなところだと、そういった情報を出してもらうことも期待できません。
オンライン・コミュニティで自由に振舞うにはどんなことが大事か。ちょっと観念的ですけど、いくつかピックアップしてみました。一つは、自由と自分勝手は違うということです。掲示板はなんでも自由に書けると思っているかもしれませんが、自分勝手になんでもしていいということとは違います。自由に行動するには義務と責任がともなうという、リアルの世界と同じです。自分の身も守るし、相手の身も守ってあげる。そうすることで、自分が自由に楽しく過ごせるのだと考えておく必要があります。
自由に行動するためには、技術と知識も必要です。例えば海外でドライブするには、その国の交通事情、交通規則を知っていなくてはいけません。そういったことをある程度身につけておかないと、悪意はなかったり、無意識だったりしても、トラブルに巻き込まれてしまうことがあります。
矢野先生が「サイバーリテラシー」とおっしゃっていますけど、コンピュータリテラシープラス情報リテラシー、その両方をあわせたサイバーリテラシーというものをしっかりと身につけることが重要ではないでしょうか。

矢野  どうもありがとうございます。ちょっとお聞きしたいのですが、ウイルス対策ソフト調査の母数はいくつですか。

高橋  200人くらい履修していて、108人です。

矢野  けっこうありますね。それでは続けて新さんにお話をお聞きしましょう。


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