[Japanese] [English]






 今日は雨の中を当シンポジウムにお集まりいただき、どうもありがとうございます。これからはじめます。
 古代ギリシャの都市国家にアゴラという広場があったのは、みなさんご承知だと思います。今でもアテネのパルテノン神殿の下には、アゴラの跡が残っていますが(図1)、そこに市民が集まり自由に議論をした、これがギリシャの民主主義を支えてきたわけですね。


図1

 一方、現在のロンドン中心部、ハイドパークの一角に、「スピーカーズコーナー」があって、日曜日の午後になると、やはり市民が集まって談論風発しています(図2)。わざわざ踏み台や椅子を持ってきて、その上に立って好きなことを話す。回りに人垣ができて、意見を聞いたり、質問したり、反論したりしているわけです。自分はしゃべる気がないのだが、立派な踏み台だけ持ってきて、しゃべりたい人にそれを提供する人もいる。これはフリー(無料)だけれど、近くではソーセージ屋さんが商売したりもしています。ここにも自由な言論(フリースピーチ)が行われるアゴラがあるわけです。


図2ロンドン・ハイドパークのスピーカーズ・コーナー

 こうした現実世界の言論の広場、アゴラには制約もあります。その場所に行かないと議論に参加できない。私は、制約というのは必ずしも悪いことではなく、いい面も多いと思いますが、ともかく「現実世界」には、地理的あるいは時間的な制約があるわけです。それと同じような討論を、インターネットというツールを使って行えば、その場に行かなくても、コミュニケーションの輪に参科できます。「サイバースペース」という新しい情報空間を通じて、世界中の人々が自由に討論できる、あるいは公開で議論をすることができる、そういうツールがインターネットなんですね。
 もちろん新しくできた情報空間は、それなりに多くの問題を抱えています。私は、これからのIT社会を生きるためには、現実世界と大きな関係をもつサイバースペースの構造や特性をきちんと理解すべきだと考え、その能力を「サイバーリテラシー」と呼んでいます。
 それはともかく、インターネットは多くの用途に使われていますが、今日は、そのインターネットを駆使して各分野で活躍しておられる女性の方に集まっていただきました。これからIT社会に巣立っていく、主として女性に(もちろん男性も含めてですが)参考になるお話、力になるようなヒントをお聞きしよう、というのが趣旨です。
 最初に自己紹介しますと、僕は今年4月から明治大学法学部で客員教授としてお世話になっています。それまで朝日新聞出版局で長らく編集者をしてきました。1988年に『ASAHIパソコン』というパソコンの初心者向けガイドブックを創刊し、その編集長をつとめました。さらに1995年、ちょうどインターネットが世界的に普及する年に『DOORS』というインターネット情報誌を創刊するなど、雑誌の編集者としてこの種の世界に親しんできた人間です。
 後半は総合研究センターに在籍して、岩波新書の『インターネット術語集』やその続編『インターネット術語集II』、アクティブ新書の『情報編集の技術』などの本を出しています。明治大学では「情報文化論」、「情報編集の技術」、「サイバーリテラシー」の講義をしています。その一環として、今日はシンポジウムを開かせていただいた次第です。
 それでは、パネルをつとめていただく4人の方について簡単にご紹介します。サイバーリテラシー研究所のホームページ(図3)に、「コム人対談」のコーナーがあります。NTTコムウェアという企業のホームページで続けているもので、じつは4人の方はいずれもこの対談の関係者です。というか、粟飯原理咲さん、関根千佳さん、二木麻里さんは対談のお相手をしていただいた方、吉原佐紀子さんはその担当編集者です。


図3

 粟飯原さんは「All About Japan(オールアバウトジャパン)」のマーケティングプランナーをしておられます。これまでに「よせがきコム」「OL美食特捜隊」など興味深いホームページを自ら立ち上げ、インターネット世界に旋風を巻き起こしてます。
 関根さんはユニバーサルデザインという新しいデザインのあり方、あるいは生き方を提唱して、「ユーディット」というベンチャー企業を起こし、その代表取締役をつとめておられます。
 二木さんは人文系の総合ゲートと名づけたサイト、「アリアドネ」を主宰し、インターネットという「冥界」を泳ぎぬくヒント、その糸口を与える案内役をつとめておられます。
 吉原佐紀子さんはフリーの編集者で、いまは小学館からこの秋発行される『育児の百科』スタッフチーフとして活躍しておられます。3人のパネルの方と聴衆のみなさんの仲をとりもつ役割をしてくださいます。
 まずこの順にそれぞれお話をしていただきます。粟飯原さんからどうぞ。

Copyright (C) CyberLiteracyLab