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ペク  みなさん、こんばんは。大勢来ていただいて、いっしょに話ができることを大変うれしく思います。今日は「ネット社会と若者文化」ということで、とくに日本と韓国を比較しながらお話しすることになっていますが、若者文化と言っても、いろいろな次元の文化があり、どういう話をすればいいか悩みましたけど、荷宮さんのお話もあったので、私も自分の専門分野ではないんですけど、少しインターネットに関連する、とくに韓国の若い人たちの行動について、紹介をかねてお話しできればと思います。
    いま韓国というと、俳優だとか、ヨン様だとかというイメージがすごく強くなっているんですけど、少し前までは、日本から見る韓国の若者というと、市街で警察と対立して石を投げたり、火炎ビンを投げつけたりと、つまり政治的、あるいは社会的な問題で最前線に立つイメージが強かったと思うんです。ただ私も、若者、若者と言っているんですけど、何歳までが若者に入るのかちょっとわからないし、私が思っている若者がみなさんとずれてて、ちょっと古い若者の話が出るかもしれませんが、それもかねて理解いただきたいなと思います。
 過激で、活発で、議論好きという印象の韓国の若者に比較して、日本の若者は政治的、あるいは社会的なイシューに対してあまり積極的に出ない。つまり消極的であるという印象を持たされていると思うんです。この違いが、どのぐらい真実なのかと言うのを百パーセント検証したり、証明したりするのはできないとは思うんですが、今日は韓国の若い人の活動の中で、とくにインターネットをめぐってどういう違いが見られるかということを紹介したいと思います。インターネットを見ていただきながら、話を進めます。
その前にみなさん、毎日とりあえずどんなメディアでもいいんですけど、ニュース、芸能でもいいし、社会、政治ニュースを毎日チェックする、実行する方、ちょっと手を上げてください。ほとんどの方がそうですよね。それを新聞で読む方、ちょっと手を挙げてみてください。インターネットでニュースを見たり、検索してるいう方も。インターネットがちょっと多いですね。自分の学生に聞くと、ほとんど新聞を読む人がいなくて、「ニュースは全部インターネットで見てるよ」っていう話が多かったんですが……。

韓日の差は「読者の反応を書き込むコーナー」の有無

 みなさんがよく利用されているYahooにもニュースガイドがあります。これが本日のニュース記事ですね。ご存知だと思うんですが、Yahooのようなところでは自分たちが取材するのではなくて、いろんなメディアからニュースを集めています。これは読売新聞から持ってきました、と。今度はYahooコリアですが、韓国語が読めなくても、Yahooのサイトですから、どこに何があるかというのはほとんど同じです。想像つくと思うんですが、ここにニュースが出ていて、ここにニュースのタイトルが出ています。韓国の大学試験でいろいろカンニング事件が起きた続報記事が出ていますね。
 これを見ると、ニュース番組から取ってきたことや構造はほとんど同じですが、下に降りていきますと、「記事について、私も一言」っていう、記事を読んだ人たちがそれに対して反応するコーナーがあります。
 別の所も見てみます。日本のサイトだったら、たとえば朝日新聞のアサヒ・コム、12月10日に書かれた記事が載っています。ただこの記事をだれが書いたか、明らかに朝日新聞の記者が書いたとは思うんですが、この文章を書いた人の名前は書いてないんですね。読売新聞のインターネット版もほぼ同じで、日にちがあって、読売新聞が書いたことになっています。
 もう一回、韓国のサイトを見てください。韓国で最も多くの人が見ている、そして最も保守的な新聞と言われている朝鮮日報のインターネット版です。レイアウトは日本のものとほとんど同じで、記事に入ると、詳細の全文が出てくる。朝鮮日報と同じ内容が書いてあって、一番上に出てるんですが、この記事をだれが書いたかという記者の名前、共同取材した3人の記者の名前とメールアドレスと彼らのプログが出ています。
 だから、これを書いた記者に対してひとこと言いたい人は、この記者のプログやメールアドレス宛てに感想を書くことができます。それと別の所に、Yahooで見たのと同じように、記事に対して自分はどう思うかという意見を書く欄があります。ニュースの重大性によってアクセスする人の数はもちろん変わってきます。一番ホットなニュースですと、百人、何千人単位の返事が来るのが普通です。
 どんな小さい記事を読んでいても、新聞に対してというよりも、その記事に対して、読んだ人の反応が書かれるわけなんです。この新聞を読む人たちがいろいろ議論できるような欄がちゃんと準備されていて、積極的に参加する読者のプログをそこにくくっておくこともできるし、記事を書く記者のプログも見られるようになっています。
 より左側と言われる『ハンギョレ』新聞がありますが、ここでもまったく同じことが見られます。韓国の新聞を見ると、こういう既存の新聞、つまり紙を媒体にした新聞が、インターネットという新しい技術と接触する際に、どういうことが行なわれたかを伺うことができます。この記事には290人の意見が寄せられていますね。  

市民が記者の「オーマイニュース(OhMyNews)」

 YahooジャパンとYahooコリアの同じニュースの所を比較してみました。既存メディアである新聞のインターネット版、朝鮮日報とハンギョレ新聞、日本側では朝日新聞と読売新聞を見ました。もう一つ、既存の新聞媒体の歴史を持たなくて、インターネットの出現によって新しくできた「オーマイニュース(OhMyNews)」というインターネット新聞があります。日本で韓国のネット事情が紹介される時、もっともよく取り上げられるサイトだと思います。
 2000年にできて、現在18000人ぐらいの記者がいます。ただ、そういう記者たちは朝鮮日報や朝日新聞のようなプロの職業記者ではなくて、みなさんだれでも、明治大学の学生でも、うちの大学の学生でも、あるいは田舎に住んでいるおばあさんでも、おじさんでも、そういう活動に興味がある人は、自分で登録をすれば、だれでもその記者になれるわけです。
 だれでもアクセスできますが、これを参考にして日本のインターネット・ニュースで『JanJan』というのがありますね。関係者の話を聞くと、あまりうまく行ってない。なぜ韓国のオーマイニュースはこんなに注目を集め、社会的に大きい力を持ち、影響を及ぼしているのに、日本のJanJanはあんまり注目されないのだろう、うまくいかないんだろうということをよく聞かれます。私もはっきりした理由はわからないし、その理由の答えを出すのは難しい。
 ただ、いろんなサイトを見ても、YahooジャパンでもYahooコリアでも、それ自体はあまり変わらないけれど、それらを利用する側、つまりその情報に反論する側の積極性の面で、日本と韓国でずいぶん違いがあると思います。
 韓国ではこういうふうにインターネットで情報を得たり、それに反論したりして、情報活動に積極的に参加する人たちを「ネティズン」(ネットの市民)という言葉で表現してるんですけど、ネティズンが大勢いまして、コンピュータができる人だったら、だれでも参加しています。彼らのもっている力をより効果的に発揮するために、インターネットは大きな影響力を持つようになっているんじゃないかと思っています。
 いまは日本に住んでおり、韓国の紙の新聞を読むことはほとんどなく、インターネットで各国のニュースをチェックしていますが、ニュースそのものよりも読者欄の書き込みを楽しみに読んでいます。さっきの2ちゃんねる的な書き込みも多く見られることは確かですけど、反面、私自身、大学でメディアを教えている立場として、彼らが持っているメディアや自分たちの権利義務に関する意識は、学校で教えているレベルを超えているのが多いと、ほんとに切実に感じます。
 私は小学校に入る前からずっと朝鮮日報の小学生版を見ており、紙の新聞を見る時は朝鮮日報しか見なかったんです。いまは家で朝日新聞しか読んでません。でも、インターネットでニュースを読むようになってからは、一つのサイトだけ読むというのは考えられないですね。
 一番保守的である朝鮮日報から、一番左と言われるハンギョレ新聞、オーマイニュース、より過激なニュースサイトまで、一晩に必ず5、6個以上のサイトを見比べます。それも、同じニュースがどういうふうな違う書き方をされているかを見てるんです。書き込みを見ていると、大勢の人が同じようなニュース活動をしています。 朝鮮日報の記事に対して、あるいはその記者に対して、「あなた、文法が間違っているよ」とか、「この韓国語が間違っているよ」という指摘、「写真の使い方がおかしい」、「この写真を利用する意図はどこにあるのか」という質問、あるいはタイトルを書く時、同じ事件なのに「朝鮮日報ではこういうタイトルを出している、ハンギョレ新聞ではこういうタイトルを出している、この違いを記者はどう思うか」とか、そういうことを見る人が分析しながら書き込みをしている。それを別にメディアを専門にしている人間じゃなくて、普通の人たちがやっているんですね。
 そこには口にできないような、下品な言葉で表現する人もいれば、ハンギョレ新聞を読んでる読者だと、私が論文を書くより長い文章、読むのにいやになるくらいのもあって、「あんた、よくここまで書く情熱があるな」ということを書き込むんですね。だからインターネットになって、ニュース源に反応することが積極的になっています。

日本の既存メディアは少し卑怯

 日本のサイトを見ると、残念ながら、ほとんどそういうような書き込みがないですね。2ちゃんねるのように、インターネットが生み出した新しい情報活動が行なわれていることは確かなんですが、既存のメディア、朝日、あるいは毎日、読売のどこを見ても、新聞の活字をそのままインターネットに載せているって感じです。どのくらいの人がこれを見ているんだろう。あるいはだれが書いたんだろう。どんな人がそれを見て、この記事に対してどういうふうな反応するんだろうということがまったくうかがえなくて、見ていてもぜんぜんおもしろくないんです。
 紙の新聞には読者の声という欄があって、とりあえず新聞を読む人たちの価値観とか考えが少しは載っているんだけど、インターネットでそれ以上のことをやってないですよね。小学校でも中学校でも、情報教育といって、新聞記事を教材にいろいろなニュースの読み方、分析をさせて、どんなふうに情報活動をすべきかということを教育しているんですが、積極的に自分がこの記事を読んで、感じた疑問などをぶつける公式的な場がないんです。教室の中で先生に言ったり、友だちと話をしたりすることはあるかもしれないけれど、それを直接書いた人に問いかける、あるいはその新聞社に反応するというツールがまったく準備されてないんですよね。そういう訓練もされてないわけです。
 そういう中でインターネットという新しいメディアができ、いきなり「新聞だけではなくて、インターネットでも見られますよ。丁寧でしょ」。「ここに社会的なイッシュー、セックス、政治的なイシューなど、がんばって書き込んで議論してください」と言っても、それはできません。というのは、私の考えでは、既存メディアの卑怯さというか、そういうのがあると思うんです。そういう場も与えていない、教育もしていない状況で、若者たちに「こういうものがこれから大事だよ。正しく書きなさい。積極的に書きなさい」と言われても、何をどうすればいいかがわからない。
 既存の世代も慣れてない。自分もそういうことに参加したことがない人たちが、それを積極的に作っていこうという活動もやっていない状況で、若い人たちに対して「お前らは、何でそんなに無反応なんだ」、「何で、感じられないんだ」、「何で、もっと参加しないんだ」と言っても、それは無理だと思います。個人的なレベルで、若い人たちが情報をどんなふうに分析的に利用するか、接するかを教えるということも大事なんだけど、社会的なレベルで、そういう場、そういうルーツをデザインする、社会的にそういう議論ができる空間をデザインして、それを活用する行動パターンを作っていくという、だれがそれを担うかは一言では言えないんですけど、そういうような活動が、まず先に必要じゃないかなって思います。
 私も荷宮さんと同じ年で、自分の学生や若い世代を見ていても、いろいろな所で、不満に思うところはいっぱいあります。説教したくなる場面もいっぱいあります。でもだいたいそういうところは、自分と違うから、何で違うの?というところからくるイライラの方が多いんじゃないかなと思います。韓国でお話したような活動をしてきたのは、私の世代なんです。その人たちが30代より若かった時に、こういう活動を積極的にデザインしてきたことを考えると、やっぱりどの社会でも、それを自然に発生するのを待っているんじゃなくて、参加する自分たちの活動がまず必要じゃないか。そういう活動と平行してこそ若者の情報活動に対する不満が言えるし、教育というものが言えるのではないかと私は最近、そう思っています。

矢野  ありがとうございました。最初に日本のメディアの代表として2ちゃんねるを取り上げ、あとで韓国の代表としてオーマイニュースを取り上げるという選択は、いささか意地悪だったかもしれませんが、これが日本と韓国の違いをよく反映していると僕は思っているんです。そういう意味で、たいへん興味深いお話だったと思います。
 ネティズンっていう言葉が出ましたね。日本でもネティズンという言葉はあるわけだけれども、いまネティズンということを彼女のように声を大にして堂々と言う雰囲気は日本にはないと思うんですね。ネティズンに変えて「ねらー」という言葉がある。ねらーというのは、「2ちゃんねらー」ということですね。そうか「ねらー」と「ネティズン」という言葉で、韓国と日本の違いが浮き彫りになるのかと思いながら、お話を聞きました。 続けて若槻さんに、「クリエイティブ・コモンズ」という著作権をめぐる新しい運動を通して、ネットと若者のかかわりなどついてお聞きしたいと思います。


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