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山 田 はじめまして、「@Cosme(アットコスメ)」を主催しております「アイスタイル」の山田と申します。8割方が女性の学生さんだと思っていたので、お配りしたものも油取り紙とか、かわいらしいものばかりで、男性の方にはあまり喜ばれなかもしれません。ご家族の方とか(笑)、お友だちに差し上げていただければと思います。油取り紙は、中にカエルの模様が書いてありまして、20枚に1枚くらい笑っているカエルがありまして、それが出てくるとラッキーです(笑)。
 男性の方は「アットコスメ」をご存知ないと思うんですけれども、女性の方でお化粧品を日常生活で一切使わないという方はおそらくいないんじゃないかと思うんですね。化粧品は女性にとって非常に興味深いもので、毎日の洗顔とか化粧水とか、日常的に必要なものからメイクアップ品のようにファッション性の高いもの、はたまた志向性も強くて贅沢品という要素もあります。また女性は化粧によって生活のオンオフを切り替えていたり、最近ですと、痴呆の始まった方にメイクアップを施すことでメイクセラピー的な効果もあるということで、精神的な効果も大きいということです。なければ死んでしまうものではないですけれど、女性にとっては欠かせないものですね。
 私は生涯、化粧品の仕事についていきたいと思っています。世の中にはありすぎるほどの化粧品があふれていて、発売サイクルもどんどん早まり、毎月のように新製品が発売されているんですね。これだけ商品があると、何を基準に選んだらいいのかわからない。いま使っているものにそれほど不安がなくても、もっといいものがあるんじゃないかというような危惧感をお持ちの方が非常に多いです。
 そういうことをお感じになってる方に「アットコスメ」をお使いただきたいなと、化粧品情報に特化した、化粧品ユーザーのためのコミュニティサイトとして運営しています。会員数が30万人、99パーセントが女性です。平均年齢が28歳。日々寄せられる化粧品のクチコミ情報が2000件から3000件ほどあります。表に総クチコミ件数は140万件と出ていますが、1ヶ月に6万、7万くらいのペースで増えています。一般の消費者の方たちがご自分で使った化粧品の感想や評価を、お奨め度とコメントという形で寄せていただいて、その情報をデータベースとして蓄積しています。
 クチコミの投稿のもとになっている商品のベースを逐次登録して、月に200件〜300件くらいのペースで増やしています。直販、通販、いろいろなチャンネルで、商品は6万点以上登録がございます。女性の方は、聞いたことがある化粧品であれば大体が網羅されているのではないかと思います。
 肌質や年齢など、ご覧になる方がご自分の知りたい条件で自由に商品検索できたり、クチコミ・ランキングでアイテムごとに評価の高い商品を見ていただけるようにしております。「化粧品ユーザーがみんなで作る化粧品ガイド」という位置づけで運営しており、多くのユーザーにご利用いただいております。
 また、そこから派生するコミュニティから生まれる価値をいかに化粧品メーカーなどに対して展開していくかということで、ビジネスを行っています。1ヶ月にアクセスしてくださる方が50万人〜60万人くらいで、サイトオープンから5年目に入ったいまも少しずつですけれども、毎月、右肩上がりで伸びています。こうした情報がいかにユーザーに求めらているか、ニーズの高さを日々実感しております。
 私が「アットコスメ」の原型になるアイディアを思いついて、サイトを立ち上げたのは99年です。学生時代から化粧品の仕事をしたいという漠然とした思いがあって、まず化粧品原料のメーカーに就職しました。そちらでは毎日ビーカーとフラスコを振っているような研究職の仕事をしていたんですけれども、自分のやりたかったのはもっとエンドユーザー寄りの仕事だと思い、化粧品メーカーの商品開発部に転職し、プランナーとして働いていました。
 97年から98年くらいですけれども、インターネットが一般のOLの間でも使われ始めて、私自身も自分用のPCを買って一ユーザーとしてメールやインターネットを活用するようになりました。あるとき、化粧品に対する思いを自由に発言できる場所を作りたいと、気軽な気持ちで思いつき、98年にプライベイトでメールマガジンをスタートさせました。
 自分で試した化粧品について、こんなのが良かったよとか、こんなのがお奨めだよというコメントを好き勝手に書いていたんですが、1ヶ月もたたないうちに読者が1000人、2000人と増えていきまして、発信するごとにたくさんの返信をいただくようになりました。私の書いたことに対して、自分の場合はこうだったとか、この商品も良かったよ、お奨めだよとか、いわばいま「アットコスメ」に寄せられているクチコミの原型のようなものがメールマガジンを発信するたびに数十通寄せられてきました。
 そうした反響に、インターネットってすごいなとあらためて実感しましたが、何よりも驚いたのは、私、化粧品メーカーで商品開発の仕事をしており、実際に消費者の方の生の声を集めるのは非常に難しいことを実感していたんですね。こちらから問いかけてお答えいただくと、どうしてもQ(質問) に対してのA(答え)であって、それがどこまで生の声なのか、仕事をする中でジレンマを感じていましたので、こんな方法で、言い方は悪いんですけれども、頼んでもいないのに自発的な生の声を寄せられることに、ものすごく驚きを感じました。
 そのQに対するAでない、自発的な声のエネルギーみたいなものを肌で感じて興奮しまして、これを私のところだけで留めているのはもったいないと。インターネットというせっかくのツールを使って、ネット上でこうした声が集まる場所を作る可能性があるのだから、そういった場所を作ってみれば、化粧品ユーザーにとって非常に有益な、化粧品ガイド的なデータベースができるだろう。ひいては化粧品業界にとっても非常に有益なマーケティングデータになるだろうということを漠然と考え始めました。
 それを現在のビジネスパートナーであり、プライベートなパートナーでもある吉松に「こんなことできないかな」と気軽な相談を投げかけました。それは面白いんじゃないかということで、当時、彼は外資系のコンサルティング会社に勤務していたんですけれども、彼とまわりの友人数人とで事業性を夜な夜な検証して、「これはいける」という確信のもと99年7月に事業をスタートしました。
 5年前当時は私も吉松も、他のメンバーもみな26歳の若造でした。もちろん自己資金があって始めているわけでもないんで、実は当時、同時進行で結婚の準備をしていたんですけれども、そちらでいただいていたご祝儀を(笑)、有限会社立ち上げの300万円に当てまして、パソコンやサーバーはすべてご好意による借り物、本当にコピー用紙に至るまでみなさんからご提供いただいてのスタートでした。
 サイトの開発も事業に賛同してくれた友人が無償で手伝ってくれました。企画編集のほうはメールマガジンの中でこんなことやりたいので手伝ってくれる人はいませんか、という募集をかけまして、賛同してくれた女性10名ほどでボランティアでチームを作りました。99年12月にサイトをオープン、すべて手作りの中での立ち上げでした。

もう一度やれて言われてもできない、がむしゃらな日々

 いきなり収益が上げられるわけではありませんでしたので、私自身も約半年間は昼間はサラリーマンをしながら、夜、事務所に集まって仕事をして、次の朝、そのまま会社に行くという働き方をしました。いま思えば、本当に良くやったよなというか、若気の至りだったと思うんですけれども(笑)、こういうサイトを立ち上げて新しいビジネスモデルを作るんだという夢に満ち溢れていたこともありまして、とくに苦とも思わずに非常に充実感のある日々だったと、振り返っても思います。ただもう一度やれと言われたら、もうできないだろうなとも思っております。
 まだアイディアベースで、実績のまったくない段階で、ラッキーなことに出資をしてくださるファウンダー的なベンチャーキャピタルとの出会いがあったり、いつ潰れるかという苦しい時期は何度か経験してきているんですけれども、折々のタイミングでよい出会いや運に恵また結果、いま現在もこうして事業を進められていることは非常に幸運だと思っています。
「アイスタイル」の事業について簡単に説明させていただきます。資本金300万円のスタートですが、いろんな方たちに助けていただきながら資本金もだいぶ増えました。当時10名もいなかった社員も、現在は64名です。主に化粧品メーカー相手の事業をやっております。化粧品情報サイトということで、美容専門誌とか女性サイトの中で取り上げていただく機会が多いんですけれども、それ以外でも、コミュニティを活用した新しい事例として、インターネットの賞なんかももいただいています。
 インターネット上に化粧品ユーザーが通る道をつくろうというのが「アットコスメ」のコンセプトです。それをコミュニティとして、中立な立場で運営して、コミュニティから生まれる価値を、いかに化粧品業界、ひいては社会に対して還元できるかということを考えております。コミュニティが大きくなればなるほど運営コストが嵩んでいくのは目に見えておりますので、そのサイトを継続し、社会にとっても欠かせない新しい化粧品業界のインフラにしていきたいという思いももっています。
 現在は化粧品メーカーがかなりのコストと時間をかけて、実は非常に似た層の顧客を獲得するために苦心しています。ワン・トゥー・ワン・マーケティングみたいなことが話題になりますけれど、実際にはどこまでやるべきか、どこまで有効でどこまで収支に見合うのか、さまざまな課題を抱えていると思います。それを私たちは新しいコミュニティという概念でくくって、将来顧客を共同でマネジメントできないか。それをコミュティ・リレーションシップ・マネジメントという、偉そうなキーワードをつけているんですけれど(笑)。そうした発想に基づいて事業を展開しています。
 中立な立場でユーザーとメーカー、化粧品業界というと、流通とかお店屋さんも含まれるんですけれども、そういうものの橋渡し的な役割ができればと願っております。実際には、アクセス、データ、マネーという3つのファクターで切って、一つひとつ検証しながら事業を進めています。一番わかりやすいところから申しますと、いま月間50万人〜60万人、これは化粧品に対して非常に興味のある方たちですが、この方たちに対して化粧品メーカーに効率よくプロモーションを行っていただく。メーカーとユーザーの間をつなぐコミュニケーションのお手伝いをするようなタイアップ・プロモーションとして展開しております。
 それから140万件におよぶクチコミデータやどういうところをユーザーが閲覧しているのかというアクセスログも含めて、商品に対しての市場評価などを分析し、商品開発や販売戦略のためのデータとしてご活用いただくために、マーケティングデータを提供しています。クチコミを見ていて実際にその商品が欲しいというニーズは絶対にあると思うんですが、その際に受注データをメーカーにおつなぎすることで、購入に対してアフィリエイト(提携)として成果報酬でいただくような販売支援事業、大きくはこの3つの事業を立ち上げております。
 それぞれのサービスが、各プレイヤーの方たちに対してどのような価値として提供できるのかを模索しています。今後とくに力を入れて模索していきたいのは、データの価値化という部分です。クチコミの投稿は、言い換えれば、その方の商品の使用履歴、購買履歴にほかなりません。いままではポスデータのような購買時点でのデータはありました。購買後の商品評価まで含めた結果データは、膨大なコストをかけて集まれば集めることはできましたけれど、非常に難しかったですし、かつ自社の顧客ならまだ集めることができたと思うんですけれども、他社の商品を使った方たちの声は現実問題として難しかったと思います。それが、こうした新しいクチコミデータベースができて、それを分析することで自社のAという商品に対して非常にネガティブな評価をしている方たちがどういう商品に対してならポジティブな評価をするかという分析軸でデータを見ていくこともできますし、メーカー側が考えていなかったような競合のあり方も見えてきて、非常に面白いインプットだと思います。

ビジネスモデルは「鏡もち」型

 私たちがマスコミから取材を受けたりするときに、おたくは何屋なんだ、広告事業なのかリサーチ会社なのか、はたまたECモールをやっている会社なのかとよく聞かれるんですけれども、私たちは自分たちの事業を「鏡もちモデル」と呼んでいまして、どのくらいのサイトサイズになったらこういった事業をしよう、例えばこのくらいのアクセスになったら広告事業をしよう、このくらいの会員数データ数が集まったらマーケティング事業を始めよう、業界の流れとアクセス数がこのくらいになってきたらモールの事業を始めようと、計画を立てて一つひとつやってきました。今後、実際どこまで最大化ができるかは世の中の流れもあり、未知数だと思いますが、一つひとつ検証しながら伸ばせることろは伸ばし、いろんな事業を積み上げながら、最大化できればと思っております。
 コミュニティはお金にならないとずっと言われ続けてきました。私どもが増資をしようとしたタイミングがネットバブルがはじけた直後だったので、来月といわず、明日にもキャッシュアウトしてしまうというような状況がございました。でも、何とか踏ん張って3期目からようやく黒字化でき、4年目も少しずつですけれども売り上げを伸ばすことができて、現在5期目ですけれども、残っている塁損を解消すべく、日々頑張っています。
 ユーザーさんに信頼していただける中立のサイトにしなければ事業をスタートできないと考えておりましたので、1年間は営業活動を一切しませんでした。それは意図的にせずに、資本を本当に食いつぶしながらやってきました。2 期目から3期目が一番のターニングポイントで、その間、良い出会いもあってご出資いただける方が見つかっていまに至っています。
 こうして数字をお見せしながらお話しすると、収益をガリガリ上げて、会社を大きくして儲けようとしているように思われるかもしれませんが、私自身の思い、一緒にやっている吉松もそうだと思うんですが、私たちは会社を立ち上げたり、社長になりたいとか、私腹を肥やしたいという思いで事業を始めたつもりはまったくございません。新しいビジネスモデルを作りたい、まあ青いんですけれども、それを継続して強固な仕組みにして、社会の中でいかに価値あるものにしていけるかを検証してみたいという思いでやってきました。それはいまも変わらないと確信しております。
 あまりうまく説明できないんですけれども、最後にひと言付け加えさせていただくと、いままではメーカー側から消費者へという情報の流れが一般的だったと思いますが、インターネットができたことで、消費者がメーカーへ、はたまた消費者から消費者へという新しい情報の流れが生まれていて、ユーザー側の購買構造も大きく変わってきていると実感しております。こうした流れの中で、メーカー側もマーケティングの手法を変えざるを得ない状況になっていますし、私たちはその社会変化の中でユーザーとメーカーをコミュニティサイトを介してつなぎ、両者にとってエージェント的な立ち場で新しい化粧品業界におけるインフラを作っていければと思っています。
 今回のテーマは「楽しい起業」でしたよね。あまり楽しい話ができず、結論から言うと、企業は楽しいことばかりじゃなくて苦しいよということも申し上げざるを得ないかなと思っているんですけれども(笑)。ただ、私たち「アイスタイル」がそうだったように、資金力もバックも人脈もまったくないところから若者で会社を立ち上げて、いま現在もこうやって生きながらえている事例があることをお伝えして、みなさんにぜひともご自分の可能性を試していただけたらと思います。
 女子学生の方にというアドバイスですけれど、私自身が自分の格言にしているのが「成せば成る」ということで、それだけだと感じ悪いんですけれど、その後ろの言葉が重要だと思っています。「為せば成る、為さねば成らぬ、何事も。成らぬは人の為さぬなりけり」。行動しなければ何も始まらない。今日のお話がみなさんの将来に何らかでもお役に立てればと思っています。ご清聴ありがとうございました。


矢 野 若い人にとっては貴重はお話でした。どうもありがとうございました。


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