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2017年05月22日

ケータイ30年―スマホが唯一の情報端末になりつつある(2017/5)

 日本にケータイ(携帯電話)が登場したのが1987年である。その後の普及と機能拡張はすさまじいが、2010年代のスマホ(スマートフォン)普及が決定的で、「ケータイ」はいまや万人のツールとなった。四六時中持って回る小さなモバイル端末が私たちの意識、感性をどう変えているのか、この機会にあらためて考えてみるべきだろう。

 NTTが携帯電話サービスを始めたのは1987年4月だから、ケータイはちょうど30周年を迎えたことになる。そしていまケータイと言えば、スマホである。そのスマホが最近、世界レベルで、インターネットにアクセスする端末としてパソコンを上回った。

アンドロイド、ウィンドウズを抜く

 ウェブ分析の有力企業、スタットカウンターの今年3月期の調査によれば、インターネットに接続している端末の基本ソフト(OS=オペレーティング・システム)のシェアで、グーグルのアンドロイド(Android)が37.93%、マイクロソフトのウィンドウズ(Windows)は37.91%と、アンドロイドがはじめてウィンドウズを凌駕した。
 
 アンドロイドはスマホのOS、ウィンドウズはパソコンのOS。これは長年、インターネットにアクセスするプラットホームとして君臨してきたパソコンが、ついにスマホにその場を譲ったことを意味する。

 差はわずかであり、比較したのがトラフィック(通信回線を利用するデータ量)で、実ユーザー数ではない点を考慮しなくてはいけないが、年代別推移を見ると、スマホが急速に普及する一方でパソコン市場が縮小しつつある変化の激しさがよくわかる。

 もっとも地域別に見ると、アンドロイドのシェアが高いのはアジア、アフリカなどで、アメリカ、ヨーロッパなど先進国ではまだウィンドウズをはじめとするパソコンOSのシェアの方が高い。日本でもウィンドウズが55%を占め、スマホではアンドロイドよりiOS(アイフォンのOS)のシャアが高い。

大学生のパソコン離れに危機感

 NECパーソナルコンピュータは3月、大学生向けのパソコンを売り出した。若者のパソコン需要を喚起するために、女子大生と共同開発したらしい。その記者会見における社長説明によれば、「12歳から19歳の若者でパソコンを持っていない人が約7割いる。大学生くらいの年齢でも3割がパソコンを持っていない」。

 もっとも私が大学で教えていた10年以上前でも、大学生がパソコンを本格的に使い出すのは大学入学後だったから、その数値がそれほど変化したとは思えないが、肝心なのは、現在では、パソコンを使っていない若者もすでにスマホは使っているということである。

 パソコンで初めてデジタル機器に接して、インターネットの使い方を学んだうえでケータイを使うのではなく、ケータイでインターネットに慣れ親しんだ若者が大学生になり、あらためてパソコンの使い方を習う。パソコンをとくに学ぶ機会がない人びとは、ほとんどパソコンには触れずにインターネットにアクセスする。

 実は、今年2月バリに行ったとき、多くの大人がパソコンを持たず、インターネットアクセスもスマホですましているのを見て驚いたが、これが今後の趨勢になるだろう。

 インターネット利用ばかりでなく、私たちの情報活動そのものが大きくスマホに依存することの意味は大きい。活字離れが言われて久しいが、いまでは情報端末はスマホだけ、若者たちは(そして大人も)、もはや本や雑誌を読む機会は減り、パソコンもいじらない。スマホだけでニュースを読み、買い物をし、友だちとコミュニケーションする。

 以前、このコラムでもパソコンとスマホは別のメディアだということを書いたけれど、私は、紙→パソコン→ケータイというメディア変遷の歴史を振り返るとき、精神に対する影響という面では、紙からパソコンより、パソコンからケータイへの変化の方が大きいと考えている(「メディアとしてのスマートフォン」)。

 本を読む行為を経てパソコンのデジタル画面を見るのと、本というメディアをほとんど経ずにいきなりスマホをいじり、その延長上でパソコンをいじるのではまるで違うというべきである。

スマホ時代は何をもたらすか

 パソコンの画面は大きく、雑誌や書籍を読むのと同じように、長い文章も読める。パソコというメディアはデジタルだが、文章を読むという点では、書物を読むのとあまり変わらなかった。ところがスマホの画面は小さい。ウェブを閲覧するブラウザーもスマホ用により簡略化してデザインされているから、長い文章を読むには適しない。必然的に、人びとは長い文章を読み書くこと自体をしなくなりつつある。これは恐ろしい。

 東京新聞のケータイ30年の特集記事(4月15日付)で、自らは携帯電話を持っていないという作家の田中慎弥が「携帯を使うにしても、本は読んだ方がいい。メールだとかSNS、LINEって、非常に短いセンテンスでコミュニケーションしなければいけないわけです……短い言葉を使うためには長いセンテンスを吸収する必要がある」と、ケータイ時代だからこそ長い文章(の小説)を読むことを勧めている。続けて、「中高生が本を読まないとすれば理由は一つで、大人が読んでいないから。その頂点が政治家で、どう考えても本を読んでいない。彼らは言葉を全然知りません」とも。

 スマホ時代は私たちをどこへ連れていくのだろうか。

投稿者: Naoaki Yano | 2017年05月22日 15:12

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