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2005年04月12日

新しいジャーナリズムと情報編集の技術<情報コミュニケーション学会誌vol.1 NO.1 2005所収>

現代IT社会がかかえる諸問題に精力的に取り組んでいる若い哲学者、東浩紀さんと話していたら、彼が「この種の問題でウエブに掲載されていない情報はないも同然だ」というふうなことを言った。

たとえば彼がオンラインで配布している『波状言論』などを読んでいると、注にはすべてURLが記されており、紙の書物に言及している場合もあるが、それはきわめて少ない。テーマがテーマだからということもあるが、そのうち意見はウエブで公開するのが当たり前という時代が来るのは間違いないように思われる。

インターネットの普及で私たちを取り巻く情報環境はがらりと変わった。これまで情報の交差点としての役割を果たし、またジャーナリズム活動の中心的地位も占めてきた「マスメディアの時代」は終わりつつある。これこそが情報コミュニケーション学会設立を促した要因だろう。

マスメディアは多くの資本と人員を擁した企業が専門的な情報活動に従事するもので、いわゆる言論機関としてそれなりの歴史を持ち、重要な社会的機能も果たしてきた。これに対してホームページやブログなどのウエブは、インターネットとともに登場した身近な情報発信手段で、小型で安価なメディアとしての特徴、そこで取り上げられる内容(コンテンツ、メッセージ)、送り手と受け手の性格が、どちらかというとパーソナル(個人的)な様相を帯びており、これをマスメディアと区別する意味でパーソナルメディアと呼んでいいだろう。そして現代は、このマスメディアとパーソナルメディアが錯綜し渾然一体となった「総メディア社会」である。

このような状況下で考えるべきことは多い。

米サンノゼ・マーキュリー・ニューズの技術コラムニスト、ダン・ギルモアは『We the Media: Grassroots Journalism by the people, for the people(われらがメディア:みんなのためのみんなの草の根ジャーナリズム)』という本で、「ブログは新しい『市民ジャーナリズム』の時代を開くだろう。これまで情報の受け手だった人びとが自ら情報を発信し始めた『草の根ジャーナリズム』は、ニュースにおけるビッグメディアの独占状態を取り除きつつある。ニュースはこれまでの講義調から会話調、あるいはセミナーのようなものに変わり、何よりもインタラクティブな交流が重視される。プロのジャーナリストにとってはこれから、事実を集めそれを報道するのと同じくらい、多くの情報を取捨選択しそれに筋道をつける作業が重要になる」と言っている。

ブログ(Weblog、ウエブログとも言う)は日本でも爆発的に普及しており、それはたしかに新しいコミュニケーション・スタイルを生みだしているが、それがただちに「新しいジャーナリズム」に結びつくとも考えにくい。個人の力は集まれば巨大だが、一人ひとりの力は小さい。豊富な資金と優秀な人材と組織力を動員して権力悪に立ち向かうような息の長い調査報道を、個人レベルで遂行することは難しいからである。

だからマスメディアの役割はなお大きいと考えられるが、一方で「総メディア社会」はメディア企業そのものを変質させ、現下のマスメディアのジャーナリズム活動は著しく低下している。こういう時代に社会全体のジャーナリズム機能をどう維持できるかは、きわめて切実な課題だと思われる。

多くの人が情報発信するようになった一億総ライター、総エディター時代の情報教育もまた重要である。文章の書き方、見た目にも美しくわかりやすいページのつくりかた、情報の正確さの確保、公開する際のマナー、守るべき法規、あるいはインターネットを活用した情報収集術などなど。

この種の教育は、もっぱらマスメディアに就職をめざす人びとを対象に行われているが、これからは総メディア社会の「情報編集の技術」、「ジャーナリズム総合講座」を構築することが必要だと私自身は考えている。

投稿者: Naoaki Yano | 2005年04月12日 00:20

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