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2017年02月21日

トランプ大統領①くすぶる矛盾をかき乱して躍り出る(2017/1)

 2016年最大の驚きはトランプ米大統領誕生だった。新年そうそうには新政権がスタートするが、日米関係も含め、世界は大きく変貌するだろう。このまさかのトランプ大統領誕生はサイバーリテラシーにとってもいろんな材料を提供してくれた。2回にわたってこの問題を考えてみる。

 私自身、開票当日までヒラリー・クリントンの勝利を疑っていなかった。それが蓋を開けてみると、むしろトランプの圧勝だった。クリントンはトランプに対して得票数では200万票近く上回っていたというから、そこには選挙制度上の矛盾も反映しているけれども、トランプ大統領が誕生してみると、あらためてはっきりと見えてくるものがある。

新聞が体現した価値の瓦解

 ぶつぶつとくすぶっていた社会の矛盾がトランプ1人にかき回されて浮上したような印象だが、別の表現を使えば、トランプは社会の泡立つ波を巧妙にかきたて、どんでん返しで勝利をかすめ取った。そこで目立ったのがマスメディの混乱であり、それと対照的なソーシャル・メディアの威力だった。

 旧来のメディアは散々な目にあった。新聞などの〝まっとうな〟論調は読者に見向きもされず、テレビはトランプの無手勝流に翻弄された。マスメディアの時代は終わったのだとつくづく感じざるを得ない。

 ニューヨークタイムズなどの新聞はほとんどクリントン支持を表明し、トランプ候補の性的スキャンダル、移民排除の暴言、放言などを告発してきた。当然、クリントン勝利も予測してきた。もともと保守的で共和党系の地方紙なども選挙中盤にはあえてクリントン支持を打ち出し、他候補への投票を呼びかけたほどである。

 インテリ白人にもけっこうトランプ支持者がいたらしい。いささか下品なトランプへの支持を面と向かって表明することが憚られ、彼らは世論調査などであえてクリントン支持をほのめかしたり、無回答を選択したりしたという。そういう「隠れトランプ」をメディアや各種世論調査はすくいきれなかった。
 
 マスメディアが唱えてきた主張(あるいは建前)である民主主義的な、理性的で合理的な価値体系はすっかり空洞化しており、「隠れトランプ」はそのことを鋭敏に感じ取っていたとも言える。有権者の多くはメディが推進しようとした議論に頓着しなかったし、自らの社会的責任(市民的倫理)として、メディアの世論調査にはまともに答えるべきだとも思っていなかったようである。

 イギリスのオックスフォード辞典は2016年の単語として「ポスト真実(post-truth)」を選んだが、「世論形成において、客観的事実よりも感情や個人的信念に訴えるものの方が影響を与える」時代にもなったのである。新聞衰え、トランプ栄える現状をよく反映しているだろう。

テレビも墓穴を掘る

 テレビにしても、必ずしもトランプに好意的だったわけではないが、極端な発言をすればするほどメディアは飛びつくというトランプ流の戦略にすっかり踊らされた。トランプが過激で議論の大いに余地ある発言をすればするほど、テレビにおけるトランプの露出度、それに伴う知名度は上がった。セックス・スキャンダルすら同じような効果をもたらしたように思われる。

 クリントン対トランプの争いが熾烈になればなるほど、両陣営がテレビに投ずる宣伝費は高騰するわけで、勢い2人のデッドヒートを演出することにもなった。序盤戦早々にトランプが下りてしまえば、ビジネス上好ましくないからである。最終的落としどころはクリントン勝利と踏んでいた節はあるが、まさに墓穴を掘ることになった。

 トランプ陣営のメディア戦略の勝利である。しかし、彼らが重視したのはむしろネットだった。トランプはフォロアー数1400万人とも言われるツイッターを駆使して極論を発信し、マスメディアや共和党主流派、クリントン陣営がそれを批判すると、ツイッターで反批判をくり返し、それがまたマスメディアに取り上げられる〝正の〟スパイラルを通して認知度を高めていった。

 もともとトランプは共和党の泡沫候補にすぎず、当初は「立候補する資格なし」とも言われていた。共和党大統領候補になった後も、はっきりとトランプ不支持を打ち出した同党有力議員もいた。いつの間にか消えてしまってもおかしくないのに、既存政治勢力やマスメディアの攻勢に抗い、最終的に大統領の座を射止めることができたのは、彼自身の強気の姿勢にもよるが、誰もが情報発信できるネットなくしては不可能だっただろう。

 フェイスブックには「ローマ法王がトランプ支持を表明した」といった偽情報が流れ、告発サイト、ウィキリークスではクリントンのメールの一部が暴露された(12月になって米諜報機関はロシアが民主党サイトをハッキングして得た情報をウィキリークスに流したとほぼ断定した)。ネット上の真偽織り交ぜた情報もトランプに有利な結果をもたらした。

ネットなければトランプなし

 前回、ピコ太郎について取り上げたとき、いまや「ソーシャルメディア独歩の時代」だと書いたけれど、今回の選挙ほど既存メディアの無力さ、ソーシャル・メディアの威力を世に知らしめたものもない。
 
 カナダのメディア研究家、マーシャル・マクルーハンはかつて、ドイツの独裁者、ヒットラー登場に関連して、人びとの感情を取り込むのに適したホットなメディア、ラジオの役割に注目し、「ラジオがなければヒットラーは登場できなかっただろう」と言った。また「ヒットラーの統治下にテレビが大規模に普及していたら、彼はたちまち姿を消していただろう」とも述べている。テレビからはあのような熱狂は生まれないということである(『情報文化論ノート』参照)。
 
 トランプ大統領はネットがなければ誕生しなかったと言って間違いないだろうが、さてそのトランプ統治下でネットはどのような役割を果たすだろうか(敬称略)。

投稿者: Naoaki Yano | 2017年02月21日 10:52

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