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2016年11月20日

格安シムがキャリアの牙城を突き崩す(2016/10)

 いまや日本人の半数以上がスマホ(スマートフォン)を使っていると見られるが、高い通信料が普及のネックでもある。ところが「格安スマホ」と言われる新しいサービスの登場で、3大キャリアの独占状態だった業界地図に変化が起こっている。シム、シムフリー、格安スマホ、MVNOといった、一般にはまだ耳慣れない用語を通してスマホ最新事情を見ておこう。

塗り替わるスマホ地図

 モバイル端末としてのケータイはすでに9割を超える世帯に普及しており、その中のスマホの割合が14年9月に5割を超えた(フューチャーフォンとかガラケイと呼ばれる従来のケータイを上回ったわけである)(1)。総務省の予測でも18年には7割のシェアを持つことになるという。

 ウエブなどへのアクセスもパソコンからスマホに移り、そのためにウエブ仕様も大きく変わりつつあることは以前、本コラムでもふれた。

 スマホビジネスはドコモ、au、ソフトバンクという3大キャリアによってほぼ独占されてきた。機器の構成は端末+シムである。端末はアップルがアイフォンで先鞭をつけ、続いてグーグルの基本ソフト、アンドロイドを使ったさまざまな端末が登場した。キャリアは国から無線通信サービスの免許を受け、それぞれに基地局などのインフラを整備、通信体制を整えてサービスを提供している(MNO=Mobile Network Operator=と呼ばれる)。

 個々の端末が通信をするための情報(端末の識別や月ぎめの料金体系など)を入れたICカードがシム(SIM= Subscriber Identity Module)である。端末とシムが一体となって通信が可能になるが、シムカードはキャリアごとに固定されており、ドコモと契約すればドコモのシムカードが装着された端末が提供される。だから同じアイフォンでも、ドコモとau、あるいはソフトバンクでは違う。キャリアを切り替える場合は、シムカードと端末を同時に取り換えなければいけない。これをシムロックと呼ぶ。

 日本ではパソコン普及機にもハードとソフトを一体化し、メーカーの独自仕様で競争していた歴史があるが、その後、アメリカからやってきた共通仕様のDOSマシンに駆逐された。ハード、ソフト一体型はグローバル化、サービスの多様化に対応しにくい(テレビはCSからハードとソフトが分離した)。

より安いサービスを提供

 さて、スマホでも端末とシム(ハードとソフト)が分離し始めた。シムロックが解除される(シムフリーになる)と、端末にいろんなシムを自由に入れられる。しかもキャリアの枠を超えて、もっと安い、ユニークなサービスが登場している。格安シム、格安スマホである。

 それを可能にしたのがMVNO(Mobile Virtual Network Operator=「仮想移動体サービス事業者」と訳される)で、MVNOは無線通信インフラを自前で整備するのではなく、それをそっくりキャリアから借り受けて、より安いサービスをシムとして提供するようになった。

 MVNOには、OCNモバイルONEなどを提供するNTTコミュニケーションズ、BICSIMなどを提供するインターネットイニシアティブ、楽天モバイルを提供する楽天などがあり、最近ではさまざまな業界から、かつてのプロバイダー乱立を思わせるように、雨後のタケノコのように参入、500件を超すとも言われている(ドコモの回線がよく利用されているようである)。

 モバイル端末が普及してくると、たくさんの動画を見たい、ポケモンGOのようなゲームがしたい、情報収集のためにウエブ検索に使いたい、もっぱらメールができればいい、音声電話のほかは簡単なアプリだけで十分と、人びとのニーズもまた多様化する。従来のスマホの、月に安くても6000円から8000円する通信料金が半額からそれ以下に抑えられるから、いま一つ手が出なかった層にもスマホが浸透することになるだろう。

 総務省も、国際化に対応する、スマホ料金をもっと安くするといった理由のほかに、これからは通信機器だけでなく、物そのものが通信能力をもつようにしようというIoT(Internet of Things)構想推進のためにもMVNO普及に力を入れている。14年7月、翌15年から通信事業者によるシムロック解除を義務化する方針を明らかにし、各社ともそれに対応している。同省は16年中にMVNO契約数をケータイ契約全体の約10%に当たる1500万件に増やすことを目標にしている(2)。

 既存キャリアは全国に多くのショップを置いて、痒いところに手が届くサービスをしてきた。わからないことにはすぐ答えてくれる便利さも得難い。既存キャリアも値段を安くする方向に動きつつあるし、別途、格安シムの提供も始めている。格安シムを扱うにはある程度の知識が必要でもあり、ITにある程度の知識がある層から広まりつつあるようである。

SNSのラインも参入

 今秋には、格安シムの業界にSNSサービスとして躍進著しいLINEが参入した。データ通信専用と音声通話機能つきがあるが、データ通信専用でもラインの無料通話機能を使えば通話できる。ラインだけなら月500円という「格安」である。
 
 若者はメールよりもSNSでやりとりすることが多いようだから、キャリアを変えるとアドレスも変えなくてはいけないという煩雑さとも無縁である。海外に持って行ったスマホで日本国内に電話することも、ウエブを閲覧することもできるけれど、それには高い通話料(通信料)がかかる。現地のシムを購入し自分のスマホに差し替えるだけで、はるかに安い費用で通話、通信できるわけで、いずれシムの形態などの規格も統一され、操作も簡単になれば、スマホ地図は大きく変わることになるだろう。
 
 NTT(前身の日本電信電話公社、それ以前は国)が100年の期間をかけて全国津々浦々に固定電話回線を引いてきたことを思うと、通信の目覚ましい変化にあらためて驚く。いまでは固定電話を引かない若い世帯もけっこうあるようだ。

<注>
<1>ITmedia:MM総研の調べ(14年10月)によると、スマホ契約者は6248万件、フィーチャーフォンは6176万件で、スマホの割合が50.3%となった。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1410/24/news137.html
<2>NewsPicks:総務省のキーマンが語る、MVNOを推進する理由
https://newspicks.com/news/10486

投稿者: Naoaki Yano | 2016年11月20日 12:39

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