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2016年09月22日

ポケモンGO―可愛い動物を追っかけて罠にはまる危険(2016/9)

 スマホ(スマートフォン)向けのゲーム、ポケモンGOが日本で配信されたのは7月下旬だが、配信3日間で1100万人以上がダウンロードしたと言われ、アメリカをはじめ世界的にも爆発的ブームになっている。サイバー空間と現実世界の交流をめざす最新技術が詰め込まれたこのゲーム、たかがゲームと無邪気にかまえていられない不気味な力も持っている。

すでに大きな社会現象に

 位置情報ゲームとか拡張現実ゲームとか言われるこの新手のゲーム、すでに多くの社会現象を引き起こしている。

 配信1か月後の夏休み最後の日曜日、神奈川県の観光地、江ノ島を訪れたら、ポケモンが多数出現しているとネットで知った家族連れ、若者、あるいは成人や外国人観光客が、土産物店前の広場や瑞心門などの名所周辺にたむろし、ポケモン捕獲に取り組んでいた。すぐ電源が切れるのを防ぐためにバッテリーを用意している人も多い。人気はいっこうに衰えていないようだ。

 グーグルマップや現実が映し出された画面上にバーチャルなポケモンがかぶさるように現れ、端末を操作しながらポケモンを捕らえたり、互いに戦わせたりして遊ぶ(ゲームをするためにはスマホの位置情報やカメラ機能をオンにしなければいけない)。

 いきおい歩きながらゲームする「歩きスマホ」が3倍に増えたとか、車やバイクを運転しながらの事故が続発したといったニュースも頻繁に報道されている。すでに死亡事故も起こっているが、いずれはもっと大規模事故が発生する恐れもある。

 ポケモンが現れる場所には、それを捕獲しようとゲーマーたちが集まるわけで、その集客力に注目する企業も現れ、たとえば日本マクドナルドは国内2900店舗を、ゲームに必要なアイテムなどが入手できる「拠点(ポケストップ)」にして売り上げを伸ばしている。もともと任天堂が開発したゲーム、ポケモンから派生した商品なので、一時は任天堂の株が急上昇するなど経済への好影響も取りざたされ、ポケモノミクスと言われたりもした。

 逆に、人びとがむやみに集まってくるのは不都合だとして、JRなどの鉄道の駅や線路、高速道路、原子力発電所、裁判所、広島記念公園など、ポケモン出現場所としての削除を求めた施設もある。
拡張現実(オーグメンテッド・リアリティ、AR=Augmented Reality)と言われる技術は、現実世界を電子的に補強、増強するもので、透明なヘッドホン眼鏡をかぶって現実世界を見るとメガネ上に電子的に生成された仮想物を重ね合わすことができるから、たとえば展望台でこのメガネをかけると、山や川、ビルなどの光景に重なったかたちで、それらの名前を見られるとか、空き地のままのビル建設現場に立つと、その場にまさに完成したビルがだぶって見えるとかいったように利用されてきた。現実世界をよりよく理解する手助けともいえるだろう。

最先端技術の〝結晶〟

 たわいないゲームと見えるポケモンGOだが、実は、小型の強力コンピュータであるスマホを舞台に、拡張現実技術のみならず、グーグルがグーグルアース、グーグルマップ、ストリートビューなどで開発した地理データデジタル化の最新技術が惜しげもなく詰め込まれている。

 かつて任天堂が開発したウイー(Wii)は、これまで主として手による入力だったゲームを、体全体を使うものに変えた点で画期的だったけれど、ポケモンGOは、さらにその先を行く革命的なゲームとも言えよう。

 さて、これからがむしろ本題だが、このゲームの持つ潜在的脅威に注目しておこう。

 ポケモンはゲーム会社のサーバーからコントロールされてスマホに送り出されるが、逆に多くの人がポケモンGOをしながら、意図せずに集めている街並み、建物、各種施設、あるいは屋内、さらには通行人の姿といった映像は、位置情報と関連づけられて、やはりゲーム会社のサーバーに蓄積される。

バーチャル・タイムマシン

 全世界で同時に膨大なデータが積み上げられるわけで、これを〝バーチャル・タイムマシン〟と呼んでもいいだろう。この膨大なデータを誰かが俯瞰することができれば、極端な話、某月某日某時に某々が某所にたしかに存在したということがわかる理屈である。
 
 ポケモンGOを開発したのは米企業、ナイアンテック(NIANTEC)だが、そのCEO、ジョン・ハンケ氏は、以前に設立した会社、キーホールがグーグルに買収されたあと、まさにグーグルアース、グーグルマップ、ストリートビューなどの開発に従事してきた(2015年に独立した)。キーホールには米CIAや国務省関連の資金も大量につぎ込まれたと言われている。

 CIAなどの国家権力にとってこのゲームが魅力的なのは当然だろう。たとえば詳細な構造を知りたい施設などにポケモンの希少キャラクターを置けば、ユーザーがそこに押しかけ、労せずして貴重な映像が手に入る。逆にまったくポケモンが現れず、人びとが集まらない場所は秘密の場所だと推定できる(辺鄙な田舎にも現れないだろうが)。

 この点について、アメリカのウエブは「CIAはパトリオット(愛国者法=2001年に成立したテロ対策法だが、国家権力による個人のプライバシー侵害の恐れがあるとの批判も強い=矢野注)でも入手できないプライバシーをこのゲームで入手できる」、「人びとは、たあいのない小さな生き物を追いかけているうちに墓場に連れ込まれる」などと指摘している。また「ポケモンは新しいレベルの侵略、全体主義の新しい形」であるとの映画監督、オリバー・ストーンの言葉も引用している。ちなみにロシアや中国ではポケモンGOの配信を禁止したとか、制限しようとしているといった報道もある。むべなるかな、と言えるだろう。

 ポケモンGOはおもしろい。しかしそこには大きな危険が潜んでいる。これがサイバー空間と現実世界が混沌となった新しい世界の現実である。

投稿者: Naoaki Yano | 2016年09月22日 11:48

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