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2015年07月21日

ドローンの官邸落下――私的空間に侵入してくる便利さと危険(2015/6)

 4月下旬に首相官邸屋上にドローンが落下、それに福島で採取した放射能汚染土が取り付けてあったことで、このところ開発・利用が急速に進んでいるドローンの規制問題がクローズアップされている。

 ドローン(Drone)とは複数のプロペラで飛行する小型の無人機、一種のロボットである。GPS機能をもち、遠隔操作できる。偵察、空爆などの軍事用途で開発されたが、この技術はまたたく間に民間に転用され、荷物の宅配や人が立ち入れない場所の点検作業などに利用されるようになった。小型カメラを搭載すれば空中撮影が楽しめるため、趣味としての個人利用も進んでいる。すでに家電量販店に並ぶほどの人気商品で、価格は数千円から十数万円までさまざまである。

 首相官邸に落下したドローンは直径50センチほど。原子力発電再稼働に反対する意図で官邸めがけて飛ばされたが、途中でコントロールが効かなくなり、屋上に落下したらしい。犯人は自ら警察に出頭、威力業務妨害罪で逮捕されている。

 ドローンが便利なロボットであることは間違いない。事件直後にネパール中部で発生した大地震で、一市民が翌日にドローンを飛ばしてカトマンズ上空を撮影した動画がウエブのハフィントンポストに掲載されているが(1)、甚大な被害が克明に記録されており、その性能は驚くばかりである。この映像が人命救助の手助けになることも十分考えられよう。

 この技術は今後、過疎の離島に医療品を運ぶ手段などさまざまに利用されるようになるだろう。お掃除ロボット、ルンバのように、私たちの身近な存在になるのも遠くないかもしれない。

空から危険が降ってくる

 思わぬ福音は、予想外の災難と裏腹である。

 空から重い物体が落ちてくること自体がきわめて危険である。実際、5月6日には宇都宮市の民家の玄関先に落ちているのが発見されているし、4月にはTV局が撮影用に飛ばしたドローンが在日英国大使館敷地内に落ちた。ドローンがあたってけがをすることもあるだろうし、それが原因で交通事故などの惨事が起こる可能性もある。空中から毒物を散布するといったテロ行為に利用される恐れも否定できない。

 ドローンの飛行に関しては、いまのところ高度250メートル以内であれば、とくに規制がない。だれでも、どこでも、飛ばせるわけである。事件をきっかけに、官邸や皇居周辺では飛行を禁止にするとか、操縦者資格に何らかの制限を加えようといった規制問題が浮上している。過度の規制は技術の進歩を妨げるといった危惧も指摘されているが、いつなんどき空から危険が降ってくるかわからない事態は絶対に避けなくてはならない。

 しかしドローンにはもう一つ、やっかいな問題がある。私的空間へのあからさまな侵入である。これはドローンに限った話ではなく、新しい技術が開発されるたびに私たちの生活空間は脅かされてきた。

 グーグルのストリートビューでは玄関先の住人が映し出されたし、時計やメガネなどウエアラブル端末が普及すれば、私たちのプライバシーは風前の灯になる恐れもある。世界遺産への登録勧告で話題になった長崎県の軍艦島(端島)をドローンで撮影したソニーのプロモーションビデオの美しさが話題になっているが(2)、ドローンは建物の狭い隙間や天井の下をかいくぐって飛んでいる。

 ドローンがどんどん小型化するのは明らかで、いずれは蚊やハエのように小さくなって屋内に侵入、私たちの行動を監視したり、会話を盗聴したりする可能性も否定できない。

狭まるプライバシー領域

 急速な技術進歩に法が対応するのは難しい。常に後手に回りがちだし、一方でそれらの規制がかえって私たちの生活を息苦しいものに変えていく。この辺の事情をスマートフォン(カメラ付きケータイ)と「盗撮」を通して考えておこう。

 軽犯罪法には「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を罰する条文がある。一種のわいせつ行為の禁止だが、みんながカメラを持つようになって、「ひそかにのぞき見た者」は「盗撮した者」へ、場所はより一般的な「公共の場所」へ、対象も「衣服の下の下着」などに拡大されてきた。

 取り締まりはもっぱら地方自治体の迷惑防止条例によっているが、たとえば東京都条例は「何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。(中略)公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部若しくは一部をつけない状態でいる場所又は公共の場所若しくは公共の乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること」と規定している。

 便利な機器が犯罪を誘発し、取り締まりも強化されざるを得ない。盗撮を〝補助〟するようなアプリも発売されて事態をより複雑にしている。シャッター音なしで連写できるものもあるし、スマホ画面をブラウザに偽装したり真っ黒にしたりして、使っていないように装えるアプリもある。

 かくして便利なスマートフォンのために生活空間が脅かされる。盗撮は痴漢よりも刑が重くなっているし、また盗撮する気がなくても、あらぬ容疑をかけられる恐れも出てきた。電車や人混みの中で、スマホを顔の高さにまで持ち上げて操作しているだけで、盗撮と勘違いされて、逆に撮影されてネットにアップロードされるケースや、スマホをいじっていただけで「盗撮していただろう」と言いがかりをつけられて、金銭を脅し取られる事件も発生している。

 これに類する問題がドローンをめぐっても起こるということである。

<注>
(1)http://www.huffingtonpost.jp/2015/04/27/nepal-drone_n_7156502.html
(2)https://www.youtube.com/watch?v=73B5Dv0aNJM&feature=youtu.be

投稿者: Naoaki Yano | 2015年07月21日 11:14

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