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2009年12月23日

「不信」も「悪意」も増幅するネットの力(09/12)

 前回、世界的なボランティアネットを築き上げている若者たちを紹介し、彼ら「デジタルネイティブ」には、ネットの向こう側にいる人びとへの「信頼」と、インターネットという技術への「信仰」があると述べた。一方で、「学校裏サイト」や「プロフ」などにアクセスしている日本の子どもたちに顕著なのが「ネットの特性への無頓着」である。

 信頼する者同士の善意のむすびつきはすばらしい結果を生むし、インターネットは世界中の善意を一か所に結びつける可能性をもっている。これを過小評価するのは間違いだが、そこに「不信」や「悪意」が入り込むと、負のスパイラルが起こる。その不信や悪意が、きわめて入りやすいのもインターネットの特徴である。小さな力が大きく増幅されることに、インターネットの長所も、危うさもある。

学校裏サイトとプロフ

 学校裏サイトは2002年ころからあるようだが、そこに書きつけられる生徒同士の誹謗中傷や、わいせつ画像、いじめなどの問題が顕在化したのは2006年からである(佐世保市で小学六年生の女子生徒が級友に切りつけて殺した事件は2004年だった)。

 社会的関心が高まり、親や教師の監視の目が行き届くようになって、大きな話題になることは少なくなったが、一方で、情報発信手段が多様化、分散化したり、鍵(パスワード)をつけて子どもたちだけの世界に潜行したりもしている。

 すでに古い数字だが、文部科学省が2008年3月に発表した「青少年が利用する学校非公式サイトに関する調査報告書」によれば、○○中学、××高校などのように具体的な学校を名乗っているものや、「学生の性知識」、「高校生広場」などの看板を掲げ、地域を問わず多くの中高生を集めているものなど形態はさまざまだが、学校裏サイト(報告書では「学校非公式サイト」)は、全体で3万8260あった。2007年度の学校基本調査による全国の中高等学校(中高一貫校も含め)は1万6300あり、その2.3倍にあたる学校裏サイトがあることになる。

 もっとも、同調査で並行して行った群馬、兵庫、静岡の3県の2400の中高校を選んで行ったアンケート調査によると、回答者1522人中、学校裏サイトを知っていたのが33%、閲覧したのは23%、実際に書き込んだのはわずか3%である。学校裏サイトは全国的に多数存在しているが、それに関与している生徒はごくわずかだとも言える。しかし、その影響が無視できないわけである。

 また東京都教育委員会が2009年10月末で集計した結果では、具体的な学校名を名乗った、いわゆる学校裏サイトが、高校で92%、中学校で68%、小学校でも20%あったという。

 ちなみに、プロフというのは自分のプロフィールを書きつける掲示板で、一般に自己紹介サイトと呼ばれる。一時、話題になった「前略プロフィール」と呼ばれるプロフができたのが2004年である。自分の名前、学校名、身長、趣味や血液型などを書き込んで自己紹介し、友達や異性との交流を求めるもので、プライバシーを無防備にさらけ出して、犯罪に巻き込まれたり、人気を得るために自分のあられもない写真を掲載して、未成年者自身がわいせつ情報を提供したりする行為が頻発しているのは、すでによく知られている。

公開されていることに無頓着

 これらの学校裏サイトやプロフなどがはらむ問題点をあげておこう。

①関係のない第三者が見ているという意識がない。
 あくまでも仲間内のおしゃべりという感覚で書き込んでいるので、それらの書き込みを学校の先生や保護者が見ているという意識が希薄である。

②書いたことが他人を傷つけることに鈍感である。
○田花子、中川×男など、一部を伏せただけで匿名にしたと考えて、気軽に悪口を書いている。生身の相手を眼のあたりにしていないために、言葉の暴力に対して警戒感がないと言える。

③あっけらかんと個人情報を公開する。
 ストーカーなどの犯罪に巻き込まれる例が多い。

④簡単にお金が入ることになれている。
 サイトには出会い系サイト、消費者金融、美容整形、わいせつ画像、アダルトグッズなどの広告が自動配信され、それを訪問者がクリックすることで管理人に広告収入が入る。

⑤独りで書きこむのでブレーキが効かず、暴走しやすい。
いつでもどこからでも、ケータイから気軽に作成・書き込みできるために、どうしても過激化する傾向がある。また、過激であればあるほどサイトはにぎわい、広告収入も増えるので、管理人も過激な情報を喜ぶ。

⑥外から入り込んでくる悪意の大人に無警戒である。
 広告ばかりでなく、友だちのふりをして女生徒に近づき、誘い出して暴行するケースは枚挙にいとまがない。

若者たちが生きる社会

 前回、プラスに働いたインターネットの長所が、ここでは逆にマイナスに働いている。インターネットを使いこなして社会貢献に取り組んでいる若者たちにも同じような危うさはあるだろうし、逆に、学校裏サイトに接している若者たちにも、インターネットをプラスに使っている例がたくさんある。だから両者を分けて考えることはできないが、両者には社会的な分極化傾向も反映しているようにも思われる。

投稿者: Naoaki Yano | 2009年12月23日 23:19

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