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2009年12月23日

若者の新しい生き方を無視できない(09/11)

  生まれながらにインターネットやゲーム、ケータイなどのITに親しんでいる世代を「デジタルネイティブ(デジタル原住民)」と呼び、これに対して、IT普及以前に生まれてITを身につけようとしている世代は「デジタルイミグラント(デジタル移民)」だという考え方がある。ITを境に年長者と若者がすっかり主客逆転したかのようである。

 インターネットが私たちの周辺にまで影響を及ぼし始めたインターネット元年(1995年)に生まれた子どもたちが、2009年では14歳、1995年に18歳だった若者は32歳になる。このように生まれたときから、あるいは多感な青少年時代からインターネットに接してきた若者たちが、すでに立派な大人になりつつあるわけである。

BC・ACという時代区分

 私はサイバー空間出現以前と以後をBC(Before Cyberspace)とAC(After Cyberspace)に分けていいほどに、サイバー空間登場の意味は大きいと何度も言ってきた。だからこそサイバー空間の現実世界とは異なる特徴を理解しなければならず、その能力、サイバーリテラシーが重要なのだが、すでに若者たちは、そのサイバー空間の“現実”を生きており、「デジタルネイティブ」という命名には、なるほどと思わされるところがある。
 
 デジタルネイティブ、デジタルイミグラントという考えを最初に提唱したアメリカの作家、コンサルタントのマーク・プレンスキーは、教育について論じながら、「今の若者たちは本を読むよりもコンピュータ・ゲームや電子メール、インターネットに親しんでおり、従来の教育方法ではもはや教えられない」、「生徒の頭は我々とは物理的に変わってしまった」、「彼らはデジタルを母国語とした新しい人種である」と言った(1)。
 
 さらにこうも言っている。「デジタル移民はいくらデジタル語を勉強しようと、どうしても古い習慣から来る独特の“アクセント”から抜けられない」。
 
 たとえば、電子メールやドキュメントをいったんハードコピーにしてからチェックする、インターネットの情報を二次的にしか参照しない、ひどい場合は、「私の電子メールを見た?」とわざわざ電話してくる、などなど。こういう強い“アクセント”をもっている人間がデジタルネイティブに教えるのは無理である、として彼は、教育手段としてゲームを利用することを勧めた(2)。
 
 このデジタルネイティブという言葉は、ほどなくしてIT分野の調査研究を行う国際企業、ガートナーなどによって、新しい企業戦略の対象として喧伝されるようになった。彼らは「(今後のビジネスを成功させるためには)デジタルネイティブを意識したIT戦略が急務」と説いたが(3)、たしかにこれからますますデジタルネイティブが増えてくることを考えると、ネット世代に焦点を当てた考えた方が現実的だとも言えるだろう(4)。

デジタルネイティブの活躍

 デジタルネイティブはどのような行動をとるのだろうか。NHKが2008年11月に「デジタルネイティブ 次代を変える若者たち」と題する番組を放映したとき、ウエブで行った「デジタルネイティブ度チェック」(表)を見れば、おおよその見当はつくだろう。同取材班がまとめた『デジタルネイティブ』(NHK出版、2009)から引用したものだが、本書にはデジタルネイティブの活動ぶりの一端として、以下の話が紹介されている。
 
 市民運動を行う若者たちのSNS、ティグ(TIG=Taking IT Global)は、2000年に「今の世界を覆う問題を自分たちの手で解決していかなければ、自分たちの未来は暗い」と考えたカナダ・トロントの十代の若者2人が立ち上げたもので、最初は英語版だけだったが、今ではフランス語、イタリア語、中国語など12カ国版がある。世界200以上の国と地域から22万人の若者が参加しており、稼働しているプロジェクトは約2000。20名弱の若者で運営され、システムの維持改修費など年間1億5000万円ほどの経費は大手IT企業などからの資金提供だという。活動が活発化するにつれ、各種の国際会議にも積極的に参加、しかも会議をリードする場合も多いとか。

 設立者の1人、ジェニファー・コリエロ(28)は、2005年のダボス会議(スイスで毎年開かれる国際会議)で「新しい市民運動像を築きあげた」として、「次世代のリーダー」に選ばれた。彼は「私たちは、インターネットの力を最大限活かし、若者たちの意欲を喚起し、若者たちを巻き込んでいくことで、世界を変えていきたいと思っています。もし、大人たちが、インターネットを、単に『生活に多少役に立つツール』としてとらえているとすれば、そうした見方を覆したいのです。私たち若者は、より良い世界を築くためにインターネットが利用可能なのだ、ということを証明したいのです」と語っている。

不特定多数への信頼

 ここには、金儲けのビジネスではなく、国際的な社会貢献にインターネットを使おうとしている若者たちがいる。先進国、開発途上国一体となった、これまでにはない新しい広範な動きで、それを支えているのがインターネットである。背景には、ウエブ2.0でも話題になった「ネットの向こう側にいる不特定多数への信頼」と「技術への信仰」があるとも言えよう。これは、「デジタルネイティブ」たちのすばらしい側面、インターネットの光の部分だと言っていい。

(1)”DigITal Natives, DigITal Immigrants”。2001年の発表。
(2)後に『テレビゲーム教育論』(東京電機大学出版局、2007)と翻訳された著書も刊行している。
(3)たとえば、「デジタルネイティブを意識したIT戦略が急務に」参照。ここではデジタル移民に対して「デジタルイミグレイト」という表現を使っているが、原語がそうなのかどうかは不明。
(4)ドン・タプスコット『デジタルネイティブが世界を変える』(原題” Grown up DigITal”、 栗原潔訳、翔泳社、2009)も同じような趣旨である。

<表>「デジタルネイティブ度チェック」
(全部で20問ある。1問5点として、自分は何点とれるか、チェックしてみてください)

●インターネットで知り合いになって、会ったことがある人が5人以上いる
●朝起きると最初にするのは、メールをチェックすることだ
●出かけたり、買い物をしたり、何か行動する場合は、まずネットで検索する
●デジカメなどで撮影した写真は、写真共有サイトにアツプロードしている
●ネットで買い物をするときに、クレジットカード番号を入力することにまったく抵抗がない
●音楽は、ネットで購入したり、入手することが当たり前になっている
●定期的にチェックするブログが5つ以上ある
●ブログにコメントを付けたことがある
●自分のブログをもっていて、定期的に更新したり、トラックバックを張ったりしている
●mixiやfacebookなどのSNSに複数参加している
●SNSでは自らコミュニティーを主宰している
●ウィキペディアの編集をしたことがある
●インスタントメツセージで友人と日常的にチヤツトする
●携帯電話は会話するよりも、メールすることのほうが圧倒的に多い
●面白い動画やサイトを、すぐに友人にメールなどで知らせることが楽しい
●友人、知り合いに電話番号を教えるときは、携帯電話の赤外線通信で行う
●ネットでニュースをフォロ―しているので、紙の新聞は読まない
●テレビはいったん、ハードディスクレコーダーに録画してから見るのが基本だ
●学校(小、中、高)では、パソコンの授業があった
●いまの彼女(彼氏)はネットで知り合った

投稿者: Naoaki Yano | 2009年12月23日 23:13

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