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2015年10月12日

ライン:引金の「耐えがたい軽さ」と結果の「重さ」(2015/9)

 7月に都内の中学校の保護者会で話す機会があった。集まった100人以上の主として母親に、フェイスブック、ツイッター、ラインの3つのソーシャルメディアの利用状況を聞いたら、ぱらぱらと手が上がったけれど、多かったのがラインである。ラインは若者だけでなく、中高年にも急速に普及しており、それとともに思わぬトラブルも起こっている。このスマホアプリが奏でる「耐えがたい軽さと重さ」について考えてみよう。

スマートフォン普及とライン

 総務省の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(2014年11月に13歳から69歳までの男女1500人を対象に実施)によれば、スマートフォン利用率はすでに6割を超え、20代から30代では8~9割という高水準になっている。40代も7割超、50代でも5割に近い(1)。時代はパソコンからスマートフォンへと大きくシフトし、とくに私生活でのスマートフォンの進出ぶりが著しい。

 これはソーシャルメディアの利用率とも連動している。フェイスブックやツイッターはパソコンからもアクセスできるので、これがそのままスマートフォンによるソーシャルメディア利用とは一致しないけれど、スマートフォンによるアクセスが増えているのも間違いなさそうである。

 同調査によると、ソーシャルメディアを利用した人の利用時間は平日で平均71分となっている。テレビ視聴時間は平日で170分となお高い水準にあるが、すでに横ばい傾向にあり、ネット利用時間だけが上昇している。

 興味深いのがそこでのライン利用者の増加率である(表1、数字は%)。ライン(LINE)はスマートフォンでメッセージをやりとりする無料対話アプリで、同社は昨年10月、世界全体の登録者数が5億6000万人に達したと発表した。日本での利用者は5200万人以上であり、そのうち毎日利用するユーザーは約3400万人という。ほぼ1年前の数字だから、現在はもっと増えているだろう。フェイスブックやツイッターも伸びているけれど、ラインの普及ぶりが際立っている。

 ラインだけを年代別に見ると、表2のようになる。

 20代では9割が利用しているが、40代でも6割を上回っている。中学生の親たちにも急速に広まっているわけである。

 ライン普及は当然、ラインをめぐるトラブルの増加となって表れている。これまでパソコンのメールや掲示板、メーリングリストなどで行っていたコミュニケーションがスマートフォンとそのアプリ、ラインに代わったわけだから、当然の結果でもある。先の総務省調査によっても、10代から30代はメールからソーシャルメディアへとコミュニケーション手段が移っており、とくに女性のソーシャルメディア利用率が高い。ラインは出会い系サイト的にも使われている。

表1
 2012年 2013年 2014年
ライン         20.3      44.0      55.1
フェイスブック    16.7      26.1     28.1
ツイッター      15.7      17.5      21.9

表2
2012年 2013年 2014年
10代 38.8       70.5      77.9
20代    48.9       80.3      90.5
30代    29.1       65.4      69.8
40代    11.5       42.6      63.4

簡単操作とグループ対話

 スマートフォンという高機能なモバイル端末と、ラインという便利なアプリの組み合わせが、トラブルを増やしている。それはひとことで言えば、操作があまりに簡単なため、本人もはっきり意識しないうちに起こりがちだということである。

 スマートフォンを利用するようになってまず気づくのは、文字入力の手軽さ、というより頼りなさだろう。パソコンやガラケイのようなキーボードを物理的に「押す」のではなく、画面上のタッチパネルにふれるだけで文字を入力できる。ちょっと画面にさわっただけで文字が入力されてしまうので、なれないと入力ミスが度々起こる。これは他の操作にも言えることで、電話しようとアドレス帳にある相手を選ぶときも、ちょっとした手違いや身体の揺れなどが原因で、上下に並んでいる名簿から別の人を選んでしまう。あわててアプリを閉じてもすでに相手を呼び出しているから、結局、〝間違い電話〟になる。アドレス帳にさわったことさえ気づかないこともあるから、「さっきは電話に出られなくてすいません」と海外の友人から返信があってはじめて、誤りに気づくこともある。

 スマートフォンでは簡単に写真も撮れ、それをネットにすぐアップできるから、思わぬ写真を送信してしまうこともある。そうでなくてもラインのトラブルでよくあるのが、中高生も含む若い女性が「写真を送ってほしい」と頼まれ、嫌われるのを恐れて1枚送ると、次々により露骨なものを送るように頼まれ、それを断ると、他の掲示板やブログにアップされたといった事件である。小学生が犠牲になった例もある。

 スマートフォンのカメラは画面を自分に向けてそれを見ながら撮影できるから、いわゆる「自撮り」できるし、そのための便利な道具もある。だれにも見られず自分のあられもない写真を撮れること自体がその種の写真が横行する原因になっている。それら一連の操作がいとも簡単にできてしまうのである。

 ラインにはスマートフォンの便利さが満載だが、トラブルの原因になりがちなのがグループ対話である。2013年7月、広島県呉市で16歳の少女らが仲間の少女を殺して山に放置する事件があったが、彼や彼女たちはライン内に自分たちのグループをつくってチャットをしており、これが残酷な犯行の温床になった(主犯の少女は今年4月に広島高裁で懲役13年の刑が確定している)。最近ではママ友グループで通話することも多くなっており、それをめぐる、やはりいじめなどのトラブルも少なくないようだ。

自分のやったことに真っ青

8月には某テレビ局のバンコク支局長が、外務省が外国メディア向けに設けたライングループ(現地駐在の外国人記者など150人あまりが参加)に、知人に送るはずだった私的な写真をあやまって投稿、これがまたたくまに外部にまで公開されるという事件があった。自分の下半身を写すということ自体、スマートフォンがなければめったに起こらないし、それをすぐアップできることもない。行為の引金の軽さが一生を棒に振りかねない結果を生み出す典型とも言えよう。

 ラインの取り扱いには、若きも老いも、くれぐれも注意した方がいい。

注(1)http://www.soumu.go.jp/main_content/000357568.pdf


投稿者: Naoaki Yano | 2015年10月12日 13:11

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