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2014年12月21日

子どものスマートフォン利用を制限する(2014/12)

 スマートフォンは強力なコンピュータそのものである。通話ができ、メールを送れ、ウエブを閲覧、映像を撮って投稿サイトにアップもできる。ショッピングに使えるし、銀行口座の引き落としもできる。身近にいつもある、この万能マシンをうまく使うには才覚が必要である。その知恵が未発達の子どもの場合、スマホ漬けになりがちの生活から解放させてやるのが親の務めでもあるだろう。

「サイバー元服」再び

 かつて「サイバー元服」という考えを提唱したことがある(1)。昔の習俗である「元服」ではないが、子どもが大人になるまでのたいせつな成長期は、親や地域の保護のもとに自然に親しみ、豊かな情操を築き上げるべきで、「元服」を迎えるまではデジタル機器の使用はなるべく控えさせるべきだという趣旨だった。

 もちろん子どもをデジタル環境から完全に切り離すことは現実に難しく、また賢明でも、得策でもない。要は道具の賢い使い方で、当時念頭にあったのはケータイである。これを小中学生には使わせないほうがいいというラディカルな提案だったが、正直に言えば、一律禁止の可能性は当時から考えていなかった。ケータイからスマートフォンへ道具が強力になるにつれて、この考えをやや現実的に修正して再度提案してみたい。

 骨子は、あらためて中学生までの子どもに対しては、スマホ利用を場所的、時間的に制限することである。場所的には「子ども部屋に持ち込ませない」、時間的には「夜9時以降の使用を禁止する」。高校生に対しても、それに準じた何らかの制限策を講ずることが望ましい。

スマホ漬けの「苦しさ」

 サイバーリテラシー研究所では、プレジデント・オンライン(2)で「サイバーリテラシー・プリンシプル」というコラムを連載している。そこでもこの2つの提言を取り上げた。取材の過程ではっきりしたのは、子どもたちもまたスマホから逃れられない生活を重荷に感じているということだった。

 中毒性ということではゲーム漬けがもっとも深刻である。神奈川県横須賀市の国立・久里浜医療センターでは、ネット依存患者の急増に対応して、2011年にネット依存治療部門を開設しているが。関係者の話では、オンラインゲーム依存患者は年々増えているという。

 そこまで行かなくても、際限なく続くSNSのおしゃべりを打ち切るタイミングを見つけられずに悩んでいる子どもたちは多い。夜通しSNSをやり続けるネット依存が強まり、睡眠不足から成績は下がり、遅刻・欠席は増え、不登校などの問題も生じている。視力低下、頭痛、睡眠障害、運動機能低下、人間関係の悪化、さらにはうつ病などの精神疾患にもつながる。

 必要なのは、子どもがスマホと四六時中つながった状態を、何らかの制限を設けて強制的に絶つことである。とりあえず最低限、家庭ではスマホは居間で使うようにし、自分の勉強部屋には持ち込ませない、夜9時以降はスマホ利用を禁止する、というのは、その気になればすぐ実行できることではないだろうか。必要なのは親の積極的な子どもへの関わりと、それを支援する学校や地域の取り組みだろう。

 時間的な制限については、すでにいくつかの自治体でその試みが進められていることもわかった。
先鞭をつけたのが石川県で、「いしかわ子ども総合条例」を改正、小中学生に携帯電話を持たせないとする全国初の条例を2010年1月から施行、あわせてフィルタリングの徹底も盛り込んでいる。鳥取県米子市小中PTA連合会は2014年1月、「ケータイ・スマホ等に関する緊急アピール」を発表、「小中学生にはケータイ・スマホを持たせない」よう保護者に呼びかけた。仙台市教育委員会は4月、市内の中学生全員に携帯・スマホについて「使うのは長くても1日1時間以内」と注意を喚起するパンフレットを作成し、配布している。愛知県刈谷市でも4月、市内の小中高校や警察署、民生・児童委員などで作る刈谷市児童生徒愛護会が、小中学校の保護者に対して「必要のない携帯やスマホを子どもに持たせない」、「フィルタリングサービスを受ける」、「午後9時以降は子どもが携帯やスマホを使用しないように預かる」ことを呼びかけた。

新年は大人たちの奮起に期待

 これらの取り組みはなるべく多くの人を巻き込むかたちで展開していくのが実効性もあり、実施しやすい。自分だけでなく、友だち全員がスマホの利用を制限されていれば、彼らの心も安らぐだろう。

 ところでアイフォンやアイパッドの生みの親でもあるアップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏は、実は家庭では子どもにそれらのツールをなるべく使わせず、むしろ家族の対面コミュニケーションを重視していたとのニューヨークタイムズのコラムが話題になったことがある(3)。

 オンラインマガジン草分けの『ワイアード』の元編集長、クリス・アンダーソンも子どもたちに「うちの親はファシストだ。よその子どもはそんな制限を受けていない」と文句を言われながらも、デジタル機器の使用を制限しているらしい。

 IT企業のメッカ、シリコンバレーの中心部にあるウォルドルフ・スクールでは、子どもたちのIT機器使用を禁止しており、家での使用も勧められていない。ここではボールなどのアナログな道具を使った体験型の授業が重んじられている。もちろんIT企業に働くエンジニアの子弟が多いのだが、ある父親はCNNの取材に「コンピュータ科学者として自分が受けた教育をふりかえると、教室にコンピュータはなく、あったのは計算方法や論理などの教科書で、そうしたものからコンピュータの基となっている科学を学んでいった」と述べていた。

 IT先進国の米国で、あるいは先端技術者たちが率先してノースクリーン(デジタル機器の回避)を心がけているのに、なぜ日本ではスマホべったりの家庭が多いのかは考えてみるべきだろう。子どもたちが主体的に道具を使う習慣を身につけられるように、親や周囲の大人たちが本気で取り組む新年(2016年)にしたい。

(1) 矢野直明・林紘一郎『倫理と法』(産業図書)参照。本コラム2008年3月号でも触れた(http://www.cyber-literacy.com/blog/archives/2008/03/20083.html)
(2) http://president.jp/subcategory/(ビジネス→IT・ツール)
(3) http://www.inquisitr.com/1468612/steve-jobs-didnt-let-his-kids-use-iphones-or-ipads-heres-why/#ssA7xIixJfadhbAm.99

投稿者: Naoaki Yano | 2014年12月21日 22:22

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