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2014年07月30日

ビッグデータがショッピングの姿を変える(2014/7)

 突然と言っていいほどのビッグデータ時代の到来で、駅前商店街やスーパーでの買い物も、オンラインショッピングでの履歴も、私たちのすべての行動がデジタルデータとして補足され、統合され、分析されて、さらなる購買意欲を駆り立てる仕組み(商環境)が確立されつつある。

 「O2O(オー・ツー・オー)」という言葉がある。オンライン・ツー・オフライン(Online to Offline)の略である。オンライン(サイバー空間)の情報がオフライン(現実世界)の購買活動に影響を与えたり、逆に、オフラインの購買データがオンライン上の広告に利用されたりすることを意味する、新たなマーケティング用語である。

 オンラインマーケティングの黎明期(そのころは電子商取引と呼ばれた)には、「クリック・アンド・モルタル(Click and Mortar)」という言葉があった。やはりオンラインと実店舗との連携・融合を示していたが、2010年頃からO2Oという表現がさかんに使われるようになった。ショッピングばかりでなく、オンラインとオフラインが融合し相互に影響を及ぼす仕組みや状況を表す言葉としても使われる。

 用語ついでにふれれば、「ショールーミング」という言葉もあった。現実の商店で商品を手にふれながら、場合によっては店員にいろいろ聞きながら、しかし、そこでは買わず、家に戻ってオンラインで価格の一番安い店を調べて、そこから買うやりかたである。これだと商店はただのショールームになってしまう。これもO2Oの走りと言っていい。

企業の攻勢と消費者の知恵

 オンラインとオフラインの相互乗り入れは以前から行われていたわけだが、昨今のO2Oでは、ビッグデータ解析を武器にした売り手の大攻勢が進んでいる。

 その一端は5月号でフェイスブックの新しい広告作戦として紹介した。フェイスブック上(オンライン)の情報だけでなく、現実世界の書店やスーパー、コンビニなどで購入した商品の情報もミックスさせて、よりターゲットを絞った広告を提供するシステムである。

 現実の店舗でのデータはポイントカードで集められる。サービスカード、会員カード、ユーザーカードなど呼び方はさまざまだが、要するに、コンビニ、家電量販店、スーパー、デパート、コーヒーショップなどでカードを作ると、購入価格に見合ったポイントが与えられ、それを次回の買い物に使える仕組みである(ユーザーとしては少し得した気分になるが、実はその分はすでに価格に上乗せされている面もある)。

 ポイントカードは店舗側の顧客囲い込みを目的にして導入されたが、データが大量に集められるにつれ、マーケティングに利用されるようになった。そのデータが現実の店舗の買い物だけでなく、オンライン上のユーザーに的を絞った広告配布に利用されるようになったわけである。それを促進したのがビッグデータ解析技術の発達である。世界最大の小売りチェーン、ウォルマートがIT技術者を大量採用して、全米4200店舗でネット活用を統合する戦略を打ち出したとの報道もあった。

 日本ではヤフージャパンがこの種の試みに積極的で、昨年7月にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とポイントカードを統一している。CCCはビデオやCD、DVDなどのレンタルショップ、TSUTAYAの経営で有名だが、2003年から共通会員証である「Tカード」を柱に共通ポイントサービス「Tポイント」を展開、各種カードと積極的に提携してきた。ヤフーは今年6月にプライバシーポリシーを改定、ヤフーが持っているウエブページ閲覧記録などをCCCに提供すると同時に、CCCから4500万人余の商品購入履歴などの提供を受ける。

 また4月には中古書店を経営するブックオフコーポレーションと資本提携を発表、全国のブックオフ店舗で買い取った中古商品を「ヤフオク」で販売する。

 この現実世界とサイバー空間のドッキングは、ユーザー側についても言える。ショールーミング行為にしても、スマートフォン時代にあっては、現実の店舗内で他の商品の値段と比較できるから、店側もそういう状況に対応しサービスを展開せざるを得なくなっている。飲食店店長のツイッターやユーチューブでの投稿がおもしろいと、客が集まるといった現象もあるだろう。

 こうして私たちは、いよいよ現実世界とサイバー空間が混然とまじりあった世界に日常的に住むようになった。一時セカンドライフというサイバー空間上の商店街が話題になったけれど、サイバー空間内に仮想商店街を作る必要はもはやなく、現実世界そのものがサイバー空間に取り込まれたとも言えるだろう(セカンドライフには一時の活況はなく、シャッター商店街並みに閑散としているとか)。

プライバシーの薄れる社会

 買い物がほとんど現金で行われていたときは、なじみの店の主人の頭の中以外には、買い物の履歴はどこにも残らなかった(貨幣の匿名性がそれを可能にしていた)。いまはクレジットカードを使えばカード会社に履歴が残るし、たとえ現金で買ってもポイントカードを利用すれは履歴として残される。店が仕入れをする際の判断材料になるばかりでない。他の業者に売ることもできるし、提携カード会社を通じて、より大きなデータの一部になる。

 それはそれでユーザーの便宜なのだが、データの管理が不十分だと、プライバシーの漏洩になる。ヤフージャパンはプライバシーポリシーを変更した際、Tポイントとの提携を希望しないユーザーに、そこから除外される仕組みを提供したが、ソフトに不備があり、いまは見合わされている。またJR東日本はスイカの乗降データ(乗降駅、日時、利用額、生年月日、性別など)を外部に提供しようとしたが、「事前にきちんと説明されていなかった」との利用者からの苦情を受け外部提供を見送った。

 データ交流の具体的なルールはまだない。著しい不利益が起こる可能性は少ないかもしれないが、この種の事柄は見切り発車するのではなく、事前にきちんと点検すべきだし、必要な対策は怠るべきでもない。

投稿者: Naoaki Yano | 2014年07月30日 18:14

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