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2014年03月11日

パーソナル・コンピュータ場面の転換(2014年2月)

 私は最近パソコンを買い替えた。何にしようかと家電量販店をぶらぶら眺めていると、「デスクトップパソコン」というものがすでに役目を終えつつあるのがはっきりわかる。機能でというよりも、デザイン的に古く感じるのである。パーソナル・コンピュータをめぐる場面は、パソコンからスマートフォンへ、そしてウエアラブル端末へと大きく変わりつつある。

 パソコンとはもちろんパーソナル・コンピュータを日本式に4音に短縮したものだが、その姿は、言葉が導入された際の形態を色濃く残している。本体は大きな筐体に入り、それとは別にディスプレイがあり、マウスとキーボードを備えている、それがパソコンだった。後により小型で本体とディスプレイが一体化されたノート型パソコンが登場するにつれ、もっぱら机の上で作業するパソコンはデスクトップ型とも呼ばれたが、デスクトップにしても、ノートにしても、基本的な姿は変わらない。

時代はウエアラブル

 ビル(ビルディング)が原義の建物一般を指すというよりも、鉄筋コンクリート造りの近代的建物を指すように、外来語の意味はそれが導入されたときの姿に固定されてしまう。だからパソコンに続いて登場したタブロイド端末やスマートフォンは、パーソナル・コンピュータの発展形ではあっても、パソコンとは呼ばれない。

 時代はタブロイド端末やスマートフォンを経て、身につける端末、ウエアラブル・コンピュータへと移りつつある。昨年暮れに米ロサンゼルスで開かれた「ウエアラブル・テック・エキスポ」では、ヘッドフォンのように頭に装着するものや、腕時計やサングラス、さらにはベルト型といった、さまざまな端末が発表された。

 サングラス型では自分が見ているものを高精細のハイビジョン画質で撮影、それをそのままライブ配信できる。ベルト型は姿勢を崩すとセンサーが反応、正しい姿勢に矯正してくれる。GPS(全地球測位システム)内臓の時計型では、子どもの居場所を連携サイトを通じて確認、通話も可能である。「拡張現実」といわれる技術を使った頭部装着型は、自分が見ている対象物の名前や詳細を画面上で説明してくれる。

 1月にラスベガスで開かれた恒例の家電見本市、CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)でも、目玉は身体に装着するデジタル端末で、ソニーはリストバンドのように手首に装着、自分の行動のさまざまなデータを記録、スマートフォンに転送できる機器を披露した。パナソニックも近く高解像度映像を撮影するウエアラブル端末を発売するという。ショーで脚光を浴びたのが、ITで武装した車だったのも時代を象徴していよう。

これぞユビキタス

 この進展は、パーソナル・コンピュータという意味では、一直線の発達である。ユビキタス・コンピュータという言葉は最近ではあまり使われないようだが、今こそユビキタスの最前線と言えよう。この考えを最初に提唱したのはアメリカのコンピュータ科学者、マーク・ワイザーで、彼はコンピュータ発達史を人間との関係に焦点をあてて、①多くの人びとが1台のコンピュータを共有したメインフレーム時代、②1人1台のパーソナル・コンピュータ時代、③多くのコンピュータが1人ひとりの役に立つユビキタス・コンピュータ時代、に3区分した。

 まだパソコンが普及する前の1988年の段階で、「21世紀のコンピュータ」という論考を書いたワイザーの慧眼には脱帽するしかない。

 彼が描くユビキタス・コンピューティングのイメージはこうだった。

 コンピュータは、もはや個人が占有して持ち運ぶものではない。いずれは路上や街角、室内の天井、壁、扉、机、椅子などあらゆる場所にコンピュータが配され、それらコンピュータが相互に情報交換しながら、私たちの行動のちょっとした仕草をキャッチ、こちらが指示しなくても、自動的に意図をくみとって動くようになる。彼は「小は付箋紙、中は下敷き、大は黒板くらいの大きさの端末(コンピュータ)が、ひと部屋に何百も存在するようになる」書いている。

 人びとはケータイを使って電話し、メールを送受信し、買いものをする。駅改札口や建物の入口もケータイで通過できるようになるし、自宅の電化製品をリモート・コントロールすることもできる。家ではパソコンやテレビを使って必要な情報を得たり、発信したり、オンライン・ショッピングを楽しんだりする。インターネットにつながった電子レンジで今夜のメニューを選び、材料を近くのコンビニエンスストアにそのまま注文する。車を運転するときは、カーナビで近くのレストランを探す。

 要は、街を走る自動車、家庭の電子レンジ、洗濯機、身につける時計、メガネまで、あらゆるものにコンピュータが組み込まれ、それが同時にインターネットで結ばれるわけである。運転する車にセンサーを備えつけておけば、走行地点の渋滞状況、雨、雪、気温などの天気情報を収集し、それを発信もできる。センターが全国の車からのデータを集めれば、詳細な渋滞地図や気象データが得られるから、それらの情報を対価を得て提供することも可能である。

予言を上回る(?)スピード

 まさにワイザーの予言通りの事態が今、たぶん彼が予想した以上のスピードで進んでいる。これはこれですばらしいことに違いないが、一方で、このようなコンピュータらしくない端末によって、私たちの行動が知らないうちにさまざまに記録され、サイバー空間に蓄積されていくと、プライバシー上の問題がいよいよ深刻になるのも間違いないだろう。あるいはその時に、私たちはプライバシーについてまったく異なる感性をもつようになるのだろうか。

 ちなみに私が買ったのは、ディスプレイが21.5インチという大型で、本体はその裏に収まっている。キーボードやマウスは無線仕様のコードレスである。卓上に立てかけることもできるが、畳んでテーブルに横たえ、家族全員でタッチパネルでゲームも楽しめるという、デスクトップとは違うがノートパソコンでもない、むしろタブロイド端末に近い機種だった。それを私はデスクトップパソコンとして使い、この原稿を書いた。

投稿者: Naoaki Yano | 2014年03月11日 18:19

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