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2005年09月15日

情報化社会におけるディスコミュニケーション体系について(『情報処理』2003/12)

急に冷え込むようになった9月下旬の夜8時すぎ、都心から自宅の鎌倉に帰るJR横須賀線でのことである。立っている人はほとんどいないのに、横浜あたりから強い冷房が入り始め、あと少しだからと我慢して座っていたが、どうにも寒い。車両がグリーン車の一台前だったので、そちらに移って、そこだけでも冷房を弱めてもらおうと思ったが、すでに列車は戸塚も通り過ぎ、車掌はいなかった。

これでまた風邪がぶり返すのかと思うと、やはり腹立たしく、私はとうとう最後尾の車掌室まで歩いていって、「なぜこんな寒い日に冷房を入れるのか」と聞いた。若い車掌は「そうですか」と、あっさり冷房のスイッチを切った。「さっき、ちょっと混み合ったみたいだったので」と言うので、「ガラガラじゃないか。実際に車両をまわって、混み具合とか車内の温度とか自分で確かめてみたらどうか」と私は苦言を呈したが、列車はすでに鎌倉駅にさしかかっていた。

鎌倉から都心に出るのには小一時間かかる。私は、かねて車内の冷房の強さを警戒し、真夏日でも必ず上着を持参し、車内で着ていたし、弱冷房車を選んで乗ってもいた。ホテル、レストラン、劇場など、日本のように冷房を強くきかせる国はそうないと思うが、それにしても横須賀線の冷房はきつい。夏から秋にかけてが一番やっかいで、急に寒くなった日でも、カレンダーに合わせるかのように強い冷房が入っている。外でも寒いときに、なぜガンガン冷房を入れるのだろうか。

品川車掌区助役の話によると、横須賀線の車両が特別寒く感じられるのには理由があった。東海道線のようにまだ旧式の車両が走っているところでは、客が窓を自由に開閉できるが、横須賀線の新型車両は完全なはめ込み式で、窓が開かない構造になっている。したがって車内の空調は車掌しか操作できず、暖めるのも冷やすのも車掌の判断次第である(山手線や京浜東北線のような最新型になると、車内の温度は常に23度に保つように自動化されているらしい)。問題は、車掌が車内の状況を自ら確認して冷房を操作しているわけではないことである。言ってみれば、ヤマカンである。理由はよく分からないが、それが横須賀線の冷房をことさらきつくしているように思われる。

私に言わせれば、暑いのはなんとか我慢できるが、寒すぎるのは堪えられない。高齢者や弱者に対する配慮が薄れがちなのも困ったものだ。なんとなく釈然としない横須賀線の冷房システムである。

<釈然としないことが多すぎる>

釈然としないと言えば、こういうこともあった。

夏の暑い日の昼下がり、東京・神田に出向いた際、某銀行の支店が目当ての場所に見つからないので、自分の取引支店に電話して場所を確認しようとした。そうしたら「自動応答システムでご案内しています」という長い前置きのメッセージが流れて、「〇〇の要件は何番を押してください」という自動案内が続く。「個人の人は2番」というから2を押すと、さらに選択肢が現われて、業務内容ごとに残高照会は何番、ローンは何番というガイドが流れる。駿河台近くの支店の所在を知りたいだけなのに、とイライラしながら適当な番号を押したら、「コールセンターにおつなぎします。案内にそって番号とシャープを押してください」と来た。それから業務内容の案内が延々と続くので、私はうんざりして電話を切った。再度付近を捜し始めたが、どうしても見つからない。そこで近くの住人に聞いたら、その支店は統廃合で閉鎖されていた。

後にもう一度確認したら、業務内容の項の最後に「その他」という案内があり、その6番を押せば、午後5時までは支店の係と直接話ができると分かったが、やはり釈然としなかった。

釈然としないことが最近どんどん増えていくのが、釈然としないわけである。

テレビショッピングで健康機具を衝動買いしたときはこうだった。フリーダイヤルで電話すると「代金は品物を配達したときにいただくが、気に入らなければ1ヶ月以内に返品していい」と言う。ほどなくして品物が届いたが、使ってみて、これはダメだとすぐ分かった。テレビでは金属製の器具の主要部分がプラスティック製だし、ペダルも柔らかくて、テレビで宣伝している運動そのものが出来ない。明らかな模造品、欠陥品である。私はすぐ返品することにして、指定の電話番号を回したが、これが話し中でまったくつながらない。しょうがないので、注文用の電話番号に電話して事情を話し、先方から電話してくれるように頼んだ。

明日朝10時にお電話をさしあげます」というので待っていたが、電話はかかってこなかった。また注文用番号に電話して、やっと品物を返す手配が終わった。

責任者に「あれは欠陥品だ。自分で使ってみればすぐわかる」と話すと、「気に入らなければ返していただいて結構です。そうあらかじめ申し上げている」とのこと。「返そうとしても電話がつながらない。こっちが諦めてしまうのを待っているようなものだ」と私は抗議した。
 
同社の場合、注文を受ける電話は200回線用意しているが、断りの電話は15回線しかないという。製品価格は1万5000円程度だから、これだけ返品電話が通じなければ、かなりの人が諦めてしまうだろう。それを見越したような商法である。私はついでに「届いた器具とテレビで紹介しているものとは明らかに違う。テレビで宣伝している外国製ならほしいが、こういう模造の欠陥品を売るのは企業倫理にもとるのではないか」と言ったが、10月15日現在、同じ番組がテレビ放映されている。まことにもって釈然としない。

< 代表電話を104にも登録しない企業>

パソコンで使っているウィルス対策ソフトの場合はこんな具合だった。
 
使用中のソフトは何月になると使用期限が切れます、というメッセージが当該日の3カ月ぐらい前からパソコン画面に現われるようになった。まだ先だとは思うが、たびたびメッセージが現われるのが煩わしいので、ホームページにアクセスして所定の「購読キー」を買おうとしたら、「IDがちがいます」というメッセージが現われて、購読キーを購入できない。一方で、「まもなく期限切れです」という脅迫まがいのメッセージが画面上に連日現われる。

カスタマーサービスセンターに電話しても、いつも話し中である。いや、一度だけつながったことがある。ほっとしたのも束の間、「ご要望の方は次のボタンを押してください」という、例によっての自動案内が長々と流れて、5番目のボタンを押すと、「いまは混雑しているのでお待ちください」。十数分待たされ、結局、根負けして切ってしまった。

製品案内を送ってくる電子メールに返信して、購読キーを購入する方法を聞こうとしても、返信を受け付けない。本社のしかるべき部門に電話して聞こうと、NTTの104番で番号を聞いたら、なんとこれがカスタマーサービスセンターの電話である。本社の代表番号をNTTにも教えていない。振り出しに戻ったような気分である。ファクスして、こちらのファクス番号とメールアドレスを送るが、何の応答もない。何度かのファクスの後に、やっと担当者から電話があった。

聞けば、私の入力した番号は、IDとは別の製品番号だったらしいが、購読キーを買うには必ずしもID番号を入力しなくてもいいのだという。そこを空欄にしておけば購読キーを入手できたが、間違った番号を入力したのがいけなかったらしい。

私はいくつかのことを質した。①ID番号が必須でないのであれば、「IDが違う」と拒否せずに、そのまま購読キーを発行するようにプログラムを書き換えればいいではないか。②一方的に製品案内を送りつけるばかりで、そのメールへの返信を拒否しているのはなぜか。③ファクスへの応答がなかったのはなぜか。④104に本社の代表番号を知らせない理由は何か。⑤カスタマーサービスセンター、テクニカルサポートセンター、ユーザーサポートセンターと、いろんな部署があるようだが、その違いはユーザーには分からない。⑥つながらないカスタマーサービスセンターの電話事情をなぜ改善しないのか。

この結果をいちいち書くのはよそう。わずかに改善された部分はあるようだが、基本的な構造はいまも変わっていない。

これら「釈然としない」事例に共通するのは、ディスコミュニケーション、換言すれば、コミュニケーションの拒否である。横須賀線の空調には、客の希望が伝えられなくなっている。電話の自動応答サービスは、対人コミュニケーションを著しく制限している。ほんのひと昔前なら、支店の交換手がすぐ電話口に出て、当該支店の場所を聞けたはずである。「いやあ、なくなったんですか。銀行もたいへんだなあ」などと雑談もできただろう。健康器具の話は、ディスコミュニケーションを利用した商法のように思われるし、104にカスタマーサービスセンターの電話番号しか登録しないソフト会社は、製品を売るためにだけ情報ツールを使っているとしか思えない。個人ならともかく、客商売の企業がほとんどつながらないカスタマーサービス番号しか公開しないのは奇妙だが、104の担当者の話だと、代表電話を教えない企業が増えているのだという。

急速な情報化が進むなかで、巨大なディスコミュニケーション体系が広がりつつあるのは皮肉なことである。由々しき事態とも言えよう。

投稿者: Naoaki Yano | 2005年09月15日 14:03

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