新サイバー閑話(49)<折々メール閑話>②

山本太郎は男でござる

B は~い、こんばんは、またお会いしましたね。

  今日は映画ではなく、ほんとの話です。れいわ新選組の山本太郎代表がつい半年ほど前に獲得した衆院議員を、なんと辞職しました。どうしてそんなもったいないことをするんでしょうねえ。ちょっと驚きましたねえ。

 実は、太郎さんは6月の参院選が日本の将来を占う重要な一戦になると考えているんですね。どういうことでしょうか。記者会見でこんなことを言っています。

今度の参院選のあと3年間は、衆議院が解散されない限り国政選挙はなく、この参院選でいまの勢力分布が変わらないと、与党自民党にとっては消費税増税、改憲、防衛費増額、福祉切り下げ、何でもできることになる。だからいまこそ野党勢力を伸ばさないといけないのだが、野党陣営にそういう緊張感がない。だから自分は衆院議員の議席を捨てて参院選に打って出る、そのことで野党の沈滞ムードを打破したい。

 そういうわけで、いかにもいかにも、立派な決意ですねえ。

A 迫力満点、男ならしびれます。男の中の男ですね。正に捨身。無私無欲。あるのはこの国を変えたい一念のみ。こんな政治家が他にいるか! ええぞ、健さん。

B やはり映画の話になりましたねえ。高倉健もいいけれど、西部劇『真昼の決闘』の孤独な保安官、ゲーリー・クーパーもいいですねえ。美しい妻と結婚式をあげ、新婚旅行に出かけるときになって、かつて自分がつかまえた3人のならず者が街に戻ってくることになりました。タイミング悪いですねえ、あと一瞬知らせが遅ければ、何も知らずに新婚旅行を楽しめたのに、結婚式を終えて馬車に乗ろうとしたときに電報が届きます。

 ちょっと、写真見せてください。  

 奥さん役のグレイス・ケリーがきれいですねえ。この方は後にモナコ王妃になりました。クーパーも渋いですねえ。なんとなんと、彼は新婚旅行をやめて3人に対決する決意をしました。
 そのとき街の人はどうしましたか。クーパーがともに戦ってくれると思っていた人びとが次々に下りてしまいます。友人の一人で、ジョン・フォードの名作『駅馬車』で酔いどれ医者を演じたトーマス・ミッチェルがいい味を出していました。この人はフランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生』でも、物忘れの激しい主人公の叔父役を好演しました。

 ハイ、カメラさん、ありがとうございました。

 その友人がこう言いますねえ。「お前は新婚旅行に行けばいいんだよ。なんでとどまるんだ」。お前が戻ってくるから話が面倒になる、後のことはみんなで適当にやるから、と。

 このあたり、山本太郎の状況とだぶりますねえ。

 多くの人がこう言いましたよ。「衆議院で山本太郎に投票した人の気持ちを考えたことがあるのか」、「議員としての責任回避ではないのか」。

 太郎さんは言ってます。

衆院選で私は比例区で当選しました。比例区は山本太郎ではなく、れいわで投票してもらったから、私が衆院議員を辞めても、次点だった櫛渕万里さんが繰り上げ当選するので、れいわの議席が減るわけではありません。
だれも好き好んでせっかくもらった議員バッチなんかはずしませんよ。いまは大事な時期だから、私はもう一度、れいわの先頭に立って旋風を起こし、少しでもれいわの票を獲得、沈滞ムードの政局に風穴をあけたいんですよ。

 たしかに捨身ですねえ。空気を読みませんねえ。しかし西部の街の人びと同様、世間の風は冷たい。なんで新婚旅行に行かないんだ、いや、なぜ衆院議員をやめるんだなどと言ってますねえ。太郎さんの熱意に共感するような記事は新聞に出ず、テレビのドキュメンタリーで取り上げられることもないですねえ。これが映画なら、多くの人が拍手を送るところですねえ。

 クーパーは悪漢3人にたった1人で立ち向かい、見事にやっつけました。最初は夫の無謀な戦いに愛想をつかして汽車で去ろうとしていたグレイス・ケリーも車内でピストルの音を聞いた途端、無我夢中で汽車を降りて夫の戦いの場に戻り、夫の窮地を救いました。

 戦いが終わった後で街の人が集まってきますが、クーパーは保安官のバッジを捨て、拳銃も捨てて、少年が用意してくれた馬車に乗って街を去っていきます。敢然と闘う保安官を好演したクーパーはアカデミー主演男優賞をもらいました。

A 山本太郎は、役者として何不自由なく暮らせる生活をさらりと捨て、3年前にたった1人でれいわ新撰組を立ち上げました。何のため? この国を救うため。経済的にも衰退し、今や正義も無くなり、党利党略、利私欲のみの政治屋から日本を取り戻すためですね。

 だから今回の参院選は正念場です。知り合いの女性に山本太郎の記者会見の動画を送ったら「山本太郎は何でここまで頑張るのか。もうそんなに頑張らんでもいいよ〜って言いたくなる。バカな国民と政治家のために」という返信が来ました。

 しかし山本太郎も孤独ではない。『昭和残侠伝』シリーズの一つで、池部良が健さんに言います。「ご一緒、願います」。 こんなツイートもありました。「れいわ新選組山本太郎の衆院辞職には驚いたが、最も驚いたのは、参院選の比例区ではなく、負ければ終わりの『選挙区』から立候補することだ。背水の陣を敷くことで、今の自公維政権との対決姿勢を国民に分かりやすく示している。他の野党に今決定的に足りないのはこの政治的情熱ではないか」。

 若者がつくったらしい「れいわ応援ソング」もあります。

B ちょっと話が急転しますが、ダンテが『神曲』で描いた地獄は、すり鉢状をしていて、罪を犯した人びとの魂は、下に行くほど過酷な責め苦にあいますが、入り口の地獄の門付近に、地獄に堕ちるほど悪いことをしたわけでもなく、かと言って善行もしなかった「怠惰」な人びと、日本ならさしずめ沈香もたかず屁もひらずというような人びとが置かれている場所があります。そして地獄の門には「われを入るものは一切の希望を捨てよ」と書いてあるんですねえ。

 日本の将来に希望があるのかないのか。そう考えると、今日の話は、ほんとうは怖いコワい話でしたねえ。 

 もう時間来ました(^o^)。これは2022年5月の現実です。

 それでは、またお会いしましょう。さよなら、さよなら。

 写真は上から『真昼の決闘』のポスターから、グレイス・ケリー、
『昭和残侠伝』のポスターから、ボッティチェリが描いたダンテ『神曲』の地獄
(いずれもウィキペディアなどのウェブから借用。お礼申し上げます)

新サイバー閑話(48)<折々メール閑話>①

古典落語でござる

A 冒頭から嘆き節になりますが、日本人の劣化はここまで来たかと脱力しました。自民党議員が「ウクライナが日本に感謝していないのはけしからん」とツイッターした話です。みっともないの一言。これに対して、落語の「文七元結」を聞け!というきわめてもっともなツィートがあったのは救いでした。

 実はもう一つ、日本人の劣化を象徴する記事を先日の新聞で見つけました。どこかの地方自治体の担当者が困窮家庭向け支援金10万円、総額四千数百万をあやまってある個人の口座に振り込んでしまったのですが、その人はなんと変換を拒否していると。そもそも自治体職員の怠慢というか、無神経さに呆れるしかないのですが、この人にも志ん朝の「文七元結」を聞け!と言いたい。

 日本人は古典落語を聞かなくなってから、間違いなく馬鹿になりましたね。先程、改めて聞きましたが、ここにこそ、原日本人がいると思いました。

B この誤振込事件を聞いたとき思い出したのは、銀座で1億円だかの入った紙袋を拾って警察に届け、持ち主が半年たっても現れずに、そっくりもらえることになったタクシー運転手の話です。

 持ち主が現れた場合でも、慣行(どういう根拠かわからないけれど)によりその1割、1000万円はもらえるわけで、大金ではそうはいかないかもしれないが、とにかく、これは届けるに越したことはないわけですね。

 自分の通帳にたまたま1億円があやまって振り込まれたらどうするか、これを正直に申告した場合、送信した人は1割をくれるかどうか、ここは微妙ですね。そんなもの返すのが当たり前だと、左官の長兵衛さんなら言うだろうけれど、いまの役所の人が正直者の長兵衛さんにいたく感動して、「少ないですが、1割の謝礼を受け取ってください」、「べらぼうめ、国の大事なおかねじゃねえか、こちとら江戸っ子だい、そんなものを受け取ったら、近所の連中になんて言われるかわかっちゃもんじゃない」、「そう遠慮されても困ります。もともと私のお金でもないんで」、「じゃあ、家族会議をして‣‣‣、受け取ってもだれにも言わないでくださいよ。あっしが国のお金をくすねたなんて言われると、こまるんでねえ」‣‣‣、四千数百万円なら1割で四百数十万円だが、それを払うと役所が言えるようにも思えないし、まず何よりも、そういう素朴な道徳を失わせてしまう社会状況というのがあるのも確かですねえ。

 以前、白井聡が何かの本で「いまの若者は寅さんがおもしろいということがわからなくなっている」と書いているのを2人で話題にしたことがあったけれど、江戸っ子の啖呵の世界が懐かしいですね。ちなみに僕も「文七元結」は志ん朝ものを聞いているけれど、何度聞いても面白い。これを歌舞伎にした舞台を見たことがあるけれど、案外つまらないのでびっくりしたことがありました。

 おあとがよろしいようで。