林「情報法」(1)

執筆のご挨拶

 今回、旧友矢野さんのサイトをお借りして、この2月に上梓した『情報法のリーガル・マインド』(勁草書房)のその後の展開を「つれづれなるままに」、つまり不定期に、分量も定めず、しかも「その日の気分の赴くままに」書いても良いという、願ってもないお申し出を喜んでお受けすることにしました。

 私のこれまでの経験では、1冊の本を書き終えた後は虚脱感に襲われ、自著を素材にして次の文章を書く気にならない、つまり「少し休憩」したいところです。しかし今回は、やや異質の経験もしているので、矢野さんのオファーを素直にお受けする気持ちになりました。今回も「売れない本」を書いたことに変わりなく、少しでも売り上げを伸ばそうと、こちらからお願いして小グループの読書会的な会合を幾つか設定していただきましたが、その延長線上で学会のミニ・シンポジウムとして、この本を取り上げていただく企画が進んでいるからです。

 情報ネットワーク法学会の研究大会 (11月11日・12日、名古屋大学) の分科会の1つとして、偶然今年の2月にほぼ同時に発売された、松尾陽(編)『アーキテクチャと法』(弘文堂)と水野祐『法のデザイン』(フィルムアート社)に拙著を加えた3つの著作を俎上に上げて、多角的な議論を展開しようとする企画です。

 実は、これら3著に先行して1年前に出た、曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説』(有斐閣、2016年1月刊)や、上記企画のコーディネータである成原慧『表現の自由とアーキテクチャ』(勁草書房、2016年6月刊)を加えると、少なくとも「情報法」に関連する分野が、それ以前とは比較にならないほどのホットな話題になっていることだけは、疑いありません。

 このような変化の原動力は、言うまでもなく情報通信技術(ICT)の驚くべき進化と、それと裏腹の「法学の立ち遅れ」への気づき(awareness)でしょう。法学は、ことが起きてから(事後的に)対応するのがこれまでの伝統でしたが、ICTがドッグ・イヤーで進展を続けるとすれば、「事前的」(proactive)な対応を考えざるを得ないからです。これらの書物に共通する、アーキテクチャとかデザインという言葉は、事後対応で良ければ出てくるはずのない言葉で、そこに法学者の「あせり」と同時に、「何とかしたい」という気概も見て取ることができそうです。

 折角執筆の機会をいただいたので、11月の学会までは、その準備作業として検討する事項をリアル・タイムでお伝えし。分科会以降は、その模様を事後検証することで、とりあえず「その日暮らし」の本稿の、おおまかな予定としておきましょう。

 

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