東山「禅密気功な日々」(10)

天風とWillpower

 天風会認定・鎌倉の会から送っていただいた「鎌倉のいぶき」によると、中村天風は「五十、六十は花ならつぼみ、七十、八十は働き盛り、九十になってお迎えが来たら百まで待てと、追い返せ」と常々言っていたらしい。

 彼が上野精養軒近くの石の上に立って辻説法を始めたのは大正8年(1919年)6月8日、43歳の時である。今年が100年目にあたる。残念ながら天風は92歳で世を去ったが、おそらく死の直前まで旺盛な活動を続けていたのだろう。

 講演会で紹介された『成功の実現』という大部の演説集を読んでみたが、波乱万丈の彼の人生とともに、その人生哲学に大いに裨益された。潜在意識にたまる消極的観念を絶え間ない意志の力によって積極的なものに変えていくというのがその基本的考えだと思うけれど、これを読みながら、数年前ベストセラーになったケリー・マクゴニガル『自分を変える教室』(大和書房)を思い出した。マクゴニガルは米スタンフォード大学の気鋭の心理学者で、本書の原題はThe Willpower Instinctである。

 要は意志の力(willpower)の重要性を説いた本で、本書によれば、意志の力には以下の3つがある。

①I will(やるぞ) 自分の目標に沿うことを実行しようとする意志。
②I won‘t(しないぞ) それ以外のもの(誘惑や快楽など)を切り捨てる能力。やりたいことをやることを妨げるものをやらない力。
③I want(こういう人間になりたい) 目標をはっきさせる。自分のゴール(将来の夢)を具体的に認識する力。

 ここで言われているのとまったく同じことを天風が1世紀前に言っていたということである。彼もまた意志の力が大事だと力説し、メガネの曇りを拭い去るように、自分の心の中の曇り(消極的考え)を不断にチェックすることを説いた。とくに彼が自分の夢を真剣に、腹の底から願い、その具体的イメージを心にくっきり描くことを強調したのは、大いに学ぶべきことだと思われる。

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